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【法務情報】いわゆる「風評被害」というもの

 │ 新潟事務所, 弁護士和田光弘, 震災

 先日、テレビ報道を見ていたら、福島県内の皮革製品製造会社の震災後の状況を伝えていた。
 福島第一原発の事故前までは、ブランド会社の下請製品の製造が順調に拡大し、人員増も考えていたという。
 そこに、原発事故が起きた。
 経営者は、なんとか福島県内での操業再開をめざしていたものの、頼みのブランド会社から「放射能に汚染されているかもしれないバッグは売れない」ということで、製造委託がキャンセルになった。
 苦悩する社長は、泣きながら従業員に東京への移転を告げて、本格操業の再開となるまで解雇せざるを得なくなった。

 
 私が社外取締役を務めている新潟県内の製造会社でも、外国向け輸出製品の放射能検査を求められたと、社長から聞いている。
 汚染されていることがない、と分かっていても、出荷用の段ボールに、検査をした上での検査済み証明書を添付した、という。費用も、数万円で、それほど安くはない。

 
 今、原子力損害のなかで、いわゆる「風評被害」が問題になっている。
 「いわゆる」とつける理由は、本来その心配がないのに消費者や取引先が先回りをして購入や取引をやめるという心理的損害の意味で使われることもあるからだ。
 昔、管首相がカイワレ大根をむしゃむしゃ食べた宣伝用実演が行われたが、あれこそ風評被害への健全アピールにほかならない。
 しかし、こうした、純粋に心配し過ぎの「風評被害」ばかりとは言えないのが、今の原発事故だ。

 
 原発事故の損害をどのように算定すべきか検討している文科省の審査会での定義は以下の通りだ。
 「報道等により広く知らされた事実によって、商品又はサービスに関する放射性物質による汚染の危険性を懸念し、消費者又は取引先が当該商品又はサービスの買い控え、取引停止等を行ったために生じた被害」

 この被害を判定する基準は「消費者又は取引先が、商品又はサービスについて、本件事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が、平均的・一般的な基準として合理性を有していると認められる場合」としている。
 その結果、とりあえず、福島県内の農林水産業における食物全て及び観光関連事業が対象となり、前年度比較での営業利益の減額が認められれば、その損害は認められることになりそうだ。

 
 しかし、それはいつまでなんだろうか、という新たな疑問がわく。
 原発事故の収束までと考えられるが、いったん汚染された地域での放射性物質の影響は、放射性物質の種類にもよるが、セシウム137ということであれば、除染されない限り、100年とも言いうる(いわゆる放射能の力が半減するのが30年だからだ)。
 気が遠くなる話だ。
 むろん、そのような永遠に近い損害賠償は無理だろう。 

 
 さらに、福島県外の産物や事業はどうなるのだろうか。
 この点の結論はまだ出ていないし、実際には、茨城、群馬、千葉、静岡にまで広がりを見せている。観光で言えば、関東・東北至る所での損害は拡大し続けている。

 
 冒頭に報告した皮革製品の製造会社の選択(東京移転)による損害は補償されるのだろうか。
 事業経営は、消費者心理を先読みするところから始まる。 「平均的・一般的な基準としての合理性」などの遥か先を読まなければ、じり貧になるだけである。
  それを分かっていても、法律家として「合理性」を主張するとなると、国の基準をあてにしていても、自分の企業を守ることはできない、というのが、本音だ。

 
 「口惜しい」という経営者の声や労働者の声が聞こえてきそうだけれども、これが、原発事故の被害の実態だろう。

 
 電気供給という大きな問題の議論が冷静になされなければならないと言う経済評論家や経済団体の論議が分からないわけでもないが、原子力被害にブレーキをかける方法を確立していないと、この悲劇は繰り返される。この点に限って言えば、今のところ、ブレーキの方法は確立していない。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 和田 光弘◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2011年6月30日号(vol.81)>

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