【法務情報】借用書をなくしてしまったら??
~相談例~
「昨年,友人に100万円を貸しました。念のため借用書をとっておいたのですが,最近,自宅が火事になり,借用書を紛失してしまいました。私は友人からお金を返してもらえないのでしょうか。」
~はじめに~
契約の際に,借用書を作成していたとても,思わぬきっかけでこれを紛失してしまうことはありえます。今回はこのような事態に対処するための方法を考えていきます。
~そもそも借用書等の効力って??~
たまに相談者の方で,借用書をなくしてしまうとお金を返してもらう権利自体が消滅してしまうと思っている方がいらっしゃいますが,それは誤りです。
借用書をなくしても権利自体はなくなりません。
ただ,借用書がないと,相手が約束どおりに返済してくれない場合に,困ることになります。
なぜなら,いざ裁判等でお金の返還を要求した場合に,お金を貸し借りした事実及びその内容を証明することが難しくなるからです。
つまり,借用書はお金を貸し借りした事実及びその内容を証明する証拠として重要な意義をもっているのです。
~借用書を紛失したら??~
では借用書を紛失したらどのように対処すれば良いのでしょうか。
1 もう1通ないか確認
借用書はあらかじめ2通作って,当事者が各自1通ずつ保管しておく場合があります。このような場合,自分の契約書等をなくしても相手が持っている契約書等を利用して,貸し借りの内容等を証明することが可能です。
相手が任意で開示してくれない場合には,裁判の中で裁判所を通じて開示を求める方法もあります。
2 借用書以外の証拠を探す
借用書を2通作成していなかった場合には,借用書以外の方法で貸し借りの内容を証明することができないかを考えることが重要になります。
領収書,振込・入金記録,契約の際に立ち会った人の証言,当時の日記・メモ,など関係のありそうなものはできるだけ多く集められるとよいでしょう。
ただ,こうした借用書以外の証拠の場合,利息・延滞金の約定についてまでは証明できないことが多いので注意が必要です。
3 確認書を新たに作成する
相手方が応じてくれればですが,契約内容を確認する書面を新たに作成することも有効です。
その際には最低限,①当事者,②契約日時,③金額,④返還を約する文言,⑤返済期限(あれば)⑥金銭の授受が行われたことが分かる文言,⑦作成日時,⑧作成者の署名・押印は盛り込んでおきましょう。
例:「①私はXさんから,②平成●年●月●日に,③金100万円を,④⑤平成■年■月■日までに一括で返済するとの約束で借り,⑥前記契約日にこれを受け取ったことを確認します。
⑦平成△年△月△日 ⑧借太郎 印」
また,確認書を作成してもらうときは,後になって,無理矢理書かされた等と言われないよう,注意することが必要です。作成時に中立の第三者を立ち会わせるなどするとよいでしょう。
4 会話の録音は??
相手が「返済を待ってくれ」「必ず金は返す」等と言っている会話を録音した場合,この録音データは1つの証拠とはなり得ますが,証拠としての価値は必ずしも高いものではありません。
そもそも,会話の中で相手が3で述べた①~⑥の各要素を盛り込んだ話をすることは期待できませんし(先ほどの例だと何らかの金銭の返還を約束した事実しか証明できない),無理矢理言わされた,編集で都合の良い部分だけを切り取ったなどといって争われる余地もあるからです。
5 勝手に作るのはもちろんNG
いうまでもありませんが,借用書をなくしたからといって,勝手に作成するのは同じ内容であってもNGです。もし勝手に作成した場合,有印私文書偽造罪として刑事罰を受ける可能性があります。
~さいごに~
このように,借用書を紛失した場合でも,とりうる手段はあるので諦める必要はありません。
とはいえ,借用書を紛失することは大きなマイナスであることに変わりはありません。
借用書を作ったからといって安心せず,万が一紛失した場合まで想定して,借用書を予め2通作って各自保管する,借用書以外の証拠をできるだけ残すなど,できる限りの措置をとっておくことが大切といえるでしょう。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 渡辺 伸樹◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2013年7月1日号(vol.129)>