【法務情報】消費税増税に伴う新たな法規制
1 消費税転嫁対策特別措置法とは
消費税率が平成26年4月1日から8%,平成27年10月1日から10%に,段階的に引き上げられます。
消費税は事業者が納付する税金ですが,価格に上乗せされて最終的には消費者が負担する仕組みになっています(これを消費税の転嫁といいます)。つまり,消費税の転嫁が円滑に行われないと,事業者が不利益を被ることになります。
消費税増税にあたっては,このような事態を防止し,消費税の円滑な転嫁を促進するために,いわゆる消費税転嫁対策特別措置法が制定されました。
今回はこの消費税転嫁対策特別措置法に焦点をあてて解説いたします。
2 2つの新たな規制
この法律では,消費税の円滑な転嫁を促進するため,(1)特定事業者による転嫁拒否等の行為の禁止,(2)消費税の転嫁を阻害する表示の禁止,という2つの規制が設けられています。
3 特定事業者による転嫁拒否等の行為の禁止
1つめの規制として,「特定事業者」が,商品やサービスを供給する側の事業者(特定供給事業者)に対して消費税の転嫁を拒否する等の行為をすることが禁止されます。
「特定事業者」には,大規模な小売業者(前年度の売上高が100億円以上の事業者,東京都特別区・政令指定都市で店舗面積3000㎡以上の店舗を持つ事業者等)だけでなく,中小規模の小売業者であっても,資本金等の額が3億円以下の事業者や個人事業者から継続して商品(サービス)の供給を受ける事業者であれば該当しますので注意が必要です。
禁止される転嫁拒否等の行為としては以下の4類型があります。
①減額または買いたたき
例えば,平成26年4月1日の消費税率引上げに際して,消費税を含まない価格が100円の商品について,消費税率引上げ後の対価を108円として契約したにもかかわらず,支払段階で合理的理由なく消費税率引上げ分の3円を減じ,105円しか支払わない場合などです(減額の例)。
108円を一旦支払うものの,合理的理由なく3円をキックバックさせることも禁止されます。
②商品購入,役務利用,利益提供の要請
例えば,消費税率引上げ分の上乗せを受け入れる代わりに,取引先にディナーショーのチケットの購入,自社の宿泊施設の利用等を要請する場合などです(商品購入,役務利用の例)。
③本体価格での交渉の拒否
価格交渉の際に消費税を含まない価格を用いる旨の申出を拒むことも禁止されます。
④報復行為
特定事業者から①~③の行為を受けた事業者が,各種行政機関に対して通報したことを理由に,不利益な取り扱いを行うことは報復行為として禁止されます。
4 消費税の転嫁を阻害する表示の禁止
2つめの規制として,事業者が宣伝や広告をする場合に,あたかも消費者が消費税を負担していないかのような誤認を消費者に与える表示をすることが禁止されます。
この規制は先の「特定事業者」という限定がなく,すべての事業者に対して課されます。
先ごろ公表された消費者庁のガイドラインによれば,具体的には次のような表示が禁止されることになります。
・「消費税は当店が負担しています。」
・「消費税還元セール」
・「当店は消費税増税分を据え置いています。」
・「消費税相当分,次回の購入に利用できるポイントを付与します。」
・「消費税増税分を後でキャッシュバックします。」
消費税を転嫁していない旨を直接表示することだけでなく,消費税に関連して利益を提供する旨の表示も禁止されるのがポイントです。
一方で,以下のように消費税との関連が明らかでない表示や,たまたま消費税率(増税分)と一致するだけの値下げ表示は,基本的には禁止される表示にあたりません。
・「春の生活応援セール」
・「3%値下げ」
・「8%還元」
5 最後に
消費税転嫁対策特別措置法に違反した場合には,勧告・公表の措置がとられることがあります。
同法の運用に関しては,すでに政府からガイドラインが公表されており,セーフとアウトの線引きがある程度明確にされています。
対象となる事業者の皆様におかれましては,余裕があればこれらのガイドラインを一読し,来たる増税にそなえて万全の体制を整えておくとよいでしょう。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 渡辺 伸樹◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2013年10月1号(vol.135)※一部加筆修正>