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【法務情報】年金消失について

 │ 新潟事務所, ビジネス, 弁護士古島実

 年金消失の問題には二つの問題が含まれていると思います。

 

 一つ目は,厚生年金基金による運用代行において,運用の失敗による損失の第一次的な帰属先は事業主(個人営業であれば事業主個人,会社であれば会社)であること,そして,それを事業主があまり認識していなかったこと,二つ目は,それゆえ,基金の運用先について損失の帰属先である事業主が十分に監視監督していなかったことだと思います。

 

 問題の一つ目です。厚生年金保険法には基金による運用代行についての定めがあり,基金に加入する事業所が基金から脱退したり,基金が解散したりすると,支給の義務は連合会に引き継がれ連合会が基金に代わって受給者に年金の支払いを行います。

 
 しかし,脱退や解散があった場合に基金は連合会に対して,連合会に引き継がれる義務の価格に相当する金額を連合会に支払わなければなりません(法160条161条)。そして,これに対応して,事業主は連合会に対して,これに見合う金額を一括で支払う義務があります(法138条5項6項)。運用に損失が発生して,基金のお金が少なければ,それだけ事業主の負担が大きくなることになります。基金や事業主に十分な資力があればよいのですが,そうでなければ脱退も解散も困難になります。

 
 このようなことは既に厚生年金保険法の条文からすれば容易に想定できます。基金運用の失敗を事業主が負担することが周知されていたかが問題だと思います。

 
 問題の二つ目です。年金消失という問題が顕在化し,試しにAIJとインターネット検索をしてみたところ,AIJのホームページがあり,そこに平成22年の事業報告書が掲載されていました。この事業報告書は平成23年3月28日提出なので問題が顕在化する前からこの事業報告書が掲載されていたと考えられます。

 
 そこには,経営状態の報告として決算書等が掲載され,役員4名,従業員8名,営業収益7900万円,人件費2億3100万円,営業損失2億6900万円,営業外収益3億3400万円,経常黒字,未収入金3億2800万円との記載がありました。

 

 AIJが運用を請け負っている投資一任契約の内容として,国内は120件(うち年金118件)1832億円,海外は2件2069億円で,「国内の運用資産総額の殆どは当社と投資一任契約を締結する海外管理会社が設定する外国籍私募投資信託を対象としています。」との注書きがあります。海外の投資一任契約2件が国内の運用資産に匹敵するのでこの「投資信託」に当たるかは不明ですが,AIJが集めた年金資金の殆どは自ら運用することなく外国籍の投資信託に丸投げされたことになります。そして,この外国籍の投資信託が何に(株,債券,現物,先物等)投資しているのかは事業報告書上不明です。

 
 AIJ自身の運用内容についても記載があり,現物資産については,株式,公社債券は保有せず,受益証券のみで,これはおそらく,上記外国籍の投資信託のことだと思います。

 
 現物資産以外では,株式先物取引が約定で2267億円,公社債券先物取引は約定で18兆4776億円,株式オプション取引が約定で2兆833億円,公社債券オプション取引が約定で36兆2903億円と書いてあります。集めたお金の何倍にもなる金額ですが,約定ベースなので,100億円の取引を100回すれば約定で1兆円になりますし,先物取引等では10億円を元手にその10倍の100億円の取引もできます。

 
 以上のことから,AIJは,少数の従業員で,営業収益の3倍を超える2億3100万円の人件費を支払い,多額の営業赤字を多額の営業外収益で黒字化し,営業外収益に匹敵する未収入金が計上されているという通常の会社としては考えられない決算を行い,年金資金の運用を受託しておきながらその殆どを外国籍の私募投資信託に丸投げし,自ら運用するとしても債券現物,株式現物の保有といった原則的な運用をせずに,先物取引等の極めてリスクの高い取引を頻繁に行っていたことが明らかになっています。多額の営業外収益が運用を受託した年金資金との利益相反行為によってもたらされていることが心配されます。

 
 いつから,このような状態なのかは分かりませんが,このような状態であることが公表されていたのです。にもかかわらず,多額の資金をAIJに託してしまったことには驚きです。運用の損失は事業主が被るということが明確にされていれば,事業主の基金の運用に対する監視監督が強化され,運用先の選定にもう少し慎重になったのではないかと思います。

 

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 古島 実◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2012年5月15日号(vol.102)>

 

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