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【法務情報】不動産業者が土地を売買してはいけない場合

 │ ビジネス, 弁護士大橋良二, 新発田事務所

1 福岡高裁平成24年3月13日判決

今回は,平成24年3月13日の福岡高等裁判所での判決について紹介します。

 

2 事案の概要

事案は,簡略化すると以下のとおりです。 

  
不動産業者Yが,買主AさんにB土地の購入を勧め,AさんがB土地を2100万円で購入すると承諾しました。

 

その後に,不動産業者Yが所有者Xから1500万円でB土地を買取り,同じ日に,その不動産業者Yが,B土地をAさんへ,2100万円で売却したというものです。

 

要するに,B土地は,X→Y→Aへと同じ日に転売され,XからYへ売却されるときには,すでにYからAへの転売が決まっていたというものです。(実際には,所有者と訴えを起こした者が親子関係にあり,相続を含むなど,もう少し複雑ですが,便宜上,事案を簡略化しています。)

 

3 利益を得たYと損をしたX

不動産業者Yとしては,転売差額の600万円を手に入れることができました。

 

これに対し,Xからすれば,もともと2100万円でAに売却できるのであれば,直接,Yに2100万円で売却したのに,Xに1500万円でしか売却できなかったことになるので,当然,不満が残ります。

 

もともと転売先があるなら不動産業者には売らなかったので,差額分の600万円の損失が生じたから賠償しろ,というのがXの言い分です。

 

そこで,売主Xが,不動産業者Yに対し,誠実義務違反や善管注意義務違反があるとして,Yに対し,差額の600万円を支払えと主張して裁判を起こしたのが本件訴訟です。

 

4 裁判所の判断

 

結論からいうと,第一審の裁判所では,原告Xの請求が棄却されて,不動産業者Yの完全勝訴でした。ところが,第二審では逆転して原告Xの完全勝利の判決が言い渡されました。

 

理由としては,宅建業法で46条では,宅建業者による代理または媒介における報酬について規制しているところ,これを超える契約部分は無効であり,不動産業者は,宅建業法31条1項により信義誠実義務を負うことからすれば,宅建業者がその顧客との媒介契約によらずに売買契約により不動産取引を行うには,媒介契約ではなく,売買契約によるべき合理的根拠を備える必要があり,それがない場合には,宅建業者は,売買契約による取引ではなく,媒介契約による取引に止めるべき義務がある,と述べました。

 

判決文なので一文が長いですが,要するに,仲介ではなく売買にするなら,合理的根拠が必要であり,なければ違法というものです。

 

5 不動産業者の主張

 

ちなみに,不動産業者側は,仲介ではなく売買にする利点があると主張して,以下の3つの根拠を主張していました。

 

1つ目は,スピード(契約成立から決済までの期間が短縮できる。),2つめは,確実性(即金一括払いで各種停止条件,解約等のリスクが低い),3つめは,安心感(商品化するまでのコスト,労力等がなく,瑕疵担保責任等の売却後の紛争発生のリスクが低い。)と主張しました。

 

6 不動産業者の主張を排斥

 

ところが,本件で裁判所は,これを退けました。1つ目のスピードという点では,売主が売却したい意向を示してから,実際に本件の売買が行われるまでに約9か月程度が経過しており,媒介ではなく売買で行うことについてスピードの利点はないと判断しました。

 

また,2つ目の確実性についても,本件では,売買と転売が同時に行われているので,転売までは,不動産業者が契約しないとする余地があったために,この利点はないと判断しました。

 

残る3つ目の安心感についても,現状有姿のままで取引され商品コスト等が不要であることや,瑕疵担保責任の点についても,瑕疵担保責任が発生する可能性のある事項については,媒介の場合でも,重要事項説明書や特約に記載することで対応できるため,利点はないと判断しました。

 

このような理由で,裁判所は,不動産業者側の主張を排斥して,600万円の請求をほぼ認めた上で,本来,媒介をしていたら所有者Xが支払う必要のあった媒介手数料72万4500円を差し引いて,527万5500円の請求を認めたものです。

 

7 まとめ

 

一般論としては,売買の3つの利点があることが普通でしょうから,売買に合理的理由があると認定されることが多いように思われます。(そうでないと,不動産業者は,買取りができなくなってしまいます。)ただ,不動産業者が,単に転売利益という名目で,宅建業法46条よりも多く報酬をもらうためだけに,売買としたような場合には,合理的理由がないということで,許されないということでしょう。

 

ちなみに,不動産業者側は,最高裁へ上告(及び上告受理申立て)していますので,最終的な最高裁の判断はまだ下されていません。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 大橋 良二◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2013年2月15日号(vol.120)>

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