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職務発明に関する法改正

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職務発明に関する法改正

 

 

1 職務発明規定とは

 

特許法35条は,会社の従業員が職務上の発明をした場合のことを定めています。

職務発明といえば,

2014年にノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏の青色発光ダイオードの特許に関する

会社側との訴訟が話題になりましたね。

 

現行法では,職務発明について特許を受ける権利は,

発明をした従業員にあることが前提になっています。

もちろん,従業員から特許を受ける権利を会社が承継することは可能です。

 

ただし,会社が特許を受ける権利を承継する場合には,

発明をした従業員に「相当な対価」を支払わなければならないことが定められています。

現行法では「対価」とは,金銭を意味します。

中村修二氏も最終的には会社から数億円の対価を受領しました。

 

もちろん,「相当な対価」とは発明の内容などを総合評価して,

個別に決められることになりますが,どのような基準で定めるか,

事前に会社と従業員との間で協議しておくと,従業員との紛争を防止することが期待できます。

 

さらに,現行法においても,

「対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業員等との間で行われる協議の状況,

策定にされた当該基準の開示の状況,

対価の額の算定について行われる従業員等からの意見の聴取の状況を考慮して,

その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであってはならない。」

と定めており,従業員を保護しています。

 

 

2 改正

 

今度の法改正により,変わるのは大きく2点です。

 

1点目は会社側があらかじめ職務発明規程等に基づいて,

従業員の職務発明の特許を受ける権利を最初から会社に帰属させることができるようになります。

 

ただし,当然ながら,職務発明をした従業員への報酬が必要になります。

これが「相当な対価」から「相当の利益」に変更されました。

つまり,金銭以外のものでも,経済的価値を伴うものであればよい,ということになりました。

これが2点目です。

 

では,具体的に経済的価値を伴うとはどのようなものでしょうか。

特許庁が示す例は,以下のとおりです。

 

使用者等負担による留学の機会の付与,

つまり,留学費用を会社が支出してあげる点で経済的価値が伴います。

 

ベンチャー企業などにおいては,

ストックオプション(値上がりが期待される新株の取得権)の付与,

 

金銭的処遇の向上を伴う昇進又は昇格,

つまり,名ばかり管理職にした程度では駄目で,

「相当の利益」に見合うベースアップがあることが前提になります。

 

法令及び就業規則所定の日数・期間を超える有給休暇の付与,

 

職務発明に係る特許権についてのライセンスの許諾などです。

 

このような具体例のとおり,

従前金銭でしか評価できなかった発明による報酬が柔軟に検討できるようになりました。

 

また,退職者に対する「相当の利益」についても,

内容について制約がないことから,退職者に相当の利益を退職後も与え続けることの他,

特許登録時や退職時に相当の利益を一括して与える方法も可能です。

 

 

3 ガイドライン(指針)案

 

「相当の利益」をどのような基準で定めるか,

という点が実質的に検討されていないと紛争に繋がってしまうおそれが残ってしまいます。

改正法においても,現行法と同様に「不合理と認められるものであってはならない」と定めています。

 

そこで,特許庁では,基準の定め方について,ガイドライン案を開示しています。

このガイドライン案によると,

まずは,従業員と基準案について協議すること,

②基準案を従業員へ開示すること,その基準に基づいて相当の利益が決定した場合に,

③従業員の意見聴取(異議申立手続を含む)の機会を与えることが求められています。

 

①の協議については,合意までは求められていませんが,

実質的に協議を尽したといえることが望ましいとされています。

 

②の開示の方法は,特に制約はありませんが,

従業員の見やすい場所に掲示するという単純な方法や電子メールなどにより配信する方法などがあります。

より具体的には,会議室や社員食堂に基準を置いておくなどの方法でもよいようです。

 

また,中小企業の場合は,

③の異議申立手続が整備されていなくとも,従業員の意見を聴取したうえで,

意見の相違があった場合には,個別対応によることも許容しているようです。

 

また,従前あった基準を改定する場合にも,会社側と従業員が協議することが求められています。

職務発明に係る権利が会社側に帰属した時点で,従業員の「相当の利益」の請求権が発生するので,

会社側に帰属した後で改定された基準は,原則として適用されません。

 

ただし,従業員と個別に合意できた場合や,

改定後の基準が従業員に不利益にならない場合は,

例外的に改定後の基準を用いることも許容されるようです。

 

さらに,基準改定後に入社する社員については,

形式的には協議が行われていないと評価されるようです。

そのため,入社時に当該基準に関する話をするなどの丁寧な対応をしておくことが望ましいでしょう。

 

 

4 施行日

 

職務発明に関する改正法の施行日は平成28年4月1日と定まっています。

施行後には,経済産業大臣が正式なガイドラインを告示しますので,

これを参考に従業員との紛争にならないような基準を検討してみて下さい。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 中川 正一◆

<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2016年2月1号(vol.188)>

※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

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