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社会で実際に起こった、事例や改正された法律をふまえ、法律に関する情報をご紹介します。

「食べログ」裁判から感じること(弁護士:上野 祐)

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この記事を執筆した弁護士
弁護士 上野 祐

一新総合法律事務所
弁護士 上野 祐

一新総合法律事務所 新潟事務所所属

私には、先天的な病気が原因で弱視や視野狭窄の視覚に障害があります。それでも、自分の能力を生かして人のために働きたいとの信念をもって弁護士となりました。
私が、障害により日常多くの不自由を感じているように、価値観が多様化する現代において、社会に多くの不自由を感じておられる方も多いかと思います。どのような法的支援ができるかは事案によりそれぞれですが、皆様と共に最善の解決を考えていければと思っております。

1 はじめに

まだまだ新型コロナウイルスには注意が必要な状況ですが、当初と比べて感染予防に対する考えも変わってきています。

 

最近では、家族や友人、恋人と一緒に飲食店で食事をしたり、会社によっては、小規模な飲み会を開催しているところもあるかと思います。

飲食店を探す際に役に立つのがグルメサイトで、多くの方が利用されているかと思います。

 

今回は、大手グルメサイト「食べログ」の評点変更問題をめぐる裁判を紹介したいと思います。

 

2 「食べログ」評点変更問題とは?

 

「食べログ」評点変更問題とは、2019年5月、「食べログ」の評点を決めるアルゴリズム(計算手順)の変更が、独占禁止法に違反するとして、焼き肉チェーン店が損害賠償を求めた裁判になります。

昨年6月、第1審(東京地方裁判所)は、焼き肉チェーン店側の主張を一部認めて、およそ3800万円の賠償を命じました。

 

「食べログ」の運営会社側は、第1審の判断を不服として控訴し、さらに第1審の判決の内容について閲覧制限を申し立てました。

そして、本年1月、裁判所が閲覧制限とする範囲を決定し、判決の内容が明らかになりました。

 

第1審判決によりますと、問題となったアルゴリズムの変更とは、チェーン店の「認知度の調整」をするという内容でした。

しかし、対象となるチェーン店として、フランチャイズ店は対象になるのに対して、ファミレスやファストフード店は調整の対象にはなっていませんでした。

そのような調整の結果、対象となった焼き肉チェーン店の評点が低下し、その影響で来店者も減少した、と第1審は認定したわけです。

 

グルメサイトの評点と聞くと、「飲食店の利用客が、主観的な感覚で評価した点数が蓄積したもの」というイメージがあるかと思います。このような調整が介入することで、チェーン店のみ評点が低下するという影響を受けるという結果は、チェーン店にとっても、消費者にとっても意外に感じるのではないでしょうか。

 

3 判決のポイントは何か

先に説明したとおり、「食べログ」のアルゴリズム変更は、独占禁止法に違反すると判断されました。

 

独占禁止法と聞くと、カルテルとか談合をイメージするかもしれないですが、本件で問題となったのは、「不公正な取引方法」という禁止類型のうち「優越的地位の濫用」と呼ばれるものです。

 

飲食店にとってグルメサイトに登録することは、いまや営業上必須であり、「食べログ」が大手であることからすれば、飲食店からみれば「食べログ」の運営会社の立場は「優越的地位」に当たること自体に問題はないと考えられます。

 

そこで問題となるのは、「食べログ」の運営会社が、その優越的地位を「濫用」したと言えるかが問題となるわけです。

独占禁止法は、「濫用」の一つのパターンとして、「不当に差別的に取り扱うこと」を挙げています。

 

結局のところ、「不当」なのかどうか、「差別的」と言えるのかに争点は集約されるのだろうと思います。

 

この議論は本当に難しい問題です。

それは、男女差別の問題、障がい者差別の問題をはじめ、世の中には、区別が「不当」なのかどうか、「差別的」と言えるのか、様々な議論がなされていることからも分かるかと思います。

 

この議論で重要なポイントは、「目的達成のために合理的な手段と言えるのか」を考えることです。

そもそも、何の目的もなく区別すれば、「不当な区別で差別的」だと言えるでしょう。

また目的はあっても、それを達成するのに合理的な手段でないとすれば、やはり「不当な区別で差別的」と言わざるを得ないと思います。

 

では、「食べログ」のアルゴリズム変更は、何が目的だったのでしょうか。

 

とても気になるところですが、この点については、第1審判決内容の閲覧制限の対象となったため、明らかにはなりませんでした。

 

しかし、結論としては、第1審は、アルゴリズムの変更は、目的達成のため不合理な手段であったと判断したことになります。

 

4 「食べログ」裁判を通じて感じること

本裁判については、不服申立ての手続きが取られたことで控訴審の判断に委ねられることになりました。

大手グルメサイトをめぐる裁判でもあり、世間からも注目が集まるでしょうし、飲食業界に与える影響力も大きいと思います。

 

司法判断はともかく、消費者の一人として感じることは、ネットで現れる数値に踊らされているのではないか、ということです。

考えてみれば、同じ飲食店であるのに、最低評点1をつける人もいれば、最高評点5をつける人もいます。

そのようにして決められた評点を気にしすぎる消費者にも問題があるように感じます。

 

もちろん、美味しい店で食事をしたいという気持ちは当然ですが、それは実際に自分で食べてみなければ分からないことだと思います。

仮に、「イマイチだった」という感想であっても、それもまた良い思い出と考えるくらいの寛大な気持ちも大切なのかもしれません。

 


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最高裁判所が違憲判決を出しました!(弁護士:上野 祐)

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この記事を執筆した弁護士
弁護士 上野 祐

一新総合法律事務所
弁護士 上野 祐

一新総合法律事務所 新潟事務所所属

私には、先天的な病気が原因で弱視や視野狭窄の視覚に障害があります。それでも、自分の能力を生かして人のために働きたいとの信念をもって弁護士となりました。
私が、障害により日常多くの不自由を感じているように、価値観が多様化する現代において、社会に多くの不自由を感じておられる方も多いかと思います。どのような法的支援ができるかは事案によりそれぞれですが、皆様と共に最善の解決を考えていければと思っております。

1 はじめに

今回は、憲法のお話です。

 

2022年5月25日、最高裁判所は、在外邦人(外国に居住する日本人)に最高裁判所裁判官の国民審査を認めていない法律は、憲法に違反するとの判決を言い渡しました。

 

日本国憲法が1947年5月3日に施行されてから75年となりますが、違憲判決が言い渡されるのは、今回を含めて11件となります。

 

今回は、滅多にみられない違憲判決がありましたので、法律が憲法違反と判断されることの意味と、今回の判決の意義を説明していきたいと思います。

 

2 法律が憲法違反となるのはどうして?

法律が憲法に違反する、というのはどういう意味なのでしょうか。

 

その説明の前に、まずは、どうして法律が必要なのかについて簡単に説明します。

 

私たちは、常日頃、様々な社会活動・経済活動を行っています。

もちろん、自由な活動は大切ですが、無制限に自由な活動を認めると社会が混乱しますので、法律をもって規制するわけです。

例えば、車の運転を自由きままに認めると危険ですから、道路交通法によって免許を持つ人だけに運転を認め、交通ルールを定めているわけです。

 

このように、法律は、人の自由な活動を一定程度制限することで社会の秩序を維持していると言えるわけです。

 

では、どうして、社会の秩序を維持してくれている法律が、憲法に違反することになるのでしょうか。

法律を制定するにあたっては、様々な人の利害対立を調整する必要がありますので、ある人にとっては便利(有益)な内容であっても、他の人からみれば不便(不利益)な内容となっていることが通常です。

その是非は別にしても、法律によって利害調整を図られるわけです。

 

法律は、国会で制定されるわけですが、私たち国民の選挙による国会議員の多数派によって決定されるため、多数派の意向に沿った内容になることが多いのが実情です。

結局、どのような制度・規制によって日本の秩序を維持するのか、多数派の意見によって政治的に決められるわけです。

もし、現在の制度や規制に不満があるのであれば、政治活動によって多数派となり、あるいは多数派に働きかける等の政治的な活動によって実現する必要があるわけです。

これが民主主義の根幹ともいえる原理原則と言えます。

 

ただ、このような民主主義の原理原則は、多数派が、言わば「数の力」によって、少数派の自由を、許容できない程度にまで制限する危険を含んでいます。

その歯止めとなるのが違憲審査という仕組みです

憲法によって国民の人権を保障し、国会や行政から独立した裁判所によって国民の人権がきちんと保障されているのかをチェックして、もし許容されない事態に至っていれば、裁判所が「憲法違反」という判断を示して、法律を無効にする仕組みを取り入れたわけです。

 

つまり、「数の力」により制定される法律は万能ではないので、少数派の人権を憲法をもって保障し、裁判所によりチェックさせることにしたわけです、分かりやすい例を挙げますと、第2次世界大戦前、ナチスドイツは、法律によってユダヤ人を迫害したわけですが、今では許されないことが当たり前のはずのユダヤ人迫害が、「法律」の名の下で実際に行われていたわけです。

もし、憲法によって人権がきちんと保障され、裁判所によるチェックがきちんと行われていれば、ユダヤ人迫害という悲惨なことにはならなかったかもしれません。

 

法律が憲法に違反することを認める仕組みを「違憲審査の制度」とも呼ばれますが、この仕組みは、私たちの人権を護るうえで、とても重要であると言えるわけです。

 

3 どのような憲法違反があったの?

とは言え、憲法違反の判断は、極めて限定的であるのが実情です。

 

全国では、民事訴訟だけでも毎年47万件以上の新規案件が受け付けられていますが、違憲判決は、過去11件に過ぎず、いかに数が少ないかが分かります。

ただ、それは当然の話であり、安易に憲法違反を認めると、国民によって選ばれたわけではない裁判所(裁判官)が制度設計に関与する結果となり、民主主義に反してしまうからです。

そのため、違憲判断は、限定的になっているわけです。

 

過去、どのような違憲判断があったのか、少し触れたいと思います。

 

有名なところとしては、衆議院議員選挙において「一票の格差」が著しい程度にまで格差が広がっているとして、過去に2回、憲法違反の判断がなされています。

 

また、身近の違憲判決として、離婚等により婚姻を解消した女性の再婚が禁止される期間について、以前は6ヶ月との制度でしたが、100日を超える制限は過剰であるとして憲法違反とされました。

この判決を受け、2016年12月からは、婚姻解消から100日を経過していれば再婚が認められることになりましたが、それ以前の女性には、6ヶ月間の再婚禁止となっていたわけです。

「憲法違反」と聞くと、「自分には無関係の話」と思われるかもしれませんが、意外と身近な問題にも関わっているわけです。

 

4 今回の違憲判決の意義は?

今回の違憲判決は、「外国に居住する日本人(在外邦人)について、最高裁判所裁判官の国民審査が認められない現在の法律は憲法違反である」と判断されたものです。

 

実は、在外邦人の方に関する違憲判断は2例目で、2006年9月14日、最高裁判所は、在外邦人に国政選挙における選挙権行使を認めていなかった当時の法律を、憲法違反と判断しました。

つまり、在外邦人の方については、一度目は国政選挙の選挙権行使について、二度目は最高裁判所裁判官の国民審査権行使について、それぞれ違憲判決が出されたという事になるわけです。

 

さて、この度の違憲判決に関する最高裁判所裁判官の国民審査について簡単に説明します。

この審査制度は、司法のトップである最高裁判所の裁判官を罷免するかどうかを審査するものとなります。

衆議院議員選挙の際、選挙の投票用紙とは別に裁判官の名前が列記された用紙が配布され、罷免したい裁判官の欄に×印を付ける方法で審査することになります。

あくまで罷免したい裁判官に×印を付けるもので、信任したい裁判官に〇印を付けても無効になるので注意が必要です。

 

では、どうして最高裁判所の裁判官について国民審査の制度が用意されているのでしょうか。

 

先に述べたように、裁判所は、国会で制定された法律を憲法違反として無効にすることができますし、逆に、法律を憲法違反でないとして有効と判断することができる機関となります。

その意味で、裁判所のトップである最高裁判所の裁判官が、法律が憲法に適合するかどうかをきちんとチェックして、国民の人権を護っているかどうかを、国民に審査させるために審査制度が用意されたわけです。

 

国民審査の制度は、憲法に明記されていますし、国民の人権を護るために重要な制度であることから、最高裁判所は、外国に居住していることだけを理由に、国民審査権が認められない現在の法律は憲法違反であると判断したことに、重要な意義があると考えられます。

 

5 この度の違憲判決を踏まえて思うこと

違憲判決は、一度制定された法律の効力を無効と判断し、国会に対して速やかな是正を求める効果がありますので、非常に重大な影響があります。

 

過去11件の違憲判決があると説明しましたが、選挙権の「一票の格差」に関わる判断が2件、在外邦人の選挙権行使に関わる判断が1件、この度の在外邦人の最高裁判所国民審査権に関わる判断が1件となっており、選挙制度に関わる違憲判決が多いのが分かります。

これは、選挙制度・国民審査制度が、民主主義の根幹に関わる重要なものであるとの考えが根底にあるのだろうと思います。

 

他方、現実を見ると、国政選挙の投票率は50%前後と低水準で推移していますし、国民審査によって罷免された裁判官は過去に誰もおらず、形骸化しているとの指摘されているような状況です。

国民の“無関心”とも言える事態とも言えると思います。

 

ですが、このような“無関心”の事態が続けば、民主主義の名の下に国民の人権が脅かされるかもしれません。

人権が保障されるべきことは当然ですが、国を動かしているのは同じ人間なわけですから、国民一人一人が関心を持ち、選挙なり国民審査なりの制度に関わることで人権を護っていく必要があるわけです。

 

国民審査の制度で言えば、審査対象となっている最高裁判所の裁判官が、過去にどのような判断を示したのか、少しでも知ることが審査制度を活用する一つの行動になると思います。

そして、国民審査を形骸化させずに活用することは、回りまわって私たち国民の人権を護ることにつながることを意識する必要があるわけです。

 

今回の違憲判決は、そのような課題を考えるきっかけとして受け止めるべきものだろうと思うところです。

 


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弁護士コラム「ご近所との騒音トラブルをどう解決する?」弁護士:上野祐

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1 はじめに

 

新型コロナの影響で、家での生活が増えたという方も多いかと思います。

家族で過ごす時間が増えたり、今までとは異なる時間の使い方ができるなどの良い影響がある一方で、家にいる時間が増えたことによる問題も聞かれます。
「コロナ離婚」など、家庭内の関係が悪くなるような問題もありますが、これまで意識することのなかったご近所さんとの関係にまつわるトラブルが増えています。

本コラムでは、ご近所さんとのトラブルでよく相談のある「騒音問題」について取り上げたいと考えています。

2 「騒音トラブル」とは?

「騒音トラブル」と言った場合、例えば、道路工事や建設工事の音など、業者の事業によって発生する騒音が問題となることもあります。
もちろん、そのような工事音も、度が過ぎるような場合であれば、法的な責任問題になることもありますが、公共性や必要性が大きいために責任問題とすることが難しい場合が多いですし、何よりも、一時的なことが多いため、不満はあっても、弁護士に依頼をして何とかしたいとまで意識しないことも多いように思います。

そのため、よく法律相談を受けるのは、生活音に伴う騒音です。
子どもが騒ぐ音、「ドン!ドン!」という何をしているのか分からない音、ピアノ・ギター等の楽器を演奏する音…など様々な生活音の相談があります。
特に、マンション・アパートの場合、壁の薄さによっては非常に大きい音が聞こえることがあり、“ノイローゼになった”と訴える方もおられ、深刻な問題となっていることも多いという印象です。

では、どのような対処が必要なのでしょうか。

3 音源の特定と証拠収集

まずは、音源の特定が重要です。
どこの家・部屋からの騒音なのか、きちんと特定することが必要です。
簡単なようで、人の聞こえ方には誤差が生じることも多いようで意外と難しい場合もあります。
もし、間違えた場所を音源と断定してしまうと無用なトラブルの原因となりかねないので注意が必要です。

次に、“どのような音がしているのか”をきちんと証拠に残しておくことが重要です。
よく証拠として録音が重要視されますが、騒音トラブルではなかなか難しいのが実情です。
その理由は、特定の時間に特定の音がするケースは少なく、また、音は一瞬であることも多いからです。
また、耳では聞こえても録音にはうまく残らないことも多いことも、録音による証拠化が難しい要因に感じます。
ただ、反対に言えば、“録音に残せた”というのであれば、騒音被害としても深刻な状況であるということが言えるとも思います。

そうすると、証拠として残す方法としてはメモを取ることになります。
何時何分ころに、どのような音がしたのか、騒音はどの程度の時間続いたのかなど、きちんとメモを取っておくことが重要になります。
重要なことは、複数回の騒音についてメモを取ることです。
そうすることで、たまたま一回の騒音ではないことを裏付けることや、騒音が生じる日時に規則性も発見できることがあるからです。

4 まずは他者からの注意から

まずは、マンション・アパートを管理している管理会社、一戸建住宅であれば町内会長などにお願いし、騒音の苦情が出ている旨を注意をしてもらう方法が重要です。
ここで大切なことは、直接に話に行かない方がよいということです。
当事者同士が直接に話をすると、感情的になり無用なトラブルを引き起こすリスクがあるので控えた方が得策です。
また、他者から注意をしてもらうことで、そのような依頼を行ったことが証拠となり、有益な場合もあります。

他から注意を受けると、人は、“注意しなければいけないな”と感じ、音を立てないよう気を使って生活をすることになります。
そのため、他者から注意をしてもらうことで解決するケースも多いのが実情です。反対に、他者から何度も注意をしてもらっても改善が見られないケースについては、弁護士に対応を依頼する必要が生じる場合もあります。

5 弁護士を通じての対処

弁護士による対応は、前述のとおり他者からの度重なる注意にもかかわらず、改善が見られない場合に考えることになります。

具体的な対応は、お手紙を出し、騒音をやめるよう通知することになります。

これを聞くと、「あれ?結局、他者からの注意と同じでは…」と思われるかもしれませんが、弁護士からの通知となると、“騒音を出すことをやめないと裁判を起こされるかもしれない”というプレッシャーを与えることができ、結果として騒音が収まることもあります。

もちろん、弁護士からの通知にもかかわらず、騒音が収まらないこともあります。
そういった場合、裁判所の手続きを用いることになりますが、直ちに裁判を起こすというわけではありません。
裁判所には、「調停」という話合いの場を設ける手続きがあり、まずはその手続きから進めることが通常です。
その理由は訴訟という手続きのハードルやデメリットがあるためですが、それは後ほど説明します。
調停というのは、あくまで話し合いの場になりますので、お互いが譲り合って紛争を解決するという考えが重要です。

調停でも解決ができない場合、やむを得ず裁判手続きに移行するか検討しなければいけないのですが、次に述べるようなハードルやデメリットがあることに注意が必要です。

6 裁判のハードル、デメリット

裁判(訴訟)と言うのは、お互いの意見に食い違いがあり、話し合っても解決が不可能な場合に、法律に照らして、どちらの言い分が正しいのかを国が判断する制度です。
騒音トラブルで言えば、騒音被害を訴える人と騒音を出している人との間で食い違う意見を、法的にみてどちらの言い分が正しいのかを判断してもらうことになります。

具体的に、どのようなことを求める裁判になるかと言うと、多くは、騒音によって精神的苦痛を被ったとして慰謝料請求を行うことになります。
また、特定の時間に特定の音を出さないよう求める訴え(例えば、「午後7時以降はピアノの音を出してはいけない」よう求める裁判)を求めることもあります。

ここで注意をしなければいけないのが、どのような騒音被害なのか、被害者の側が立証する必要があるといことです。
立証とは、第三者が見て、確かに訴えるような騒音が存在したと認められる程度に真実であると認めさせることを言います。
「言い分が異なっていて、本当に訴えるような騒音が存在したのか分からない」というのでは裁判に負けてしまうのです。

また、どのような騒音の程度かを、ある程度、数値化する必要があります。
音の大きさは、デシベルという数値をもって表させることになりますが、問題となる騒音が、どの程度の大きさなのかを測定し、証拠提出する必要があります。
測定器を準備しなければならず、なかなか大変です。

さらに、裁判手続きを考えるうえでもっとも大きいハードルとなるのは、たとえ騒音被害を立証することができたとしても、認められる慰謝料額はそれほど大きいとは言えないという実情です。
具体的には、個別ケースの判断になりますが、数十万円程度であり、50万円を下回ることが多いようです。
弁護士に依頼をして裁判手続きを行うと、費用として数十万円を要することも多く、裁判となれば1年以上の時間を要することも珍しくありません。
まさに費用倒れになる可能性が大きいということです。
そうであれば引っ越した方がまし、と判断される方もいます。

以上のとおり、立証のハードルと、費用倒れのリスクが大きい・時間がかかるというデメリットから、騒音トラブルについては、裁判手続きを取ることが難しいのが実態です。

7 最後に

以上のように、騒音トラブルの対処法や裁判手続きの問題点について述べさせて頂きました。

騒音トラブルを防ぐ一番の方策は、皆が他人の生活を考え配慮し合うことなのですが、顔の見えないご近所同士であり、また、コロナのストレスも影響しているのか、トラブルに発展する事例が見られます。
その場合には、どのような行動を取ればよいのか、本コラムを参考にしてもらえればと思います。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 上野 祐

一新総合法律事務所
弁護士 上野 祐

一新総合法律事務所 新潟事務所所属

私には、先天的な病気が原因で弱視や視野狭窄の視覚に障害があります。それでも、自分の能力を生かして人のために働きたいとの信念をもって弁護士となりました。
私が、障害により日常多くの不自由を感じているように、価値観が多様化する現代において、社会に多くの不自由を感じておられる方も多いかと思います。どのような法的支援ができるかは事案によりそれぞれですが、皆様と共に最善の解決を考えていければと思っております。


ご注意

記事の内容については、執筆当時の法令及び情報に基づく一般論であり、個別具体的な事情によっては、異なる結論になる可能性もございます。ご相談や法律的な判断については、個別に相談ください。

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事業者の重い責任と保険の重要性(弁護士:上野 祐)

 │ 新潟事務所, 労働, 燕三条事務所, 長岡事務所, 上越事務所, 労災事故, 企業・団体, 弁護士上野祐

上野祐弁護士の法務情報を更新いたしました。

従業員が勤務中に起こしてしまった事故に対して、事業者の責任はどの程度問われるのでしょうか?

万が一に備えて保険に加入している事業者も多いかと思います。

今回は、保険未加入で合った場合の、事業者・労働者の経済的な負担の話について、上野祐弁護士が解説しています。

ぜひご一読ください。

上野祐弁護士のコラムはこちら>>>(企業法務サイトに移動します)


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契約の錯誤無効について~反社会的勢力への対策~

 │ 新潟事務所, ビジネス, 燕三条事務所, 長岡事務所, 新発田事務所, 上越事務所, 企業・団体, 弁護士上野祐, 東京事務所

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今回は、反社会的勢力と契約の有効性について取り上げたいと思います。

 

暴力団が典型ですので、暴力団を中心に説明したいと思います。

 

暴力団対策法(正式には「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)は、暴力団を構成員が犯罪に当たる暴力的違法行為を集団的・常習的に行うことを助長するおそれがある団体と定義し、各都道府県の公安委員会は同法に基づき、様々な取り締まりを行っています。

 

もし、暴力団から、暴力的な犯罪行為の被害に遭ったり、遭いそうになったりした場合には、警察、暴力団追放センター、弁護士・弁護士会に相談をし、被害の回復や被害の防止を図っていくことになります。

 

その一方で、暴力団は、その資金源を得たり、活動拠点を確保するために、日常生活や取引社会における様々な場面に現れ、一般人や一般事業者と接点を持とうとしてくるため、知らないうちに暴力団と接点を有してしまうことがあります。

 

例えば、外見からは暴力団員が運営しているとは分からないような会社を立ち上げ、金融機関から融資を受けたり、事業所を借りたりする場合があります。

 

そして、事業者にとって、取引相手が暴力団関係者と判明した場合には、直ちに関係を絶つことが求められています。

 

新潟県暴力団排除条例は、暴力団の排除を基本理念に掲げ、事業者に対し、相手が暴力団であることを知りながら、その活動を助長したり、運営に資することになる利益の供与(取引)を禁止しています(第11条第1項⑵)。

 

他方で、同条例は、相手が暴力団であることを知らないでした契約上の義務を履行することは禁止していません。

 

これは、暴力団であるとの事情は、当然には契約を無効にするわけではないという法解釈に基づいています。

 

つまり、“取引相手が暴力団であることを予め知っていれば契約を交わすことはなかったから契約はなかったことにしてほしい”との主張は、法制度に当てはめると「錯誤」(民法95条)の主張となります。

 

確かに、「錯誤」が認められれば契約は無効となりますが、前記のような契約締結の“動機”内容に錯誤がある場合については、無制限に契約を無効とすれば取引が極めて不安定になります。

 

それゆえ、裁判所は、「動機が表示されて契約の内容となった」と認められる必要があるとの法解釈を採っています。

 

最高裁は、近年、金融機関が暴力団に対し貸し付けた貸付金を保証する旨の信用保証協会の保証契約の有効性について、貸付者が反社会的勢力であるとの事実が事後的に判明した場合の対応や取扱いに関する規定が契約書にないことを理由に、契約は有効であると判断しました(平成28年1月12日判決)。

 

その賛否はともかく、契約書に明示的に定めていない限り、“取引相手が暴力団であることを予め知っていれば契約を交わすことはなかったから契約はなかったことにしてほしい”との主張は、法的には認められないことになるのです。

 

以上を踏まえると、取引相手が暴力団であるとの事情が事後的に判明した場合への事前の対応策は、詰まるところ契約書に必要な条項を挿入すべきことになります。

 

新潟県暴力団排除条例は、事業者に対し、書面で契約を締結する場合には、契約の相手方が暴力団員であることが判明したときには催告することなく契約を解除することができる旨を定めることの努力義務を課しています(第12条第2項)。

 

法的義務ではなく努力義務ではありますが、暴力団排除という社会的使命を果たすためにも、必要な措置として励行すべきと思われます。

 

もう一つ、大切な対策として、事前の確認義務の問題があります。

 

先に触れた事例も、保証人側は、金融機関が、借主が反社会的勢力に属することの調査を怠ったと主張し、最高裁判所も、契約時に一般的に行われている調査方法に照らして相当と認められる調査を怠った場合には、金融機関と保証人との間の保証契約違反に当たり得ると判断しています。

 

この事例について、最高裁判所の判断を受けた高等裁判所は、金融機関ですから、グループ会社で得た情報や外部団体(暴力団追放センター等)からの情報を基にデータベースを構築し、そこで確認をしていることをもって、相当と認められる調査がされたと判断し、保証契約を有効としました。

 

実際に、どの程度の調査を行うべきかは、取引の内容や事業者の規模にもよるかと思いますが、新潟県暴力団排除条例では、契約時に、取引相手に暴力団員でないことを書面で誓約させることを求めていますから(第12条第1項)、最低限、その程度の確認作業が必要と思われます。

 

また、警察や暴力団追放センターは、場合によっては情報提供をしてくれますので、適宜照会を行うことも有効かと思います。

 

最後に、事業者にとっては、たとえ事前に知らなかったとしても、暴力団とつながりを持ってしまったこと自体が企業イメージを大きく損ねる結果となりますし、事後的に判明した場合の対応を誤ると、大きな損失を被るおそれもあります。

 

ですから、先の説明を参考に、適正な対処につなげられるような事前の対策を意識することが重要になります。

 

まだ特段の対策を行っていない事業者におかれましては、当事務所にも適宜ご相談いただければと思います。

 

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 上野 祐

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2016年12月5日号(vol.203)>

※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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