│ 新潟事務所, 弁護士角家理佳, 相続
1 空家対策法,間もなく完全実施
総務省の調べでは,平成25年の全国の総住宅数は6063万戸,
そのうち空家が約820万戸で,
総戸数に占める空き家率は過去最高の13.5%にも上りました。
別荘等のいわゆるセカンドハウス約41万戸を除いても,空家率は12.8%になります。
適切に管理されていない建物は,放火等の犯罪の温床になったり,
見知らぬ人が住みつく,ゴミ捨て場になる,街の景観を損ねるなど
近隣の生活環境に深刻な悪影響を及ぼしますし,
そのような空家があると,近隣不動産の資産価値も下がってしまいます。
そのため空家は大きな社会的問題になりました。
こうした事態を受け,地域住民の生命,身体,財産を保護するとともに,
その生活環境の保全を図り,あわせて空家の活用を促進することを目的として,
平成26年11月に「空家等対策推進特別措置法」(空家対策法)が成立しました。
そして,今月26日から完全施行されます。
(※平成27年5月掲載の記事です)
2 法律の概要
この法律により,空家についての情報収集のために,市町村長は,
空家の所在や所有者の調査,固定資産税情報の内部利用が可能になりましたし,
市町村には,空家に関するデータベースを整備する努力が求められるようになりました。
また,市町村には,国の基本指針に即した対策計画の策定や,
空家とその跡地に関する情報の提供等,
有効活用のための対策を講じることも求められています。
さらに,市町村が特定空家
(倒壊等著しく保安上危険となるおそれがある,
衛生上有害となるおそれがある,著しく景観を損なっている,
その他周辺の生活環境の保全のために放置することが不適切である状態の空家)
と判断すると,建物の除却,修繕,立木竹の伐採等の措置について,
市町村長が,助言・指導,勧告,命令をすることができるようになります。
そして,所有者がこれらに従わない場合には,
市町村は,行政代執行の方法により,強制執行もできるようになります。
3 更地並みに課税される?!
このように問題のある空家が放置される原因の一つとして,
固定資産税の住宅用地特例
(人の居住の用に供する家屋の敷地に適用される特例措置)があると指摘されています。
土地は,その上に住宅が建っていると,更地で所有するよりも固定資産税が安いため,
適切に管理・利用する意思や能力がないにもかかわらず,危険な建物を取り壊さないまま,
建物付の土地として漫然と所有し続けることにつながっているというのです。
そこで,このような事態を解消するために,
今後は,特定空家と判断され,市町村長から勧告を受けると,
特例の対象外になって,更地と同等に課税されることになりました。
その場合,建物の固定資産税評価額はゼロになると思われますが,
土地の固定資産税だけで,
特例を受けられる場合の3~4倍程度にまで税額が上がると予想されています。
4 相続で空家主
では,そもそもなぜ人は使いもしない空家を持っているのでしょうか。
その大きな原因となっているのが相続です。
核家族化と高齢化が進んだ結果,子が実家(親の財産)を相続する時には,
子は既に他所に自分の生活の本拠を構えていることが少なくありません。
そのため,実家を相続しても,誰も住まないという事態が発生するのです。
もちろん,住居として使用する予定がないとしても,
適切に管理さえしていれば,所有していること自体に問題はありません。
しかし,万一,空家の管理が不十分で他人の生命,身体,財産に大きな損害を与えた場合,
莫大な損害賠償金を支払わなければならなくなるおそれがあります。
特に,新潟のような雪国では,積雪による家屋の倒壊や落雪により,
隣家を壊してしまったり,人に怪我をさせるなどが心配されます。
財産を所有するということは,それに伴う責任も生じるということなのです。
ここで,自分が利用しないなら,
貸すなり,売るなりすればいいだろうと思われる方もいらっしゃるでしょう。
確かにそうできればよいのですが,実際には,貸したくても借り手が見つからない,
売りたくても売れない物件も少なくありません。
それどころか,このような物件は,寄付でも引取ってもらえないのが現実です。
ことここに至り,やむを得ず建物を解体となるわけですが,
それにもかなりの費用がかかりますし,
思い出の家を自分が壊すことには心理的な抵抗を感じることもあり,
容易ではありません。
また,相続人間で揉めていて遺産分割協議が調わず,
壊すこともできないまま,建物が老朽化していくというケースもあります。
5 家の主の老後の生活の検討から始めよう
家族を守り育ててきた家が,相続人のお荷物になり,朽ち果てるのは悲しいことです。
そこで,誰が実家を引き継ぐか決まっていない方には,
是非,今からご検討いただきたいと思います。
家の将来を考えることは,
家の主を含む家族の将来の生活を考えることにほかなりません。
家の主の老後の生活について,その場所,同居人,世話をする人,
費用の負担等を具体的に考えることは,それを支える家族の将来の生活のあり方と,
主なき後の家を含む財産の承継を考えることに繋がるはずです。
家の主のライフプランとともに,役目を終えた後の家の処分についても考え,
遺言等で必要な対策を講じておかれることをお勧めします。
【弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 角家 理佳】
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2015年5月15号(vol.174)>
※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。