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【法務情報】いじめと自殺の「因果関係」?

 │ 新発田事務所, その他

最近,学校でのいじめを苦にして自殺した生徒の両親が市と加害者らに対して提起した裁判が話題となっています。市側及び加害者らは当初,いじめと自殺の間に因果関係はないと主張していました。その後市側は因果関係を認める方針へと転換したようですが,加害者側は未だ因果関係の不存在を主張しているようです。

 
 いじめを苦にして自殺をしたのであれば,いじめと自殺との間には何らかの関係はありそうですが,それなのになぜ市側は因果関係がないと主張していたのでしょうか。

 
  裁判実務上,因果関係という用語は,ただ単に加害行為と損害との間に何らかの関係があるということではなく,「加害行為と損害との間に原因・結果の関係があり,かつ,一般的にみてもそのような加害行為があれば同じような損害が発生する可能性があると考えられる場合には,その損害を賠償する責任がある,」という意味で使われます。かなり回りくどい考え方ですが,このような意味の因果関係のことを「相当因果関係」といいます。

 
 裁判上,因果関係についてこのような考え方がとられる理由は,加害行為と何らかの関係にある全ての損害について加害者に賠償責任を負わせることとすると,加害者の責任が限りなく広がってしまう可能性があるため,加害者の責任をどこかで限定しなければならないという点にあります。

 
 そして,裁判上,相当因果関係があるかどうかは,加害者がその損害の発生を予見できたかどうか,ということを基礎にして判断されることが多いといえます。

 
 いじめと自殺の関係で言えば,学校側(加害者側)が生徒の自殺まで予見できたといえるのであれば,いじめと自殺との間には相当因果関係があるということになり,自殺することまでは予見できなかったのであれば,相当因果関係はないということになるかと思います。

 

 

 いじめを苦にした自殺についての裁判例にも,このような考え方をとり,自殺までは予見できなかったとして,いじめと自殺の因果関係を否定したものが比較的多くあります。

 
  今回,市側が当初いじめと自殺の因果関係を争ったのも,このような裁判実務上の考え方を前提としたものと考えられ,法的にみれば,あながち不当な主張ではないといえます。

 
 もっとも,裁判例の中にも,いじめが悪質かつ重大である場合には,そのようないじめはそれ自体が被害者の心身に重大な被害をもたらし続けるものであるとして,学校側が自殺について予見できなかったとしても,いじめと自殺の相当因果関係を認めたものもあります。

 
 また,学説上,いじめの態様があまりにも残忍・悪質であり,被害者が通常の方法でいじめから脱出することが困難であり,通常人であればいじめから逃れる方法は死のみであると思うこともやむを得ないような特段の事情があるときには,自殺について予見できなかったとしても,いじめと自殺の因果関係を認めるべきとの考え方も主張されています。

 
 なお,このような因果関係の考え方は,学校でのいじめと自殺についてばかりではなく,不法行為に基づく損害賠償請求全般に当てはまる考え方なので,例えば職場でのいじめやパワハラを理由とした損害賠償請求にもあてはまります。
職場でのいじめやパワハラについての相談を受けることは比較的よくあるので,いじめと損害との因果関係が認められるかどうかを慎重に検討するようにしています。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 塩谷 陽子◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2012年7月27日号(vol.107)>

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