法務情報
社会で実際に起こった、事例や改正された法律をふまえ、法律に関する情報をご紹介します。
預金契約の暴力団排除条項(判決紹介)
│ 新潟事務所, 燕三条事務所, 長岡事務所, 新発田事務所, 弁護士佐藤明, 上越事務所, 東京事務所
暴力団排除条項
暴力団排除条項(暴排条項)とは、契約書などにおいて規定される暴力団等の介入を排除するための条項をいいます。
企業が暴力団等の反社会的勢力との関係を持つことで、被害を受けるだけでなく、反社会的勢力がさらに拡大し、一般市民の社会生活を脅かすといった状況が問題であることは言うまでもないことです。
そのため、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成4年)と、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規律等に関する法律(平成12年)が施行され、さらに、企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(平成19年)が出され、自治体の暴力団排除条例が制定されるなどして、企業がより積極的に暴力団との関係を断つ方法として暴力団排除条項を契約に盛り込むことが進められてきています。
金融機関における暴力団排除条項の制定・追加
上記の流れの中で、とくに暴力団等の資金獲得活動等に利用されやすい金融機関に対して、金融庁が反社会的勢力による被害の防止に係る監督指針の改正(平成20年)を行い、全国銀行協会(全銀協)などが暴力団排除条項を取引規定などに盛り込む場合の参考例を作成したことを踏まえ、各金融機関が取引規定等に追加してきました。
事例と判決
(1)このような暴力団排除条項が争われた判決を以下に紹介します。
指定暴力団の幹部らが銀行と預金契約を締結した後に、銀行は、預金者が暴力団組員等である場合には預金契約の締結を拒絶することができ、既に預金契約が締結されていた場合には銀行が通知することにより預金契約を解約することができる旨の規定(本件各条項)を、普通預金規定に追加し、その後、上記幹部らに対して、本件各条項に基づいて預金契約を解約する旨を通知しました。
これに対し暴力団幹部らが各条項自体やその遡及適用の有効性等を裁判で争ったものです。
(2)福岡高裁 平成28年10月4日
① <各条項の有効性>
本件各条項は、目的の正当性が認められ、その目的を達成するために反社会的勢力に属する預金契約者に対し解約を求めることにも合理性が認められることから、憲法14条1項、22条1項の趣旨や公序良俗に反するものということはできず、有効であること。
② <各条項の遡及適用の可否>
預金契約については、定型の取引約款によりその契約関係を規律する必要性が高く、必要に応じて合理的な範囲において変更されることも契約上当然に予定されているところ、本件各条項を既存の預金契約にも適用しなければ、その目的を達成することは困難であり、本件各条項が遡及適用されたとしても、そのことによる不利益は限定的で、かつ、預金者が暴力団等から脱退することによって不利益を回避できることなどを総合考慮すれば、既存の顧客との個別の合意がなくとも、既存の契約に変更の効力を及ぼすことができると解するのが相当であること。
③ <信義則違反等の成否>
本件各口座については、控訴人ら(暴力団幹部ら)が社会生活を送るうえで不可欠な代替性のない生活口座であるといった事情は認められず、本件各条項に基づき控訴人らとの本件各預金契約を解約することが、信義則違反ないし権利の濫用にあたるとはいえないこと。
以上から控訴人らの各請求はいずれも理由がないものとし、棄却する判断を下しています。
⑶ 最高裁 平成29年7月11日
暴力団幹部らからの上記判決に対する上告を棄却し、本件を上告審として受理しないとの判断を示しました。
企業活動での判決の意味
一般者社会での取引は当事者双方の合意を前提としますから、一方的に契約内容を変更することは公平に反し、また遡って適用することも同様と考えられます。
しかし、暴力団等の反社会的勢力に対抗し関係を遮断することが、公平や社会正義に資するとの判断が判決で示されたといえます。
金融機関のみならず、どのような企業の活動でも、当然コンプライアンスが謳われて実践されていると思いますが、より厳しい局面となる暴力団等への対応を後押しする判決例として意義が大きいと考えます。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 佐藤 明
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2018年2月5日号(vol.217)>
※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
自分の家の隣に,壊れかけた空き家が!火事やゴミ捨て場など心配…
│ 弁護士佐藤明
Q
増え続ける空き家、社会的にも深刻となっている。
親の死亡後、そのままにしておくケースが多く、大半が木造戸建て。
住まないで維持管理を行っておらず、放置期間が長引くと倒壊したり、不審者侵入や放火、不法投棄の危険性が増すなど周囲に悪影響を及ぼす可能性が大きい。
高齢化比率との相関が高く、高齢化比率の高い都道府県ほど、空き家率が高くなっている。
売却・賃貸化できない場合、撤去されるべきだが、更地にすると
人口減少、核家族化で売却・賃貸化できないケースが多く出てきており、解体・撤去が望ましいが土地に対する固定資産税が最大6倍に上がるため、そのまま放置しておいた方が有利などというケースもある。
最近になって一部自治体で、空き家対策条例が制定される例がでてきているがまだ一部にとどまっている。
自分の家の隣に空き家があったら…。
弁護士に依頼してできることは何か。
A
これまで自治体・条例に委ねられていた空家対策につき、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(特措法)が平成27年5月に完全施行されました。
この特措法の特徴は、次の2点です。
①自治体において固定資産税の課税のために保有している情報を空家の所有者等を調べるために利用できるようになったこと。
②所有者等が不明なままでも危険な家屋の強制撤去等の代執行ができるようになったこと(簡易代執行)。
ところで、「空家」であれば自治体に撤去等してもらえるのかというと、そうではなく、「特定空家等」に該当する必要があります。
この「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となる状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全のために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等です。
そうすると、問題の空家がこのような状況にないと、残念ながらこの法律により自治体は撤去等できないことになります。
(なお、道路等公共施設に影響が出ているようであれば、関連法令によって対応される可能性はあります。)
ただ、ここで空家の所有者に費用請求できるかどうかにつき、連絡が取りにくい人であったり所在不明だったりすると実際には難しいかもしれません。
では、上記のように自治体に頼めない場合はどうすればいいでしょうか。
緊急事態にその他人の財産(空家等)を守るためとして修繕等の応急措置を取ることや、自分たちの家等に危険が及び損害が生じることを理由として撤去等のための訴訟をして、さらに強制執行することなど考えられそうです。
個別の事情により対策も異なりますので、お困りの方は弁護士に相談してみてはどうでしょう。
営業秘密と不正行為(不正競争)
元従業員が会社の秘密情報を持ち出したといった事件があとを絶ちません。
このようなケースで,会社の利益を保護するにはどのように対処したらいいでしょう。
1 はじめに
ノウハウなど企業機密が漏洩されて問題となっていることはニュースでもよく目にすることですし,
身近なところでも問題が生じているかもしれません。
ただ企業機密といってもどのような秘密が法律上保護されるのか,
またどのような保護措置がとれるかはよく分からないかもしれません。
このような問題に対応する法律の重要なものとして,
不正競争防止法で扱われる営業秘密につき次に説明したいと思います。
2 営業秘密とは
不正競争防止法で,営業秘密とは,
(1)秘密として管理されている(秘密管理性)
(2)生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって(有用性)
(3)公然と知られていないもの(非公知性)
とされています(法2条6項参照)。
まず,(1)秘密管理性については,
営業秘密とされるものが保有者の主観で秘密にしておく意思を有しているだけではなく,
客観的に秘密として管理されていると認められる状態にあることが必要とされます。
具体的には,
①当該情報にアクセスできるものが制限されていること(アクセス制限の存在),
②当該情報にアクセスした者に当該情報が秘密であることが認識されるようにされていること
(客観的認識可能性の存在)が必要です。
この点で,経済産業省は営業秘密として保護を受ける具体的な秘密管理方法等について
営業秘密管理指針を出していて参考になります。
次に,(2)有用性については,
製品の設計図・製法,顧客名簿,販売マニュアル,仕入先リスト等が当該情報にあたります。
ここでも保有者の主観ではなく客観的に判断される必要があります。
さらに,(3)非公知性については,
当該情報が刊行物に記載されていない等,保有者の管理下以外では一般的に入手することができない状態にあることをいいます。
保有者以外の者が知っていても守秘義務を課されていたり秘密として管理している状態のものであれば該当します。
3 不正行為(不正競争)
不正競争となる営業秘密に係る不正行為は不正競争防止法2条1項4号から9号に規定されていますが,その中でも冒頭のような従業員による可能性がある不正競争は次のとおりです。
(1)営業秘密を保有する事業者からその営業秘密を呈された場合において,不正の利益を得る目的で,又はその保有者に損害を加える目的で,その営業秘密を使用し,又は開示する行為(法2条1項7号)。
ここで不正の利益を得る目的とは,
広く公序良俗や信義則に反する形での不当な利益を図る目的をいい,自己の利益だけではなく第三者の利益を図ることも含みます。
また保有者に損害を加える目的とは有形無形の損害を加える目的で,現実に損害を生じることは必要とされません。
例えば会社の役員が在職中に従業員に依頼して顧客情報をフロッピーにコピーさせて受取り,
退職後に不正の利益を得る目的で当該顧客情報を用いて転職先会社で販売を開始したことがあたります。
(2)営業秘密について不正開示行為であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って,若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し,又はその取得した営業秘密を使用し,若しくは開示する行為(法2条1項8号)。
例えば人材派遣会社の従業員から,当該会社の保有する顧客名簿の不正開示を受け,
そのことを知りながらその名簿で勧誘することがあたります。
(3)取得した後にその営業秘密について不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って,又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し,又は開示する行為(法2条1項9号)。
例えば営業秘密を取得後,保有者から警告を受け不正開示行為があったことを知りながら,
その営業秘密を使用等することがあたります。
4 法的措置
以上の営業に係る不正行為としての不正競争にあたる場合には,
その行為により営業上の利益が害されたりそのおそれがあれば差止請求(法3条)を,
営業上の利益が害されて損害が生じた場合には,
損害賠償請求(法4条,他の要件も具備)をすることが考えられます。
なお,不正競争防止法の要件に該当しなくとも,
民法の不法行為(709条)の要件をみたせばこれにより賠償請求できる場合もあります。
5 最後に
補足となりますが,これらの民事上の保護とは別に,
刑事上の罰則という形での保護も図られています。
その目的や要件は民事とは異なりますが,営業秘密の保護の面では重要な措置といえます。
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年7月15日号(vol.154)※一部加除修正>
※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
【法務情報】通知の効力が発生するのはいつ
1 はじめに
取引などに関連して,相手方に通知をする必要が生じることがあります。とくに契約の解除や取消などの通知で意図した効力が生じるのがいつの段階なのかについて,問題が生じることも少なくありません。やや細かい話とも思えますが,法律の条文だけではわからない点もありますので以下に検討したいと思います。
2 法律上は
この点,民法では,解除・取消し・相殺の意思表示(催告もこれに準じます)など多くの単独行為や,契約の申込みを前提に,相手方に到達した時から効力が生じるとしています(97条1項,到達主義の原則)。
ただし例外的に,契約の承諾(民法526条)および特殊な行為(クーリングオフの通知など)については,通知を発信した時に効力を生じる発信主義を採用しています。
これらは通知する側と受け取る側の利益のバランスを考慮しているものと考えられます。
3 到達について
(1)ここで到達とは,一般取引上の通念により相手方の了知しうるようにその勢力(支配圏内)に入ることであり,相手方が現実的に了知することまでは必要でないと解されています。
具体的には,郵便物が郵便受に投函されたり,本人の住所地で同居の親族などが受領した場合にも到達があったとされます。たとえば,会社の事務室でたまたま遊びに来ていた会社の代表取締役の娘に,賃貸人の使者が会社に対する延滞賃料の催告書を交付した場合に到達があったとした判例があります(最判昭和36.4.20)。
(2)相手方が受け取らなかった場合は
この点につき,書留内容証明郵便が受取人不在のために一定期間郵便局に留置された後に差出人に戻されたケースで,不在者配達通知書から差出人がわかり,それまでの経緯から郵便物の内容を十分推知できるときは,相手方としても,郵便物の受取方法を指定することによってさしたる努力・困難を要せずに受領でき,社会通念上,相手方の予知可能な状態に置かれ,遅くとも留置期間が満了した時点で相手方に到達したものと認めるのが相当であるとした判例があります(最判平成10.6.11,遺留分減殺請求権行使に関するもの)。
この判例では相手方の支配圏内に入らなくても,到達を認められる場合があることを示しており,通知を出した人が不利益とならないように考慮されていますが,郵便物の内容が推測できるときに限って認めているとも読めますので,端的に受領拒否には相手方を保護するまでもなく到達を認めるべきだとの学説もあります。このケースでは書留であったことからこのような扱いとなっていますが,普通郵便であれば前述のように投函されることで到達が認められるのではないかと思えます。ただ,そうすると今度は郵便の証明の問題が残りそうです。
4 公示による方法
以上は,相手方が住所地にいることを前提にしていますが,相手方がどこにいるかわからず通知を出せない場合はどうすればよいでしょう。
この点については,民法では相手方あるいはその所在を知ることができないときは,公示の方法によることができるとされています(法98条)。簡易裁判所を利用して通知による到達と同様の効果を得られるようにするものです。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 佐藤 明◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2013年12月26日号(vol.141&142)>
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