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社会で実際に起こった、事例や改正された法律をふまえ、法律に関する情報をご紹介します。

カスハラ対応しない事業者・使用者の責任は?(弁護士 佐藤 明)

 │ 労働, 長岡事務所, 弁護士佐藤明, 企業・団体

この記事を執筆した弁護士
弁護士 佐藤 明

佐藤 明
(さとう あきら)

一新総合法律事務所
副理事長/長岡事務所長/弁護士

出身地:新潟県長岡市
出身大学:新潟大学法学部(民法専攻)
新潟県弁護士会副会長(平成25年度)などを務める。
取扱い分野は、団体では企業法務、自治体法務、学校法務など。個人では相続や離婚などの家事事件、金銭問題など幅広い分野に対応しています。
社内研修向けにハラスメントセミナーや、相続・遺言、成年後見制度をテーマとしたセミナーで講師を務めた実績があります。

1. 社会問題となっているカスハラ

 

連日、カスハラのニュースを目にします。

顧客等の従業員に対する暴言や長時間にわたる説教、土下座の強要など依然として社会問題となっています。

 

ハラスメントと名が付くものにも、職場内、家庭内でいろいろな種類があり問題となっていますが、顧客等によるハラスメントであるカスハラ(カスタマーハラスメント)は、現在、社会的に関心がとくに高く、東京都の条例を始め今後法整備がされていくようです。

 

2. カスハラとは クレーマーとの違いは

以前から、顧客等からのクレーム対応が問題とされています。

 

このクレームとの関係で、厚生労働省の検討委員会(企業対策マニュアル作成・令和4年)では、カスハラとは、顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するために手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるものとされています。

 

従来から指摘されているように、クレームでも正当なものと不当・悪質なものとを区別する考えに沿っているものといえます。

 

この企業対策マニュアルでは、カスハラの判断基準として①顧客等の要求内容の妥当性はあるか、②要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲かという観点で判断することが挙げられています。

 

事案との関係でより具体的に検討する必要がありますが、①については、顧客等の主張につき、まずは事実関係、因果関係を確認し、自社に過失がないか、または根拠のある要求がされているか要求内容の妥当性を確認する必要があります。

②では、業務に支障がでるような場合、要求内容の妥当性があってもその言動が暴力的・威圧的・継続的・拘束的・差別的、性的である場合は社会通念上不当であると考えられます。

 

3. カスハラ対応しない事業者・使用者の責任は

 

法律上、企業・使用者の従業員に対する義務として、セクハラやパワハラについては、防止等の措置を講じる義務が課されており、その義務に違反した場合などに法的責任を問われる可能性があります。

 

この点、カスハラでは、まだ使用者に直接的な法律上の義務は定められていませんが、労働契約上、労働者に対する職場環境の安全を図るなどの配慮義務があると考えられますので、その関連ではカスハラ対策・対応をしないことは法的責任を問われる可能性がありえます。

 

厚労省の令和2年告示で事業主が従業員に配慮すべきこととしてカスハラに言及しているのは、従業員保護の観点からであることがわかります。

 

4.  カスハラに対する民事責任、刑事責任

顧客等のカスハラにより営業が妨害されるなどして会社に被害が生じれば損害賠償請求が考えられます。

 

さらには、従業員の被害や会社の被害の内容によっては、次のような刑事責任を問える可能性があります。傷害罪、暴行罪、脅迫罪、恐喝罪、強要罪、信用毀損罪・業務妨害罪、不退去罪などです。

 

5. 民間企業だけでなく自治体でも

東京都の条例では、民官区別なく、カスハラに対応すべき規定等が定められるようです。

自治体でも、市民によるカスハラが深刻な問題となっているとの調査報道もあり、民間に限られる問題ではないことは当然と思われます。

 

企業、自治体等いずれにおいてもカスハラ対策をすることは喫緊の課題です。

まだこれからという企業等におかれては、前述の厚労省検討委員会の企業マニュアルが参考になりますし、また弁護士等の専門家に相談されてはどうでしょう。

 


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労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針が公表されました(弁護士:古島 実)

 │ 燕三条事務所, 弁護士古島実, 企業・団体, コラム

労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針が公表されました

[引用元]内閣府ホームページ:https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je22/h06_hz020105.html

__________

 

我が国の賃金は、他の先進国に比べ長期にわたって上昇していません。

 

このような状況を改善するために、国から「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が令和5年11月29日に内閣官房、公正取引委員会から公表されました。

また、毎年3月9月は価格交渉推進月間とされています。概要は次の通りです。

 

1 労務費の転嫁に関する事業者の発注者・受注者の双方の立場からの行動指針。

2 労務費の適切な転嫁のため、発注者及び受注者がこの行動指針に沿った行為を行うことが必要とされています。

3 本指針に記載の12の行動指針に沿わないような行為をすることにより、公正な競争を阻害するおそれがある場合には、公正取引委員会において独占禁止法及び下請代金法に基づき厳正に対処することが明記されています。

4  他方で、記載された発注者としての行動を全て適切に行っている場合、通常は独占禁止法及び下請代金法上の問題が生じない旨を明記しています。

 

具体的な行動指針を示し、指針に沿わない行為が公正な競争を阻害する恐れがあるときは、公正取引委員会が厳正に対処するというのが重要なポイントです。

 

12の行動指針の概要は次のとおりです。各行動指針の詳細は後に掲載します。

行動指針を活用して、労務費の適切な転嫁がなされることが期待されます。

 

1 発注者として採るべき行動/求められる行動

行動①本社(経営トップ)の関与

行動②発注者側からの定期的な協議の実施

行動③説明・資料を求める場合は公表資料とすること

行動④サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと

行動⑤要請があれば協議のテーブルにつくこと

行動⑥必要に応じ考え方を提案すること

2 受注者として採るべき行動/求められる行動

行動①相談窓口の活用

行動②根拠とする資料

行動③値上げ要請のタイミング

行動④発注者から価格を提示されるのを待たずに自ら希望する額を提示

3 発注者・受注者の双方が採るべき行動/求められる行動

行動①定期的なコミュニケーション定期的にコミュニケーションをとること。

行動②交渉記録の作成、発注者と受注者の双方での保管価格交渉の記録を作成し、発注者と受注者と双方で保管すること。

 

国も解説動画を多数作成しています。参考にしてください。

__________

【価格交渉推進月間について】

経済産業省 中小企業庁:適正取引支援サイト
https://tekitorisupport.go.jp/topics/gekkan/

 

【労務費の転嫁について】

政府広報オンライン:「賃上げのための価格転嫁」

https://www.gov-online.go.jp/article/202402/tv-5074.html

12の行動指針の詳細

 

1 発注者として採るべき行動/求められる行動

行動①本社(経営トップ)の関与

①労務費の上昇分について取引価格への転嫁を受け入れる取組方針を具体的に経営トップまで上げて決定すること、②経営トップが同方針又はその要旨などを書面等の形に残る方法で社内外に示すこと、③その後の取組状況を定期的に経営トップに報告し、必要に応じ、経営トップが更なる対応方針を示すこと。

 

行動②発注者側からの定期的な協議の実施

受注者から労務費の上昇分に係る取引価格の引上げを求められていなくても、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回など 定期的に労務費の転嫁について発注者から協議の場を設けること。

特に長年価格が据え置かれてきた取引や、スポット取引と称して長年同じ価格で更新されているような取引においては協議が必要であることに留意が必要である。

協議することなく長年価格を据え置くことや、スポット取引とはいえないにもかかわらずスポット取引であることを理由に協議することなく価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用又は下請代金法上の買いたたきとして問題となるおそれがある。

 

行動③ 説明・資料を求める場合は公表資料とすること

労務費上昇の理由の説明や根拠資料の提出を受注者に求める場合は、公表資料(最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率など)に基づくものとし、受注者が公表資料を用いて提示して希望する価格については、これを合理的な根拠のあるものとして尊重すること。

 

行動④サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと

労務費をはじめとする価格転嫁に係る交渉においては、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁による適正な価格設定を行うため、 直接の取引先である受注者がその先の取引先との取引価格を適正化すべき立場にいることを常に意識して、そのことを受注者からの要請額の妥当性の判断に反映させること。

 

行動⑤要請があれば協議のテーブルにつくこと

受注者から労務費の上昇を理由に取引価格の引上げを求められた場合には、協議のテーブルにつくこと。

労務費の転嫁を求められたことを理由として、取引を停止するなど不利益な取扱いをしないこと。

 

行動⑥必要に応じ考え方を提案すること

受注者からの申入れの巧拙にかかわらず受注者と協議を行い、必要に応じ労務費上昇分の価格転嫁に係る考え方を提案すること。

 

2 受注者として採るべき行動/求められる行動

行動①相談窓口の活用

労務費上昇分の価格転嫁の交渉の仕方について、国・地方公共団体の相談窓口、中小企業の支援機関(全国の商工会議所・商工会等)の相談窓口などに相談するなどして積極的に情報を収集して交渉に臨むこと。

 

行動②根拠とする資料

発注者との価格交渉において使用する根拠資料としては、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの公表資料を用いること。

 

行動③値上げ要請のタイミング

労務費上昇分の価格転嫁の交渉は、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回などの定期的に行われる発注者との価格交渉のタイミング、業界の定期的な価格交渉の時期など受注者が価格交渉を申し出やすいタイミング、発注者の業務の繁忙期など受注者の交渉力が比較的優位なタイミングなどの機会を活用して行うこと。

 

行動④発注者から価格を提示されるのを待たずに自ら希望する額を提示

発注者から価格を提示されるのを待たずに受注者側からも希望する価格を発注者に提示すること。

発注者に提示する価格の設定においては、自社の労務費だけでなく、自社の発注先やその先の取引先における労務費も考慮すること。

 

3 発注者・受注者の双方が採るべき行動/求められる行動

行動①定期的なコミュニケーション定期的にコミュニケーションをとること。

 

行動②交渉記録の作成、発注者と受注者の双方での保管価格交渉の記録を作成し、発注者と受注者と双方で保管すること。

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 古島 実

古島 実
(こじま みのる)

一新総合法律事務所
監事/弁護士

出身地:新潟県燕市
出身大学:一橋大学法学部卒業(憲法専攻)

新潟県弁護士会副会長(平成19年度)などを務める。主な取扱分野は交通事故、相続、企業法務問題(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)。
保険代理店向け交通事故対応セミナーや、三条商工会議所主催の弁護士セミナー等で講師を務めた実績があります。


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業務中の熱中症は労災になる?企業が取るべき対策とは

 │ 新潟事務所, 労働, 燕三条事務所, 弁護士古島実, 長岡事務所, 新発田事務所, 上越事務所, 企業・団体, コラム

熱中症は労災認定される?

熱中症に気を付けましょう

猛暑が続き、連日、熱中症警戒アラートが発表されています。

時候の挨拶にも、熱中症に気を付けましょうと、社会全体で熱中症を予防しようとしています。

 

ところで、労働基準法施行規則第35条別表1の2に、労災が対象とする疾病が定められています。

そして、その中に熱中症も規定されています。

厚生労働省の通達によれば、「体温調節機能が阻害されるような温度の高い場所」での業務中に熱中症を発症すると労災認定されることになります。

 

職場における熱中症の発生状況

厚労省の資料によると職場における熱中症による死傷者数は2018年1178人をピークに2021年に561人に低下しましたが、2022年には827人に増加しました。

 

業種別で見ると2022年は建設業179人21%、製造業145人19%、運送業129人14%、警備業91人10%、商業82人10%とされています。

 

月別で見ると2022年は5月16人、6月184人、7月291人、8月280人、9月46人と暑さの本番が始まらない、未だ体が暑さに慣れていない6月からすでに増加し、夏本番でないからといって油断することができないことがわかります。

 

熱中症の症状と重症度は厚労省の「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」*1 では次のように分類されています。

Ⅰ度は119番と応急手当、Ⅱ度は医療機関での診療、Ⅲ度は入院治療が必要と記載されています。

しかし、専門家でないと、重症度などの判断ができないので、様子がおかしいと思ったら救急車を呼び、救急車が来るまで急速冷却が必要とされています。

熱中症は手遅れになりやすい命にかかわる病気であるとの認識が必要です。

 

熱中症の応急手当(表)

厚生労働省HP:「働く人の今すぐ使える熱中症ガイドブック」掲載の「応急手当カード」

*1 参考URL:厚生労働省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」https://neccyusho.mhlw.go.jp/download/

 

熱中症防止のために企業がとるべき対策は?

職場の熱中症防止は企業の安全配慮義務の一つとされ、国による活発な啓発活動がなされています。

前述した、厚労省の「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」が非常に役に立ちます。

ガイドでは、熱中症予防により命を守ることが強調され、熱中症についての基礎知識、危ない状況と対策、予防法、取り組み例、講習用スライドなどが記載されています。

ぜひ、一度、内容をご確認ください。

 

熱中症事故の企業の賠償責任は?

熱中症が労災認定されるかの争点

炎天下の下で作業していた従業員が死亡して裁判になるケースでは、死亡の原因が熱中症なのか否かが争点となることがあります。

 

死亡の原因が熱中症と認定され、企業の安全配慮義務違反が認定されてしまうと、企業は、賠償責任を負うことになります。

熱中症が労災認定された事例

平成28年1月21日に出された大阪高等裁判所の判決によれば、造園業者に勤務する34歳、年収約210万円の男性が、真夏の炎天下(午後4時30分で39℃)で剪定作業していたところ、熱中症により死亡した事案につき、慰謝料2500万円、逸失利益1680万円等を認定し、労働者側の持病や、労災給付の控除などを考慮した結果、会社には、約3600万円の賠償責任があるとしています。

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 古島 実

古島 実
(こじま みのる)

一新総合法律事務所
監事/弁護士

出身地:新潟県燕市
出身大学:一橋大学法学部卒業(憲法専攻)

新潟県弁護士会副会長(平成19年度)などを務める。主な取扱分野は交通事故、相続、企業法務問題(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)。
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ゼロゼロ融資の返済が本格化します(弁護士 朝妻太郎)

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この記事を執筆した弁護士
弁護士 朝妻 太郎

朝妻 太郎
(あさづま たろう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:東北大学法学部

関東弁護士連合会シンポジウム委員会副委員長(令和元年度)、同弁護士偏在問題対策委員会委員長(令和4年度)、新潟県弁護士会副会長(令和5年度)などを歴任。主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)のほか、離婚、不動産、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
数多くの企業でハラスメント研修、また、税理士や社会保険労務士、行政書士などの士業に関わる講演の講師を務めた実績があります。​
著書に『保証の実務【新版】』共著(新潟県弁護士会)、『労働災害の法務実務』共著(ぎょうせい)があります。

ゼロゼロ融資の返済本格化

 

東京商工リサーチによると、2022年度の全国企業倒産(負債額1,000万円以上)は、件数が6,880件(前年度比15.0%増)、負債総額は2兆3,243億7,900万円(同99.0%増)となり、これまでコロナ禍の資金繰り支援策等により減少を続けてきた倒産件数が、低水準ながら3年ぶりに前年度を上回りました。

このうち、2022年度の「新型コロナウイルス」関連倒産は、2,602件(前年度比46.4%増、構成比37.8%)で、前年度(1,777件)の1.4倍に増加しました。

 

実感としても、ここ数ヶ月中に、廃業や倒産の相談が目立つようになりましたし、地元新潟地裁に係属する法人の破産案件の情報にも良く触れるようになってきました。

 

そして、2023年度から、いわゆるゼロゼロ融資(新型コロナウイルス禍で売り上げが減った企業に実質無利子・無担保で融資する仕組み。)の返済が本格化し、今年の夏ころに集中するといわれています。

この返済開始と共に事業継続が困難となる事業者が多数発生することが想定されています。

国は新たな借換保証制度(コロナ借換保証)を創設するなど支援を拡げていますが、廃業等を余儀なくされる企業が出てくることは避けられないと予想されています。

 

取引先の状況に注視を

このメルマガをご覧の企業様の多くは、コロナ融資の元本返済が開始されたとしても直ちに経営状況を左右することは無いかと思います。

しかし、お取引先企業の中には、コロナ融資の返済が開始すると、資金繰りに窮し、最悪の場合、倒産・廃業を余儀なくされるところもあるかもしれません。

 

一度倒産処理が始まってしまうと、正直なところ、事前に担保権を設定するなどしていなければ、債権の回収は極めて困難な状況になります。

多くの相談者の方は、取引先が事業を停止し、弁護士が事後処理にあたるという通知が届いた状況になって初めて相談に来られますが、その時点で相談にお越しいただいても、なかなか手出しできないことの方が圧倒的に多いです。

 

常に疑心暗鬼になり取引先を懐疑的な目で見ることは現実的では無いと思いますが、取引先の普段の様子と異なる点を目にされた場合には、少し注意することは必要でしょう。

また、各取引先とどのような条件で取引をしているのか、取引基本契約書等をご覧いただき、この機会に一度確認されることも有用でしょう。

 

止む無く倒産・廃業を選択せざるを得ない場合

このメルマガをご覧いただいている皆様は、もしかしたら、窮地に陥った取引先や旧知の企業からご相談を受けるかもしれません。

その場合には早急に専門家へのご相談をおすすめください。

御承知のとおり、当座の資金繰りに窮して倒産することが多いわけですが、倒産をするにも、従業員への支払い、手続費用等最低限の資金が必要となります。

これも良くあることですが、現預金が底をついてしまうと、廃業しようにも廃業処理ができない、ということにもなりかねません。

また、最近でも、倒産しかけた企業に、素性の分からないコンサルタントを称する人物が近づいてくる、などという話も耳にします。

 

その意味では、早め早めの対応が必要不可欠といえます。

 


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賃金のデジタル払いについて 導入のための手続きと注意点(弁護士:鈴木孝規)

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この記事を執筆した弁護士
弁護士 鈴木 孝規

鈴木 孝規
(すずき たかのり)

一新総合法律事務所  弁護士

出身地:静岡県静岡市
出身大学:一橋大学法科大学院既修コース卒業
主な取扱分野は、企業法務(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収など)。そのほか相続、金銭トラブルなど幅広い分野に対応しています。
企業法務チームに所属し、社会保険労務士向け勉強会では、ハラスメント対応をテーマに講師を務めた実績があります。

1 はじめに

改正された労働基準法施行規則が、令和5年4月1日から施行されることにより、いわゆる賃金のデジタル払いが可能となりました。

本コラムでは、この改正の概要等について、簡単に説明したいと思います。

 

2 現行法上の賃金支払方法

そもそも、労働基準法上では、賃金は通貨で直接労働者に支払わなければならないと規定されており(労働基準法24条)、現金の手渡しが原則とされています。

ただし、労働者が同意した場合には、預貯金口座及び証券総合口座への振込みが認められています(労働基準法施行規則7条の2)。

このような規定により、実際には、現金手渡しではなく、預貯金口座への振込みによる方法で賃金の支払がなされていることが多いかと思われます。

 

3 改正の内容等

 

 

今回の改正では、労働者の同意を得た場合、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣が指定する資金移動業者(指定資金移動業者)の口座(○○Payなど)への資金移動により、賃金を支払うことが可能となります。

労働基準法上、現金の手渡しが原則とされているのは、労働者が確実に賃金を受領できるようにして労働者の経済的安定を図るためですので、一定の要件の中には、労働者が確実に賃金を受領できることを担保するという点から定められたものもあります。

 

例えば、保証委託契約の締結等により、破産等で支払いができなくなったときに、資金移動業者の口座残高の額が保証される仕組みを有していることや、労働者に責任のない不正の引き出し等により労働者が損失を被った場合に、その損失を補償する仕組みを有していることが要件として定められています。

また、現金自動預払機(ATM)等で資金移動業者の口座へ移動された額を1円単位で受取ができるための措置や、 少なくとも毎月1回は手数料等の負担をすることなく受取ができるための措置を講じていることも、要件の1つとされています。

 

さらに、賃金を受け取る資金移動業者の口座について、口座残高の上限額が100万円を超えることがないようにするための措置、または、口座残高が100万円を超えた場合に、その額を速やかに100万円以下とするための措置を講じていることも要件とされています。

これは、資金移動業者の口座は、預貯金口座とは異なり、為替取引(送金や決済等)を目的としたものと考えられており、資金決済法上でも資金を滞留させない体制の整備が求められていることや、破綻時に口座残高全額が保証されることを担保するための要件となります。

 

このような措置が講じられていることにより、賃金のデジタル払い等で、資金移動業者の口座残高が100万円を超えてしまった場合、自動的に100万円を超えた部分が金融機関の預貯金口座等に振込まれ、その振込にかかる手数料等の負担を求められる可能性もあると思われますので、注意が必要です。

 

4 賃金のデジタル払いを導入するために必要な手続き

企業側としては、賃金のデジタル払いの導入にあたって、各事業場において、労働者の過半数で組織された労働組合(このような労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者)と、賃金デジタル払いの対象となる労働者の範囲や利用する指定資金移動業者の範囲等を定めた労働協約を締結する必要があります。

加えて、預貯金口座や証券総合口座への振込みも選択肢として提示し、留意事項等の説明をしたうえで、賃金デジタル払いを希望する個々の労働者から同意を得る必要があります。

 

厚生労働省のホームページには、同意書の書式例が掲載されていますが、そこには、口座残高の上限額などの関係から、代替口座として指定する預貯金口座等も記載することが求められています。

 

5 おわりに

本改正では、あくまでも賃金の支払方法の選択肢の1つとして、デジタル払いが認められたにすぎず、企業側が、労働者にデジタル払いを強制することはできないとされています。

また、デジタル払いができるのは、厚生労働大臣から指定を受けた資金移動業者の口座のみで、この指定の申請を行うことができるのは令和5年4月1日からとなっており、厚生労働省のホームページでは、指定申請の審査には数か月かかることが見込まれるとされていますので、実際に導入できるのは、もう少し先になるかと思われます。

 

キャッシュレス決済の需要等が高まっている中、賃金のデジタル払いの需要も一定程度あるかと思われます。

賃金デジタル払いを導入するかどうかを検討するに際して、企業側も労働者側も、この制度の内容やデメリット等を十分に理解する必要があるといえます。

 


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