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社会で実際に起こった、事例や改正された法律をふまえ、法律に関する情報をご紹介します。

嫡出推定制度等の変更(弁護士 橘 里香)

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この記事を執筆した弁護士
弁護士 橘 里香

橘 里香
(たちばな りか)

一新総合法律事務所 
理事/弁護士

出身地:沖縄県那覇市
出身大学:青山学院大学法科大学院修了

主な取扱分野は、離婚(親権、養育費、面会交流等)、男女問題。
そのほか相続、金銭問題など幅広い分野に精通しています。メンタルケア心理士の資格を活かし、法的なサポートだけでなく、依頼者の気持ちに寄り添いながら未来の生活を見据えた解決方法を一緒に考えていきます。

 

2022年に成立した「民法の嫡出推定制度の見直し等を内容とする民法等の一部を改正する法律」ですが、本年4月1日から施行され、従前の法制度から新たな制度に変更がなされています。

施行から少し時間が経ってしまってはいますが、3組に1組が離婚すると言われている現在、再婚禁止期間の廃止など、知っておくべき改正も含まれていることから、この機会に確認をしておきましょう。

 

 

1 再婚禁止期間の廃止

2024年4月~、再婚禁止期間は廃止されました。

現在は、男女共に、離婚翌日に再婚することも可能になっています。

 

再婚禁止期間とは、女性にのみ離婚後一定期間再婚を禁じていた規定です。

元々、女性は離婚後6カ月間を経過しないと再婚ができない旨規定されていました。

平成27年12月16日、最高裁で100日超過部分は違憲との判断を示す判決が出たことから、その後法改正があり、再婚禁止期間は100日間に短縮されていました。

しかし、再度の改正で、再婚禁止期間自体が廃止されたのです。

 

そもそも、なぜ女性はすぐに再婚できなかったのでしょうか?

 

それは、扶養義務や相続などを明確にするためにも、生まれてきた子の親子関係を明確にする必要があったためです。

 

改正前の民法では、“離婚から300日以内に生まれた子は前夫の子”“婚姻から200日経過後に生まれた子は現夫の子”と推定されていました。

このような子どもの父親を推定する規定のことを嫡出推定規定と呼びます。以前の嫡出推定規定では、推定が重複する期間に子が生まれると、父が誰なのかがはっきりしなくなってしまうことから、再婚が禁止されていたのです。

 

しかし、DNA鑑定などで科学的に親子関係を確認することも可能であることから、嫡出推定規定の改正と併せて、再婚禁止期間が廃止されることになったのです。

 

2 嫡出推定規定の改正

 

改正前の規定では、“離婚から300日以内に生まれた子は前夫の子”、“婚姻から200日経過後に生まれた子は現夫の子”と推定していたことから、離婚前に夫以外の男性との間の子を妊娠した場合、離婚後300日以内に出産となれば、実際は前夫の子ではないのに、戸籍上は前夫の子と推定されることになっていました。

 

これを避けるため、出生届を出さない無戸籍者が多数存在していることが分かり、社会問題となっていました。

 

そこで、改正民法では、離婚後300日以内に子が生まれた場合でも、女性が再婚後に生まれた場合には、再婚後の夫の子と推定する形に改正されたのです。

そして、同改正に伴い、再婚禁止期間自体が廃止されたのです。

 

3 嫡出否認の訴えに関する改正

無戸籍問題の解決のために嫡出推定規定自体が上述のとおり改正されましたが、離婚後300日以内に、女性が再婚せずに子どもを産めば、従前同様、前夫の子と推定される形となります。

 

そのような場合には、嫡出否認の訴えという手続きで、推定を覆すことが必要となります。

この手続きについても、従前は、訴えを提起できるのは推定される父(前夫)のみ、かつ、子が生まれたことを知ってから1年以内と制限されていました。

手続きに元夫の協力が必要であったことが、無戸籍者を生む一因にもなっていました。

そこで、新たに手続きを申立てられる人について、母や子にも拡大、その期限も子が生まれたことを知ったときから3年以内に拡大されました。

また、一定の要件を満たす場合には、子本人は21歳に達するまで手続きを取ることが可能となりました。

 

この改正により、無戸籍で不利益を受ける子どもが一人でも減ることが期待されます。

 

4 問題解消のための1年間の特別期間

今回の法改正は、施行日である令和6年4月1日以降に生まれた子が対象です。

 

ただ、既に生じている問題を解決するために、法律施行前に生まれた子についても、令和6年4月1日から令和7年3月31日までの1年間のみ、母や子から嫡出否認の訴えを提起することが認められています。

1年間のみ特別に認められた救済手続期間なので、嫡出推定の問題を抱えていた方については、この機会を逃さず、是非手続きを進めていただきたいと思います。

 

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子どもの引率ボランティア中の事故 責任は問われる?

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1.ボランティアでも事故の責任は問われる?

 

夏休み、子ども会やクラブで子どもの引率を頼まれたという方もいらっしゃるのではないでしょうか?

また、子ども会やクラブでイベントを企画しているそういう方もいらっしゃるかと思います。

 

ただ、引率を引受ける場合には、無償のボランティアだからと安易に考えてはいけません。

 

無償のボランティアであったとしても、事故が起きてしまった場合には、法的責任が問われる可能性があります。

 

2. 子ども会行事の事故で、引率者の賠償責任が認められた判例

 

裁判例でも、子ども会主催のハイキングで川遊び中に子どもが溺れて亡くなった事案(四つ葉子ども会事件、津地裁昭和58年4月21日判決)で、引率者の賠償責任が認められています。

 

同事案は、引率者が過失致死罪で起訴され、社会的にも耳目を集めました。

刑事責任については、2審で無罪となりましたが、民事事件では、引率ボランティアの法的責任が認められ、損害賠償が命じられています。

 

同判例では、「場所を選定するについて実施区域の危険性の有無を十分に調査しておく必要があると認められる」とした上で、子どもらへの危険周知の方法などについても指摘し、「児童の年齢構成、行動特徴などからみて、上・下流の深みに入りこむことのないよう監視体制を整えて事故を未然に防止すべき義務があるものと認められる」とされています。

また、「子ども会活動は社会的意義を有する有益な活動であることは周知の事実であるところ、右の活動が、本件における引率者のような無償の行動によって支えられているものであり、かかる行動を社会的に高く評価すべきものであることはいうまでもないところである。」とした上で、「しかしながら、前記の注意義務をそのことの故に否定する根拠となりうるものでないことは、事柄の性質からみて明らかであり」と述べ、無償であったとしても監督義務に変わりはないことが示されています。

 

3.引率を引き受ける際の注意点

無償のボランティアであったとしても、監督義務は無くならないということを前提に、引率を引き受けた際には細心の注意を払って臨まなければならないということとなります。

 

子どもたちの安全に責任をもって細心の注意を払うことは当然のことと言えば当然ですが、計画立案の際には、ボランティアの法的責任も意識して、安全な場所の選定、適切な引率者の人数等、安全体制をきちんと立案することが大切です。

 

また、ボランティア保険などの活用も検討いただくと良いかと思います。

 

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調停制度100周年(弁護士:橘 里香)

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出身大学:青山学院大学法科大学院修了

主な取扱分野は、離婚(親権、養育費、面会交流等)、男女問題。
そのほか相続、金銭問題など幅広い分野に精通しています。メンタルケア心理士の資格を活かし、法的なサポートだけでなく、依頼者の気持ちに寄り添いながら未来の生活を見据えた解決方法を一緒に考えていきます。

 

令和4年10月は、調停制度ができてからちょうど100年目、裁判所ではこの節目に調停制度の理解を深めてもらうべく記念の特殊切手発行など様々な企画を実施しています。

 

この機会に、調停ってどんなものなのかについてお話ししてみたいと思います。

 

1 調停の歴史

調停制度の始まりは、1922年10月の借地借家調停法の施行によります。

当初、関東大震災後の借地借家紛争の解決のために活用されたようです。

その後、1939年には人事調停法が施行され、家事調停も始まり、現在では、借地借家問題を含む幅広い民事問題を取り扱う民事調停の他に、離婚問題や相続問題を扱う家事調停、知財問題を取り扱う知財調停など、幅広い問題で調停が利用されています。

 

2 調停とは

 

調停とは、裁判所で行う話合いの手続きです。

 

通常、裁判官1名と調停委員2名で調停委員会を構成し、この調停委員会が間に入って中立の立場で当事者の話を聞き、意見の調整を行ったり、解決案を示したりしながら、問題の合意による解決を目指す手続きです。

 

民事調停は簡易裁判所で、家事調停は家庭裁判所で行います。

 

ポイントは、あくまでも話合いの手続きであり、結論を強制されたり、裁判所が何か判断を下す場ではないという点です。

 

3 調停委員とは

調停委員には、紛争解決に有用な専門知識を有する方や社会生活上豊富な経験知識を有する方として各裁判所が選び、最高裁判所に任命された方がなります。

 

弁護士や士業の方が調停委員をしていることもありますが、多くは地域の中で活躍され社会生活上豊富な経験知識を有す法曹経験のない一般の方です。

一般市民の良識を反映させるという目的から、調停委員会は裁判官のみでなく調停委員2名を入れた3名で構成しているのです。

 

基本的には、調停委員は推薦で選ばれます。

弁護士会、司法書士会、行政書士会、税理士会など資格団体の推薦の他にも、商工会議所や民生委員児童委員協議会などの推薦や着任中の調停委員の推薦などで選ばれるケースもあります。

 

任期は2年ですが、再任されることが多いので10年~20年のベテランの方もいらっしゃいます。

 

4 調停の進め方

だいたい月1回のペースで調停期日を設定し、協議を進めていきます。

 

1 回の期日は2~3時間くらいで、申立人から30分話をきいたら、待合室に戻ってもらい、相手方を呼んで30分話をするという形で両当事者の話を聞いていきます。

 

通常、裁判官は各調停に常に立ち会う訳ではなく、調停委員2名が当事者の話を聞き、その結果を裁判官に報告、相談しながら調停を進めていく形がとられます。

 

調停の部屋には当事者と代理人弁護士しか入れないので、親族が一緒に話をすることはできません。

 

両当事者で解決方法について合意に至れると、裁判官が合意内容を確認し、その内容が調停調書という形で書面化されます。

 

この調停調書は、確定判決と同一の効力が認められていることから、金銭支払い約束などについては、約束が守られないときに強制執行手続を取ることが可能となります。

 

5 調停のメリット

調停のメリット、1つ目は、比較的低額で申立てが可能と言う点です。

家事調停の印紙代は高額でも数千円程度です。

民事調停の印紙代は請求する金額によりますが、訴訟より低額の設定となっています。

 

2つ目に、申立てが簡単という点です。

訴状と違い細かいルールがないので、裁判所のHPから書類をダウンロードして記入し、個人で申し立てることも可能です。

 

3つ目は、基本的には相手方と直接顔を合わさずに進められるという点です。

成立場面などでは、両当事者同席で確認を行うのが原則ですが、顔を合わせたくないなどと裁判所にお願いすると、別々に確認を行ってくれることも多いといえます。

 

6 おわりに

令和2年の民事調停の申立て件数は約3万件、家事調停の申立て件数は13万件とのことです。

 

今後も、話合いによる解決の手続きとして調停制度の発展が期待されるところです。

 

100周年のこの機会に、調停がどんな手続きなのかを皆さんに理解していただき、紛争解決の手続きとして更に発展活用されていくことが期待されます。

 


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著作者人格権とは

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著作物の利用には、様々なルールがありますが、今日は、その内の一つである「著作者人格権」について見ていきたいと思います。

著作権法では、著作者は、著作者人格権と著作権の二つの権利を享有すると定められています(著作権法17条1項)。

 

 

著作権法17条1項

著作者は、次条第一項、第十九条第一項及び第二十条第一項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第二十一条から第二十八条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。

 

著作権が財産的権利であるのに対し、著作者人格権は、著作者が有す創作者としての感情を保護するための権利です。

著作権法上は、①公表権(著作権法18条1項)、②氏名表示権(著作権法19条1項)、③同一性保持権(著作権法20条1項)の権利が規定されており、これを著作者人格権と呼びます。また、④みなし著作者人格権(著作権法113条6項)と呼ばれる規定があり、著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなすと規定されています。

著作者人格権は、創作者としての感情を保護するためのものであることから、財産権である著作権と違い、譲渡したり、相続したりすることはできない点で違いがあります。

以下、一つずつその内容を見ていきたいと思います。

 

公表権(著作権法18条1項)

公表権とは、無断で公表されない権利、すなわち未だ公表されていない自分の著作物について、公表するかどうか、いつ、どういう方法及び条件で公表するかを決定する権利です。

但し、例外規定があり、未発表の著作物の著作権を譲渡した場合や、美術の著作物や写真の著作物で未発表のものの原作品を譲渡した場合には、著作者は、著作物が公表されることにつき同意したものとみなされます(作権法18条2項)。

 

氏名表示権(著作権法19条1項)

氏名表示権とは、自分の著作物を公表する際に、著作者名を表示するかどうか、どのように表示するか(実名で表示するのか、ペンネームなどの変名で表示するのか)を決定できる権利です。

したがって、匿名を望んでいた著作者氏名を実名で公表したり、その逆で、実名で公表することを著作者が望んでいるのに、ペンネームで公表することも氏名表示権侵害になります。

 

同一性保持権(著作権法20条1項)

同一性保持権侵害とは、自分の著作物の内容、題号を著作者の意に反して無断で改変させない権利です。

東京高裁 平成11年9月21日判決(恐竜イラスト事件)では、イラストレーターから登録を受けてイラストの貸し出しをしている会社Yが、貸し出しに際して、著作者の確認なく改変(恐竜の輪郭を変え、描写をぼかし、異なる図柄を浮き上がらせ、色を変えた上で使用)を承諾し利用させた事案で、同一性保持権侵害で慰謝料30万円の支払いが認められました。

ただし、誤字脱字を訂正することまでは許されると考えられています。

 

みなし著作者人格権(著作権法113条6項)

著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなすと規定されています。

知的財産高等裁判所 平成25年12月11日判決では、次のような事案でみなし著作者人格権侵害と判示しました。

ある漫画家が、販促サービスで、購入者にその者の希望する人物の似顔絵を描いてプレゼントするサービスを行い、同サービスの一環として被告のリクエストに応じて昭和天皇及び今上天皇の似顔絵を創作し、被告に送付したところ、被告は、これを被告がブロックした者以外は自由に閲覧できる設定で、画像投稿サイトにアップロードし、似顔絵を入手した経緯については触れることをせず、あたかも被告が本件サイト上に「天皇陛下にみんなでありがとうを伝えたい」「陛下プロジェクト」なる企画を立ち上げ、プロのクリエーターに天皇の似顔絵を描いて投稿するよう募ったところ、作者が趣旨に賛同して本件似顔絵を投稿してきたかのような外形を整えてアップロードしたという事案です。裁判所は、一般人から見て、当該漫画家が上記の政治的傾向ないし思想的立場に強く共鳴、賛同しているとの評価を受け得る行為であり、原告の名誉又は声望を害する方法により本件似顔絵を利用したものとして、著作者人格権を侵害するものとみなされると判断し、損害賠償として50万円の支払いを命じました。

 

 

以上のように、著作物には、著作者の創作者としての感情を害しないような利用が求められているのです。

模倣や変造、他人物の利用といった場合以外でも、上記判例のように贈与を受けた自己の所有物の利用についても、一定の制限が残りますので、注意が必要です。

権利意識の高まりが顕著な分野ですので、ご注意いただきたいと思います。

 

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◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 橘 里香

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2016年11月5日号(vol.202)>

※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

会社に著作権が認められる場合とは

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1 Q 「職務上従業員が作成した著作物は誰の物?」

 

従業員の退社の際など,しばしば,

これまでにその従業員が作成した著作物の権利が誰に帰属するのか

ということが問題になります。

 

例えば,従業員が作成した広報用のチラシの著作権は会社と従業員のどちらにあるのでしょうか。

法人著作として会社に著作権が認められる要件について学んでいきたいと思います。

 

 

2 法人著作とは?

 

著作権法15条1項には

「法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づき

その法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で,

その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は,

その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とする。」

と規定されており,一定の要件を満たす場合には,法人が著作者となると定められています。

同条に基づき法人が著作者となる場合を法人著作と言います。

 

 

3 著作物性

 

まず,法人著作として著作権が法人に認められる前提として,

当該制作物が著作物に該当することが必要です。

そして,著作物に該当するためには,以下の(1)~(4)の要件を満たすことが必要になります。

 

 (1) 「思想又は感情」を表したものであること

→ 単なるデータには著作物性は認められません。

但し,「思想又は感情」とは,考え,気持ち程度でよく,高度である必要はありません。

 

 (2) 「表現したもの」

→ 表現形式=創作結果の保護であり,アイデア自体は保護の対象外となります。

 

 (3) 「創作的」に

→ 創作性が必要です。

但し,一般的に独創性や新規性は必要なく,

何らかの個性が表現されていれば足りると解されています。

また,誰が表現しても同じになる物は除かれます。

 

例えば,版画である原作品を紹介するために撮影された版画の写真は

著作物性が否定されました(東京地裁H10・11・30判決)。

 

 (4) 「文芸,学術,美術又は音楽の範囲」に属するものであること

→ 工業製品は除かれます。

商品デザインは,意匠法の保護対象であり,著作権の対象外です。

 

 (5) 法人著作が認められる要件

以下の①~⑤の要件を満たすことが必要とされます。

  

   ① 法人等の発意に基づき作成されるものであること

→ 企画立案の意ではなく,作成するか否かが

最終的に法人等の意思にかかっていれば足りると解されています。

また,実際に著作物の作成作業をした従業員の役職や職務の性質から,

会社の推定的意図に沿うものであれば,

明確な指示に基づかなくても認められる場合もあります。

但し,明確な指示なしで要件を満たすかは争いとなる可能性が高いことから,

紛争予防のためには,指示無しで作成された著作物については,

早い段階で従業員と著作権帰属の確認の書面を取り交わしておくことが大切です。

② 法人等の業務に従事する者が作成すること

→ ここにいう業務に従事する者には,派遣社員も含まれると解されています。

但し,作成物については,

その権利が個人に帰属するとの契約上の特約がある場合には,

特約が優先ですので,契約内容にはご注意ください。

③ 職務上作成するものであること

→ 勤務時間外に勤務場所以外の場所(例えば自宅など)で作成されたとしても,

職務に該当すれば,この要件は満たされるものと考えられます。

職務に該当するかは,職種や役職に応じてケースごとに,

職務として作成が期待されていたといえるか等から判断されます。

しかしながら,職員が勤務時間外に自宅で作成した物については,

自己の作成物との意識を強く有すケースが多く,トラブルになる場合が散見されます。

作成時点で,権利帰属について確認をしておくことが大切です。

④ 法人等の名義で公表すること(但し,ソフトには不要)

→ 当該著作物に,作成者として会社名が入っていることが必要です。

但し,かかる要件については,判例上,公表するとすれば,

法人等の名義を付するような性格のものを含むと拡大されています。

 

⑤ 作成時の契約,勤務規則その他に別段の定めがないこと

→ 就業規則や雇用契約上,別段の定めがあれば,同特約が優先します。

紛争予防のためには,雇用契約において,

作成物の権利帰属についてきちんとした契約を結んでおくことをおすすめします。

 

 

5 退職時の注意点

 

上記の要件を満たし,会社が著作者と認められる場合にも,

当該従業員の認識不足等が原因でトラブルが生じることがあります。

 

例えば,当該著作物自体を従業員が保管していたことから,退職時に持ち出されてしまう。

または,会社が今後利用できないように廃棄されてしまうなどです。

 

一旦,廃棄ないし削除されてしまうと,復元は難しいといえます。

また,損害賠償請求を行う場合にも,損害立証の難しさから,

損害回復の実効性は低い場合が多いといえます。

 

日頃から,従業員作成物についての権利帰属を明確にし,意識喚起しておくこと,

退職時には,事前に作成著作物等の引き継ぎを指示することが大切です。

 

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 橘 里香◆

<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2015年2月16号(vol.168)>

※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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