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法務情報

2025/06/10

法務情報

「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」の策定(弁護士 鈴木 孝規)

1 はじめに

AI技術の普及・発展により、事業活動においてAI技術を用いたサービスを利用し、さらには、AI技術を用いたサービスに関する契約を行っている企業もあるのではないかと思われます。


AI技術を用いたサービスの利活用を行う際の契約に関し、懸念点として、AIの利活用に関する契約に伴う法的なリスクを十分に検討できていない可能性、保護されるべきデータや情報が予期せぬ目的に利用される等、想定外の不利益を被る可能性などが挙げられています。


経済産業省は、このような懸念等も踏まえ、AI利活用の実務になじみのない事業者を含め、事業者が実務上用いやすい形式のチェックリスト(「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」)を取りまとめました。


本コラムでは、この「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」の概要等を確認していきたいと思います。

2 「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」の概要

(1)

「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」では、

汎用的AIサービス提供型
AI利用者が、事業者(AI開発者・AI提供者)が提供する汎用的AIサービスを利用するケース
新規開発型
AI利用者が、事業者(AI開発者・AI提供者)と提携して独自のAIシステムを開発・利用するケース
カスタマイズ型
AI利用者が、事業者①(AI提供者)が利用者向けに改良・調整したAIサービス(カスタマイズサービス。事業者②(AI開発者・AI提供者)が開発・提供する汎用的AIサービスに対して、事業者①が開発した付加的な機能を組み合わせたもの)を利用するケース


以上の3つのAI関連サービスを想定しつつ、AI関連のサービス契約を締結するにあたり、考慮することが望ましい論点の所在を示しています。


また、チェックリストで取り上げているものは、データの適切な利用とリスク分配の観点から特に留意すべきと思われる条項とし、リスク判断に関しては、取り上げられていない条項についても十分に検討することが望ましいとしています。


また、チェックリストは、ユーザ(AI関連サービスの利用者)がベンダ(AI関連サービスを提供する者)に対し「インプット」を提供し、ベンダがサービス内容に応じた「アウトプット」を出力・提供する場面を想定しているとしています。

(2)

チェックリストの項目については、例えば、以下のようなものが挙げられています。


 <チェックリスト項目(例)

●インプットの定義を定める条項
□インプットの定義は、ユーザがベンダに対し提供する情報のうち、契約上保護することが必要な情報を含んでいるか
□インプットの定義に疑義はないか
□ユーザのサービス利用目的に照らして、上記内容は許容できるか

●ベンダによるインプットの利用目的を定める条項
□インプットの利用目的が定められているか
□ユーザのサービス利用目的に照らして、上記内容は許容できるか

●アウトプットの定義を定める条項
□アウトプットの定義は、ユーザのサービス利用目的を十分にカバーしているか
□アウトプットの定義に疑義はないか(特に開発型契約の場合には、開発対象が不明確となる場合が少なくないため注意)
□ユーザのサービス利用目的に照らして、上記内容は許容できるか

●ユーザによるアウトプットの利用目的を定める条項
□アウトプットの利用目的の定めがあるか
□ユーザのサービス利用目的に照らして、上記内容は許容できるか


また、前記のチェックポイント以外にも、契約締結断念を除き、事実上取りうる対応が記載されています。


例えば、前記の「インプットの定義を定める条項」では、「提供情報がインプットの定義に合致するかを、情報提供の前に事前に確認する」「インプットの定義に該当しない情報は、ベンダが自由に利用可能であることを前提に、不必要な情報は提供しない」と記載されています。

(3)

事実上取り得る対応には、不必要な情報は提供しないやこれと同趣旨と思われるものが複数散見されます。

これは、ベンダにインプットを提供すると、そのインプットが学習されAIサービスの改良に利用される可能性や、契約内容によっては、ベンダ側が提供された情報を利用したり第三者に提供できたりする可能性も考えられるため、このような対応が必要とされているものと思われます。


個人情報や自社の機密情報等を提供してしまうと、個人情報保護法違反のおそれや、自社の機密情報が公知のものとなり、予想しない損失を被るリスクもあるため、特に注意すべきものといえます。


このようなリスクを防止するため、AI関連サービスを導入する場合にあたっては、当該サービスに関する社内規則の作成や従業員への周知等も検討すべきでしょう。

3 おわりに

事業活動においてAI技術を用いたサービスを利活用することは、今後さらに増加していくことが予想されます(私も、今回のコラムのテーマを選定するにあたって、AI技術を用いたサービスを利用しました)。


それに伴い、期待していた結果が得られなかった、本来外部への提供ができない情報を提供してしまった、などのAI技術を用いたサービスに関連するトラブルも増加していくのではないかと思われます。


自社の契約目的が達成できるようにするためにも、また、法律違反や機密情報の漏洩等不測の事態に陥らないためにも、必要に応じてチェックリストを活用するなどしてAI関連サービスの契約・利用等に関する理解を深めていくことが重要になると思われます。


参考:経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(令和7年2月)

この記事を執筆した弁護士
弁護士 鈴木 孝規

鈴木 孝規
(すずき たかのり)

一新総合法律事務所  弁護士

出身地:静岡県静岡市
出身大学:一橋大学法科大学院既修コース卒業
主な取扱分野は、企業法務(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収など)。そのほか相続、金銭トラブルなど幅広い分野に対応しています。
企業法務チームに所属し、社会保険労務士向け勉強会では、ハラスメント対応をテーマに講師を務めた実績があります。

 

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