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法務情報

2025/06/03

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安全配慮義務と過失について(弁護士 中川 正一)

労災事故弁護士中川正一新発田事務所

1.はじめに

労働災害(労働者が労務に従事したことによって被った死亡、負傷、疾病)の補償は、第一次的に労災保険制度によってなされる仕組みになっています。

ただし、労災保険は損害の全額を賄える仕組みにはなっていません。

そのような場合、不足分はどうすれば良いのでしょうか。

労働者を使用していた使用者に請求する方法が考えられますが、我が国では過失責任の原則を採用しているので、使用者に過失責任があることが前提になります。

2.安全配慮義務

(1)過失責任の判断について

では、どのような場合に、過失責任があるといえるのでしょうか。

一般的に、使用者には、労働者の職場における安全と健康を確保するために十分な配慮をなす債務(安全配慮義務)を負う、と考えられています。

例えば、労働者が職場において、自損事故を起こした場合、労働者は自らの過失において事故を起こしてしまっているわけですから、使用者には過失責任はなさそうです。

しかし、暗い冷凍庫内で狭いスペースを通行して高く積み上げられた商品を、機械を使って積み下ろしする作業中に自損事故を起こしてしまった事案について、裁判所は、高く積み上げられた商品が荷崩れするおそれや、暗い冷凍庫内での機械の操作が
困難である事情、従業員の経験が正味1週間しかなかったことなどを考慮して、使用者に作業方法の監督や、ヘルメットの着用を義務づけ、その着用を確実に履行させる指示監督すべき注意義務があった、として使用者に過失責任を認めました。

ただし、労働者側の落ち度も大きいため、過失割合は50%とする結論でした。

このような場合、労働者は、損害の50%を使用者に請求できることになります。

ただし、労災保険が補償した部分は使用者が免責されます(一部例外あり)。

(2)過失責任の割合について

以上のように、裁判所では比較的広範囲に安全配慮義務を認める傾向にあります。

ただし、労働者側の落ち度が大きいときには、過失割合で調整することになります。

例えば、ゴルフ場のキャディーの業務に従事中に、プレイヤーの打球が当たって負傷した事案では、ゴルフプレーヤーの前に出ることが危険な行為であることは通常十分に認識できることであることから、使用者側の安全配慮義務違反を認めつつ、労働者
側の落ち度を80%と認定し、使用者に対する請求は20%しか認めなかった事案もあります。

3.おわりに

何をもって安全配慮義務違反といえるか、また労働者側の落ち度をどのように判断されるかは個別事案ごとに判断されますので、労働災害がありましたらご相談してみてください。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 中川 正一

中川 正一
(なかがわ まさかず)

一新総合法律事務所
理事/新発田事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:電気通信大学大学院情報工学専攻(中退)

新潟県弁護士会副会長(平成26年度)、現在は新発田市情報公開・個人情報保護審査会委員、新発田市行政不服審査委員などを歴任しています。取扱分野は、離婚、相続、交通事故など。その他、借金問題や、建築・不動産、労働問題など幅広い分野に精通しています。
特に相続・成年後見・家族信託等をテーマとしたセミナー講師を務めた実績が多数あります。


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