【法務情報】保証と相続
保証人の責任が相続されるのか,この問題は保証の種類によっても答えが様々です。
亡くなった方自身には,何ら借金はないが,人の良い性格で他人の保証人になってしまっていて多額の支払いを請求されたということは良く耳にする話です。そこで,今回は,保証人の責任が相続されるのか,相続人において保証人の責任を負い続けるのかについて,見ていきたいと思います。
第1 保証の種類と相続の有無
1 特定債務の保証
特定債務の保証とは,例えば,兄弟が知人から100万円を借りるに当たって,保証人になったというような,1回限りの内容が特定された債務についての保証です。
この場合,判例・通説は,相続性を肯定します。保証人の死亡により,無保証になるとすると,保証という制度自体が極めて不安定になってしまうとの考えがあるからです。
2 継続的保証
他方,継続的保証の場合については,考え方が異なります。
(1) 包括根保証の場合
限度額及び責任期間に定めのない包括根保証契約については,判例・通説は,原則として保証債務の相続性を否定します。保証人の負う責任が広汎になることが予想されるが,そのような広汎な責任を主債務者と信頼関係のない相続人にまで及ぼすことは過酷にすぎると考えるからです。
ただし,被相続人死亡以前に,保証人として支払わなければならない具体的債務が発生していた場合には,当該債務は通常の債務として相続されますので,誤解のない様,ご注意下さい。
なお,民法改正により平成17年4月1日以降は,包括根保証自体が禁止されており,同日以降の包括根保証は無効です。
(2) 貸金等根保証契約の場合
貸金等根保証契約とは,①根保証(=一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約)で,②主たる債務に金銭の貸渡しまたは手形の割引を受けることによって負担する債務が含まれるもので,③個人を保証人とするものについては,民法465条の4第3項で保証人の死亡によって元本が確定するとされていることから,確定した元本の範囲で相続されることになります。
3 身元保証
身元保証とは,雇用契約にともなって,使用者が将来被用者によって受けるかもしれない損害を第三者にあらかじめ担保させる保証契約をいいます。
身元保証は,保証人と被保証人(就職する人)との人的信頼関係を基礎として行われることから,身元保証人の地位は相続されません。
ただし,この場合も,被相続人死亡以前に,保証人として支払わなければならない具体的債務が発生していた場合には,当該債務は通常の債務として相続されます。
4 賃貸借契約における保証
判例・通説は,賃貸借契約締結時における保証は,相続人に相続されると解します。
なお,賃貸借契約の保証は,特段の事情がない限り更新後についても保証責任が認められると解されることにも注意が必要です。
第2 保証債務相続と相続放棄
保証債務の相続が怖いのは,被相続人自身が借金をするわけではないことから,請求がくるまで,相続人においてもそのような債務を負っていることに気がつかない場合が多いということです。
亡くなった時点で,多額の債務があることを知っていたら,相続放棄を行うという対応も考えられます。
しかし,保証債務の場合は,通常の相続放棄熟慮期間である3ヶ月を超えて,時間が経った後で判明することが多いのです。
しかしながら,このような場合,判例は一定の場合には,例外的に相続放棄熟慮期間が経過していないとして相続放棄を認める場合があります。
ですから,そのような場合には,すぐに弁護士に相談してみて下さい。
第3 まとめ
以上のように,保証人の責任については,相続を認めるとその責任が余りにも酷になるとの理由から相続が否定されるものも存在しますが,その多くは,やはり相続の対象になります。
家族が,知らない間に保証人になっていないか,いずれ相続をする立場であれば,意識的に確認をしておくことが大切です。
特に,被相続人になる方が過去に商売をされていたことがある場合,付き合い上,保証人になっているという場合が多々見受けられます。
また,賃貸借契約の保証は,その責任が更新後も続くことから長期に及ぶことが多いにも関わらず,気軽に保証人になってしまう方が多いようです。未払賃料も数ヶ月に及べば高額になる場合も多いことや,原状回復費用等も含めて保証人の責任が生ずることから,いざ問題になるときには,高額な負担を強いられるケースも多々あります。
自身が保証を行う場合に,十分に注意が必要な事はもちろん,被相続人となる家族がそのような保証を行っていないかも十分な注意が必要です。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 橘 里香◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2012年11月30日号(vol.115)>