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従業員の交通事故死と業務起因性について

 │ 新潟事務所, 弁護士角家理佳, 労働, 燕三条事務所, 長岡事務所, 新発田事務所, 上越事務所, 労災事故, 東京事務所

事案の概要

一昨年、最高裁から、従業員の交通事故死に関する労災保険給付について、注目すべき判決が出ました。

事案を見てみましょう。

 

死亡した従業員Xは、親会社であるA社からB社に出向中でした。

B社は以前から、A社の中国における子会社より中国人研修生を受け入れていました。

平成22年12月、B社の生産部長であり社長業務を代行していたC部長の発案で、研修生と従業員との親睦目的の歓送迎会が開催されました。

費用は会社の福利厚生費から支払われました。

 

Xは、歓送迎会の翌日が社長への資料提出の期限だったことから、欠席の回答をしました。

しかし、C部長は、「今日が最後だから、顔を出せるなら出してくれないか。」と言い、さらに資料が完成しなければ、自分が歓送迎会の後に一緒に資料を作るとも言いました。

 

そこで、Xは、資料の作成を一時中断し、懇親会場の飲食店に社有車で向かい、最後の30分ほどに参加しました。

C部長はXに「食うだけ食ったら、すぐ帰れ。」と言いました。

 

歓送迎会終了後、Xは、C部長が送る予定だった研修生らを住居まで送り、その後会社に戻るつもりで社有車を運転中、研修生の住居に向かう途上で交通事故に遭い、死亡してしまいました。

 

 

労災保険法上の業務起因性

労働者の負傷、疾病、障害または死亡が労災保険法に基づく業務災害に関する保険給付の対象となるには、それが業務上の事由によるものであること、すなわち業務と疾病等との間に因果関係があること(業務起因性)が必要です。

また、その前提として、労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態(業務遂行性)が必要であると解されています。

そして、社外行事の業務遂行性に関しては、これまで被災労働者に、当該行事への参加が「強制」又は「命令」されていたことが必要であると考えられてきました。

 

しかし、本件について最高裁は、業務を中断して歓送迎会に参加し、再び業務に戻ろうとしたXの一連の行動は、会社がXに職務上、要請したものであるとして、業務遂行性を認めました。

最高裁が考慮した事情

最高裁が上記判断をするにあたり考慮した事情は主に次の3点です。

 

①Xが一連の行動をとるに至った経緯についてXが業務を一時中断して歓送迎会に途中から参加した後に職場に戻ることになったのは、C部長から歓送迎会への参加を打診された際に、業務に係る資料の提出期限が翌日に迫っていることを理由に断ったにもかかわらず、歓送迎会に参加してほしい旨の強い意向を示されるなどしたためであったこと。

②歓送迎会について

歓送迎会は、B 社が事業との関連で親会社の中国における子会社から研修生を定期的に受け入れるに当たり、C部長の発案により、研修生と従業員との親睦を図る目的で開催されてきたものであって、従業員及び研修生の全員が参加し、その費用がB社の経費から支払われるなどしていたこと。

③運転行為について

Xは、B社の所有する自動車を運転して研修生をその住居まで送っていたところ、研修生を送ることは、歓送迎会の開催に当たり、C部長により行われることが予定されていたものであり、その経路は、職場に戻る経路から大きく逸脱するものではなかったこと。

最高裁の判断

最高裁は、①の事情から、Xは、C部長の意向等により歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、その結果、歓送迎会の終了後に業務を再開するために職場に戻ることを余儀なくされたものというべきであり、B社はXに対し、職務上、一連の行動をとることを要請していたものといえること。

②の事情(懇親会の開催の経緯、主催者、目的、その内容、参加方法、費用の負担等)から、本件懇親会は研修の目的を達成するためにB社が企画した行事の一環と評価され、B 社の事業活動に密接に関連して行われたといえること。

③の事情(送迎に至る経緯や経路)から、事故発生時のXの運転行為はB社から要請された一連の行動の範囲内のものであったと言えること。

をそれぞれ指摘しました。

 

そして結論として、歓送迎会が事業場外で開催されたこと、アルコール飲料も供されたこと、研修生を送ったことにC部長らの明示的な指示があったとはうかがわれないことを考慮しても、Xは本件事故の際、なお会社の支配下にあった、と評価し、Xの死亡と運転行為との間の相当因果関係を認めたのでした。

本判決の意義

この判決は、業務遂行性について、具体的経緯や実態を実質的に検討し、総合的に判断したものと言われており、柔軟な枠組みと言えそうです。

事例判断ではありますが、実務上は参考になるものと思います。

しかし、もしC部長が資料の提出期限を延ばすなどの措置を取っていたら結論が変わっていたのか、また、歓送迎会は強制参加だったが、終了後の送迎行為は自発的に行われていたという場合にも業務遂行性が認められるか等について、直ちに結論を導き出せるものではなく、その意味で、基準というにはやや曖昧です。

特に、労災認定は統一的かつ公平であることが求められるものであり、今後の事例の集積が待たれるところです。

 

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 角家 理佳

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2017年11月5日号(vol.214)>

※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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