2025/06/19
法務情報
ロピアに対する公正取引委員会の立ち入り検査:独禁法違反の疑い(弁護士 朝妻 太郎)
新潟県外の方には直接関係のない話題とはなりますが、先月新潟市内にスーパーマーケットの「ロピア」が初出店し、大変な賑わいをみせたと報道されました。
相当な活気と、豊富な品揃えに驚いていたところ、ロピアに関する心配な報道がありました。
1.報道の概要
2025年6月16日、公正取引委員会(公取委)は、スーパーマーケットチェーン「ロピア」に対して、独占禁止法違反の疑いで本社及び関連店舗への立ち入り検査を実施しました 。
公取委は、新規出店や店舗改装に際し、ロピアが納入業者に対して商品陳列業務などを無償で行わせていた疑いがあるとして、この行為が独占禁止法第2条9項5号に該当し、同法第19条違反の可能性があることを視野に調査を行っています(不公正な取引方法(優越的地位の濫用)に該当)。
ロピアは調査について「厳粛に受け止め、全面的に協力するとともに、社内のコンプライアンス体制を見直す」とコメントを公表しています 。
2.独占禁止法の定め
今回の報道で指摘されている条文を見てみましょう。
【独占禁止法第2条9項】
この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
- 5 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
- ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
【独占禁止法第19条】
事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
ロピア側が納入業者に無償で商品陳列作業を行わせた行為が、取引上の優越的な地位を背景に「自己のために役務その他の経済上の利益を提供させた」といえるか否かが問題となります。
3.公取委の対応
公取委は、優越的な地位の濫用の事実が認められた場合には、排除措置命令(独占禁止法第20条 違反行為の差止め等違反行為を排除するために必要な措置を命じるもの)、課徴金納付命令(独占禁止法第20条の6 違反行為にかかる期間における違反行為の相手方との取引額に一定の算定率を掛けた額の課徴金を課するもの)を下すことができます。
一方、排除措置命令等の法的措置を行うに足る証拠が得られなかった場合や、違反行為の存在を疑うに足る証拠が得られなかったが違反につながるおそれがある場合に、未然防止や是正の観点から行われる行政指導として「警告」が発せられる場合があります。
優越的地位の濫用の事案ではありませんが、最近では、一般社団法人日本野球機構に対する警告が記憶に新しいところです。
(関連記事:公正取引委員会「(令和7年6月11日)一般社団法人日本野球機構に対する警告について」)
ロピアの件について、今後の調査結果によって公取委がどのような結論を下すのかにも注目です。
4.さいごに
今回のケースがどのような経緯で発覚し調査が開始されたのか詳らかにはなっておらず、今後の報道を見守るしかありませんが、早速、SNS上ではロピア叩きが展開されています。
ここまで急激なスピードで成長を遂げてきた同社でしたが、ケチが付く状況となってしまいました。
同社の広報に記載されているとおり、再発防止に向けた実効性ある是正措置が求められます。
コンプライアンス違反に対する世間の風当たりの強さを目の当たりにし、コンプライアンスの重要性を再認識させられました。
また、今回のケースにおける納入業者の立場で考えますと、大手の取引先から不当な役務提供を求められないように、どのように対処することが考えられたでしょうか。
大手企業と取引を行う際には、取引条件の明確化を図ること(今回で言えば、店舗作業の有無、人的負担の有無等を文書化して明確にすること)が考えられますが、パワーバランスの中で、立場の弱い側が契約書に注文を付けることは簡単なことではありません。
そのため、万が一に備えて、不当な取扱いを受けた場合の相談窓口を確認しておくことや、新規取引を開始する際にどのようなリスクがあるか契約時点でよく検討しておくことなどが、現実的な対応策として考えられます。
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