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導入する企業が増加している「オヤカク」とは?
「オヤカク」という言葉は、企業の人事採用において、応募者本人の同意以外に親から内定同意などについての再確認をとること、つまり「親の確認」の略語ということだ。
初めて聞いた略語だが、最近ではそんなことがあってもおかしくないかもしれないという気も何となくする。
私の顧問先の食品製造業の社長から、数年前に「先生、なぜ企業が外国人研修生を活用するのか、わかりますか?」と聞かれたことがある。
私は「実質的に支払う費用が安いせいでしょう」と言ったが、社長は「それもあるが」と前置きして、「日本人の若者は親が難しいんですよ」と言った。
「どうしてですか」と聞くと、夜間の勤務となると必ず親から「うちの子の帰りが遅い」というクレームが入るのだという。
そういうクレームに対応しているだけで、担当者は疲弊するのだという。
そのときは、時間外労働の法規制遵守が問題なのではないかと内心思ってはいて、親がいつも介入するわけもなかろうと考えていた。
実際の相談場面でも
労働問題の相談を受ける際に、まれに親が相談面談の場に同席することがある。
「子ども本人にパワハラ的な対応をして、職場に居られなくなるようにしたのは上司の責任だ」と訴える親とは別に、本人に話を聞くと本人は親の言う通りだとして、具体的な事実について親ほど雄弁に語れない。
最後に交渉方針の共有をするために、私が本人である子どもに「職場に戻る方向での交渉で良いのか」と聞くと何となく煮え切らない。
逆に親の方から「先生、ぜひそうしてください」と言われてしまう。
親が過度に子どもの労働のあり方に関わることは、子どもと親との関係性が問題なのだろうと思っていたし、なべて日本社会において一般化できる話ではないとも考えていた。
「親の思い」は採用時に無視できないものに
しかし、採用企業側が「オヤカク」をする理由を見れば、若者本人の内定辞退防止による人事採用コストの低減や採用後の親とのトラブル防止というのだから、けっこうそれなりの現実に迫られているのかもしれないとも思う。
ヨーロッパやアメリカの文化では考えられないというのは簡単だが、各企業も日本の現実に対する対策を考えないわけにもいかないだろう。
労働契約が採用する側と採用される側の意思の一致が成立の要件だ、というのも法律上の理屈の話でしかない。
ただ法律上の理屈の話はそれなりに原則として重要だろう。
せめて、それを意識・認識した上で、採用される若者本人に対して、企業としては、親にはどのような情報を提供して欲しいのか必要であればいつでも言って欲しいとか、それなりに親にも理解してもらえる情報としてこのようなサイトがあるなどは必要になるのではないだろうか。
法律家ではなく、一人の親として
そういう弁護士である自分自身も、一人の親であって、子どもの就職に無関心でいられたわけではない。
私事で恐縮だが、4人の子どもの親としてはとにかくそれぞれ心配はした。
一人の子が就職のための進路に迷えばアドバイスもしたし、就職後に過酷な職場環境と思われればそれなりに心配もした。
ある子どもに対しては、事後報告になっても、何が魅力でどうしてそこに就職したいのかは、しつこく聞いたりもした。
別の子が仕事の関係でテレビに出ることになったと聞けば、一所懸命録画したりもした。
要は、やはり親バカなのだろう。
問題は、一個の人間として、親子の距離感の問題ではないか、とも思っている。
もし、自分に「オヤカク」が来たとすれば、その子に何て言うのだろうか。
「うちの親は自分に任せると言っていました、と言ってくれ」かもしれない。
もしかしたら、啖呵を切って「お前を信用しないなら、早いとこ見切りをつけたほうがいい」と言うのかもしれない。
だが、それほど威勢良くも言えず、「ああ、わかった、それで良ければ何でも書く」ということに急になるかもしれない。
とにかく、その場にならないと、子どもの顔でも見ないと、あまり格好いいことは言えないのが、親なのかもしれない。
意外にも、自分と子どもの関係は傍目に見る以上にウエットなのだと、今さら気づき始めた。
それこそ、「ここの会社はどうなっている!」と、最後は親クレームをバンバン言いそうな気もしてきた。
いやいや、どうも法律家らしからぬ自分というものがありそうだ。
偉そうなことは言えない。
この記事を執筆した弁護士
和田 光弘
(わだ みつひろ)
一新総合法律事務所
理事長/弁護士
出身地:新潟県燕市
出身大学:早稲田大学法学部(国際公法専攻)
日本弁護士連合会副会長(平成29年度)をはじめ、新潟県弁護士会会長などを歴任。
主な取扱い分野は、企業法務全般(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)。そのほか、不動産問題、相続など幅広い分野に精通しています。
事務所全体で300社以上の企業との顧問契約があり、企業のリスク管理の一環として数多くの企業でハラスメント研修の講師を務めた実績があります。
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