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法務情報

2026/04/06

法務情報

猟銃の所持許可取消訴訟の最高裁逆転判決(弁護士:中川 正一)

コラム弁護士中川正一新発田事務所

昨年(2025年)11月10日の法務情報で触れた「クマ出没と緊急銃猟」では、ヒグマを駆除した際、銃弾が周辺の民家に当たる恐れがあったとして、猟銃の所持許可を取り消した処分は違法として争った事案を紹介しましたが、当時、最高裁で事件が係属中でした。

そのため、私も先回の原稿を「クマ出没が急増し、死亡事件も発生している現状に照らし、猟友会が躊躇なく対応できる体制の確立が期待されます。

特に跳弾による危険性をどのように判断するかは改正前の判断と共通するところ、前記事例の最高裁判断が待たれます。」と結んでおりました。

その最高裁判決が、令和8年3月27日に出ました。

結論は、猟銃の許可取消は違法ではないとして、行政処分を維持した高裁判断を覆すいわゆる逆転判決でした。

考え方としては、跳弾による危険性判断に関しては高裁判断を維持しながら、銃刀法や鳥獣保護管理法に明文の規定はないものの、特措法(各地の鳥獣被害対策実施隊員が公務員としてする鳥獣による被害の防止のための活動に財政的な支援をする)の趣旨を考慮し、本件の銃砲の許可取消し処分が不当と判断するものでした。

では、その詳細を見ていきましょう。

1.問題の所在

銃刀法は銃などの所持の許可を受けた場合でも原則として発砲を禁止しています。

ただし、有害鳥獣駆除の用途に供するため猟銃等の許可を受けた者が、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(以下「鳥獣保護管理法」といいます。)の規定により鳥獣の捕獲等をする場合を発砲禁止の例外と定めています(銃刀法10条2項1号)。

ところで、鳥獣保護管理法38条3項では「弾丸の到達するおそれのある人…建物…に向かって、銃猟をしてはならない。」と定めています。

前記事案では、弾丸の到達するおそれのある建物が存在し、それに向かって発砲したと判断されたため、鳥獣保護管理法に違反し、前記銃刀法の発砲禁止の例外とみなされない結果、発砲自体が銃刀法違反と判断されたもので、当該判断の当否が以下の裁判によって争われました。

2.控訴審の内容

控訴審では、鳥獣保護管理法38条3項は、弾丸の到達するおそれのある人、建物等に向かってする銃猟行為は、人の生命、身体等に対する危険を防止しつつこれを行うことが困難であることから一律にこれを禁止しており、その行為の当該具体的状況の下における具体的危険の有無を問わないものと判断しました。

そのうえで、被処分者が本件ライフルを向けた方角の90メートル以内に建物が5軒あったことから、本件発射行為は「建物等に向かってする銃猟行為」に該当すると判断し、禁止する鳥獣保護管理法、銃刀法に違反するとしました。

さらに、裁量権の逸脱にあたるかの判断についても、以下の点を重視しました。

  1. 本件発射行為による弾丸が周辺建物5軒に到達する相応の危険性があったところ、当該違反行為は軽微とはいえない。
  2. 弾丸の跳飛の一般的様相は極めて複雑で、跳弾は飛んで行く方向が分からず複数回起こりうる等に鑑みると、本件発射行為は現場にいた隊員、警察官や市職員の生命・身体も危険にさらしたというべきである。
  3. 被処分者は、捜査が開始されてから本件処分時までの間に、本件発射行為が危険なものであることを受け入れず、一貫してその正当性を主張しており、同種違反の再発可能性があると言わざるを得ない。

控訴審は、このような評価の下、裁量権の逸脱・濫用に当たらないとしました。

これは猟友会にとって衝撃的な内容でした。

跳弾の予測は難しく、現場を萎縮させるなどの現場も声もあるようです。

3.最高裁の判断

(1)銃砲の許可取消の裁量の範囲を以下のとおり判断しました

 銃砲の所持についての許可の取消処分を定める銃刀法11条1項柱書に「都道府県公安委員会は…その許可を取り消すことができる」と規定しているところ、上記処分をするか否かの判断に際しては、違反の態様、程度やこれが社会に及ぼす影響といった諸事情を、銃砲の使用等に関する危害の予防(同法1条)等の観点から、銃砲に関する専門的知識も踏まえて総合的に勘案する必要がある。

 鳥獣保護管理法38条3項が、弾丸の到達するおそれのある人、建物等に向かって銃猟をすること自体を禁止している。これらの銃砲の使用等によって人の生命、身体又は財産に対する危害を生ずることの防止を重視する趣旨は十分に考慮されるべきである。

 他方で、人の生命、身体等に対する危害を防止するために銃砲の使用が求められる場合があり、特措法は、各地の鳥獣被害対策実施隊員が公務員としてする鳥獣による被害の防止のための活動に財政的な支援をすることなどによって、同活動を通じて住民を始めとする農林水産業に従事する者等の生命、身体、財産又は生活環境に係る被害の防止を図る趣旨に出たものと解される。

 そうすると、前記イの観点からは、本件許可の取消しが相当であるといえたとしても、本件発射行為が市の鳥獣被害対策実施隊員であった上告人に対する出動の要請を契機として行われたものであることに照らし、上記取消しをすることが上記特措法の趣旨に沿わない事態を招くおそれが生じさせる場合には、そのことを上記取消しに係る判断において事情として考慮することができるものというべきである。

(2)具体的な判断

 本件ライフル銃から発射された弾丸は周辺の建物並びに人に当たる危険性があったことは前記高裁と同様の判断をし、さらに「上告人は、本件発射行為に際し、安土の確保等に関する基本的な判断を誤った可能性も否定できない」と判断しました。

イ しかしながら、他方で、本件発射行為に至る経緯についてみるに、市の鳥獣被害対策実施隊員である上告人は、市から出動の要請を受けて甲地区に赴き、一旦はヒグマを逃すことを提案したものの、A職員から住民が強く要望していることなどを理由として駆除を依頼され、A職員及びB警察官により付近の住民に対して避難誘導がされるなどする中で本件発射行為に及んだというものである。

このような経緯に照らせば、前記(1)ウの一貫として行われたものと理解でき、もとより上記の経緯に不適切な点は見当たらない。

加えて、以上のとおり、上告人は、周辺住民等のために本件ヒグマを駆除することを期待され、付近の住民の安全確保のための措置がとられる一方で自らは本件ヒグマに18m前後という近距離で対じするという緊迫した状況において、本件発射行為に係る判断を求められ、ハンターとしての知見や経験を踏まえて短時間のうちに本件発射行為に至ったのである。

そして、本件発射行為によってC隊員に具体的な死傷の結果が生じたことはうかがわれないことにも鑑みれば、上告人が個人として受けている本件許可を取り消すことは、上告人に酷な面があるのみならず、鳥獣被害対策実施隊員が有害鳥獣の捕獲等の活動を行うことや、さらには民間人が同隊員に任命されること自体をちゅうちょさせるなど、周辺住民等の利益の保護に資する同隊員の職務の遂行に萎縮的な影響を及ぼし、ひいては、上記特措法の趣旨に沿わない事態を招くおそれを生じさせるものと考えられる。

以上によれば、本件発射行為を理由として本件許可を取り消すべきとした北海道公安委員会の判断は、重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、本件処分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法というべきある。

4.補足意見

最高裁の判断は全員一致ですが、以下のような補足意見もありました。

(1)鳥獣被害対策実施隊員の職務遂行に萎縮的な影響を及ぼすことが特措法の趣旨に沿わないとする見解

銃刀法や鳥獣保護管理法の規定は、基本的には、個人的な用務による銃猟について、住居集合地域等以外で使用を想定しているのに対し、本件発射行為が鳥獣被害対策実施隊員(非常勤の公務員)である上告人が、市からの出動要請を受けて自らがヒグマから襲われる危険性を抱えながら現場に臨み実施されたものであることに着目する補足意見がある。

しかも本件では、上告人が本件ヒグマを逃すことを提案したのに対し、市の職員から住民が強く要望していることなどを理由として駆除を依頼され、本件発射行為に至っていることにも着目し、上告人が、公務員(同隊員)としてした本件発射行為を理由として、個人として受けている本件許可を取り消されることは、上告人にとって酷であるし、地域の鳥獣被害対策実施隊員の職務遂行に萎縮的な影響を及ぼすことも否定できない事態は特措法の趣旨に沿わない、とするものです。

(2)住民らの生命・身体を熊から守るという公益目的に着目した見解

銃猟による駆除を行うに際し、跳弾による住民等他人の生命・身体に対する被害のおそれを軽視すべきではなく、危害を加える危険性の高い害獣に対して発砲する場合であっても、人の生命・身体の安全に十二分な注意が必要であることは論を待たない。

しかしながら、熊による人の生命・身体に対する現実の被害が看過しがたい程度に達している中で、住民らの生命・身体を被害から守るという公益目的での銃猟による害獣の駆除はほとんどの場合地方自治体の嘱託などを受けた民間人に委ねられている。

一方、銃猟による害獣の駆除は、傷を負った害獣の反撃等も予想されるなど、例えば、急な呼び出しへの待機・対応を常時必要とすること、駆除に伴う精神的な負担、駆除の是非に関する応酬など、諸々のリスクにさらなれながら行う実質的に無償に近い公益性のある活動であり、個別具体的な事案において、これらを考慮、評価しないことは、公平・公正を欠くものと言わざるを得ない。

本件における銃砲所持許可取消しに至る一連の行政の対応・判断が爾後駆除への積極的な協力をちゅうちょさせる強い動機になることは想像に難くない。

緊急銃猟の場合を含め、個別具体的な事件において、公益性とそれによって生じた危険を比例原則によって調整するなどの途を探らない限り、銃猟による駆除の担い手が将来的には存在しなくなることを懸念する。

(3)まとめ

以上のように、補足意見(1)は市からの出動要請を受けた鳥獣被害対策実施隊員(非常勤の公務員)が職務行為に萎縮することを、補足意見(2)はそれに加え、緊急銃猟の場合も含めて、銃猟による将来の駆除の担い手がいなくなることの懸念を表明しています。

今回の最高裁判決は、先回の結びにもあった「クマ出没が急増し、死亡事件も発生している現状に照らし、猟友会が躊躇なく対応できる体制の確立が期待されます。」という社会の要請に正面から応えたものであり、概ね世間に好意的に受け入れられたように感じています。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 中川 正一

中川 正一
(なかがわ まさかず)

一新総合法律事務所
理事/新発田事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:電気通信大学大学院情報工学専攻(中退)

新潟県弁護士会副会長(平成26年度)、現在は新発田市情報公開・個人情報保護審査会委員、新発田市行政不服審査委員などを歴任しています。取扱分野は、離婚、相続、交通事故など。その他、借金問題や、建築・不動産、労働問題など幅広い分野に精通しています。
特に相続・成年後見・家族信託等をテーマとしたセミナー講師を務めた実績が多数あります。

 

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