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社会で実際に起こった、事例や改正された法律をふまえ、法律に関する情報をご紹介します。

裁量労働制に関する法改正(弁護士:鈴木孝規)

 │ 新潟事務所, 労働, 弁護士鈴木孝規, コラム

1 はじめに

 

裁量労働制に関する省令等が改正され、令和6年4月1日から施行されることにより、同日以降、新たに裁量労働制を導入する場合、または裁量労働制を継続する場合には、新たな手続が必要になりました。

本コラムでは、主として裁量労働制の導入にあたって必要な手続に関する改正の概要等について説明したいと思います。

 

2 現在の裁量労働制の概要

裁量労働制は、ある一定の業務に従事する労働者について、実際の労働時間に関わらず、労使間で予め定めた時間労働したものとみなす制度のことです。

裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類があります。

⑴ 専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量に委ねる必要があるため、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして定められた業務の中から、対象となる業務等を労使協定で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使協定で予め定めた時間労働したものとみなす制度です。

 

現在の制度上では、専門業務型裁量労働制を導入するにあたっては、過半数労働組合または過半数代表者と、制度の対象となる業務や労働時間としてみなす時間等の一定の事項を定めた労使協定を締結したうえ、個別の労働契約や就業規則を整備するとともに、労働基準監督署に協定届を届け出る必要があります。

⑵ 企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制とは、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査および分析の業務であって、業務の性質上、これを適切に遂行するには、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、業務遂行の手段や時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務等について労使委員会で決議し、労働基準監督署長に決議の届出を行い、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使委員会の決議であらかじめ定めた時間労働したものとみなす制度です。

 

現在の制度上、企画業務型裁量労働制を導入するにあたっては、まず、労使委員会を組織し、企画業務型裁量労働制の実施のために労使委員会で決議をします。

その後、個別の労働契約や就業規則等の整備をするとともに、労働基準監督署に決議届の届出を行い、また、労働者本人の同意を得る必要があります。

企画業務型裁量労働制を導入した企業は、労働基準監督署へ6か月以内ごとに1回、定期報告を行う必要があります。

3 改正の内容等

 

 ⑴ 専門業務型裁量労働制について

専門業務型裁量労働制については、改正により、労使協定に、労働者本人の同意を得ることや、同意をしなかった場合に不利益取扱いをしないことを定めることが必要となります。

労働者本人の同意は、対象労働者ごと、労使協定の有効期間ごとに得ることが必要とされています。

 

また、労使協定に、同意の撤回の手続と、同意とその撤回に関する記録を保存することについても定めることが必要となります。

同意の撤回の手続は、同意を撤回する場合の申出先(部署や担当者)、申出方法等の具体的な内容を定めることとされています。

⑵ 企画業務型裁量労働制について

企画業務型裁量労働制についても、改正により、労使委員会の決議に、同意の撤回の手続と、同意とその撤回に関する記録を保存することについても定める必要があります。

また、労使委員会の決議に、対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うことを定める必要があります。

 

労使委員会の運営規程には、対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容についての使用者から労使委員会に対する説明に関する事項(説明を事前に行うことや説明項目など)、労使員会の開催頻度を6か月以内ごとに1回とすることを定めることが必要となります。

 

労働基準監督署への定期報告の頻度も変更となり、初回は労使委員会の決議の有効期間の始期から6か月以内、その後は1年以内ごとに1回となります。

4 おわりに

今回の改正では、すでに裁量労働制を導入している企業が、令和6年4月1日以降も継続する場合、令和6年3月31日までに協定等を改正にあわせて修正等するなど必要な対応をしておかなければなりません。

裁量労働制を導入している企業については、改正の内容を踏まえて、早期に対応しておくとよいでしょう。

また、裁量労働制の導入を検討されている企業については、改正の内容を踏まえて、適切に制度設計をしたうえで導入することが必要となります。

 

_________

[参考]

厚生労働省「裁量労働制の導入・継続には新たな手続が必要です」
厚生労働省「専門業務型裁量労働制の解説」
厚生労働省「企画業務型裁量労働制の解説」

この記事を執筆した弁護士
弁護士 鈴木 孝規

鈴木 孝規
(すずき たかのり)

一新総合法律事務所  弁護士

出身地:静岡県静岡市
出身大学:一橋大学法科大学院既修コース卒業
主な取扱分野は、企業法務(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収など)。そのほか相続、金銭トラブルなど幅広い分野に対応しています。
企業法務チームに所属し、社会保険労務士向け勉強会では、ハラスメント対応をテーマに講師を務めた実績があります。


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賃金のデジタル払いについて 導入のための手続きと注意点(弁護士:鈴木孝規)

 │ 新潟事務所, 燕三条事務所, 長岡事務所, 新発田事務所, 上越事務所, 企業・団体, 弁護士鈴木孝規, コラム

この記事を執筆した弁護士
弁護士 鈴木 孝規

鈴木 孝規
(すずき たかのり)

一新総合法律事務所  弁護士

出身地:静岡県静岡市
出身大学:一橋大学法科大学院既修コース卒業
主な取扱分野は、企業法務(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収など)。そのほか相続、金銭トラブルなど幅広い分野に対応しています。
企業法務チームに所属し、社会保険労務士向け勉強会では、ハラスメント対応をテーマに講師を務めた実績があります。

1 はじめに

改正された労働基準法施行規則が、令和5年4月1日から施行されることにより、いわゆる賃金のデジタル払いが可能となりました。

本コラムでは、この改正の概要等について、簡単に説明したいと思います。

 

2 現行法上の賃金支払方法

そもそも、労働基準法上では、賃金は通貨で直接労働者に支払わなければならないと規定されており(労働基準法24条)、現金の手渡しが原則とされています。

ただし、労働者が同意した場合には、預貯金口座及び証券総合口座への振込みが認められています(労働基準法施行規則7条の2)。

このような規定により、実際には、現金手渡しではなく、預貯金口座への振込みによる方法で賃金の支払がなされていることが多いかと思われます。

 

3 改正の内容等

 

 

今回の改正では、労働者の同意を得た場合、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣が指定する資金移動業者(指定資金移動業者)の口座(○○Payなど)への資金移動により、賃金を支払うことが可能となります。

労働基準法上、現金の手渡しが原則とされているのは、労働者が確実に賃金を受領できるようにして労働者の経済的安定を図るためですので、一定の要件の中には、労働者が確実に賃金を受領できることを担保するという点から定められたものもあります。

 

例えば、保証委託契約の締結等により、破産等で支払いができなくなったときに、資金移動業者の口座残高の額が保証される仕組みを有していることや、労働者に責任のない不正の引き出し等により労働者が損失を被った場合に、その損失を補償する仕組みを有していることが要件として定められています。

また、現金自動預払機(ATM)等で資金移動業者の口座へ移動された額を1円単位で受取ができるための措置や、 少なくとも毎月1回は手数料等の負担をすることなく受取ができるための措置を講じていることも、要件の1つとされています。

 

さらに、賃金を受け取る資金移動業者の口座について、口座残高の上限額が100万円を超えることがないようにするための措置、または、口座残高が100万円を超えた場合に、その額を速やかに100万円以下とするための措置を講じていることも要件とされています。

これは、資金移動業者の口座は、預貯金口座とは異なり、為替取引(送金や決済等)を目的としたものと考えられており、資金決済法上でも資金を滞留させない体制の整備が求められていることや、破綻時に口座残高全額が保証されることを担保するための要件となります。

 

このような措置が講じられていることにより、賃金のデジタル払い等で、資金移動業者の口座残高が100万円を超えてしまった場合、自動的に100万円を超えた部分が金融機関の預貯金口座等に振込まれ、その振込にかかる手数料等の負担を求められる可能性もあると思われますので、注意が必要です。

 

4 賃金のデジタル払いを導入するために必要な手続き

企業側としては、賃金のデジタル払いの導入にあたって、各事業場において、労働者の過半数で組織された労働組合(このような労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者)と、賃金デジタル払いの対象となる労働者の範囲や利用する指定資金移動業者の範囲等を定めた労働協約を締結する必要があります。

加えて、預貯金口座や証券総合口座への振込みも選択肢として提示し、留意事項等の説明をしたうえで、賃金デジタル払いを希望する個々の労働者から同意を得る必要があります。

 

厚生労働省のホームページには、同意書の書式例が掲載されていますが、そこには、口座残高の上限額などの関係から、代替口座として指定する預貯金口座等も記載することが求められています。

 

5 おわりに

本改正では、あくまでも賃金の支払方法の選択肢の1つとして、デジタル払いが認められたにすぎず、企業側が、労働者にデジタル払いを強制することはできないとされています。

また、デジタル払いができるのは、厚生労働大臣から指定を受けた資金移動業者の口座のみで、この指定の申請を行うことができるのは令和5年4月1日からとなっており、厚生労働省のホームページでは、指定申請の審査には数か月かかることが見込まれるとされていますので、実際に導入できるのは、もう少し先になるかと思われます。

 

キャッシュレス決済の需要等が高まっている中、賃金のデジタル払いの需要も一定程度あるかと思われます。

賃金デジタル払いを導入するかどうかを検討するに際して、企業側も労働者側も、この制度の内容やデメリット等を十分に理解する必要があるといえます。

 


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鈴木孝規弁護士の法律コラム「善意の第三者とは何?」

 │ 新潟事務所, 燕三条事務所, 長岡事務所, 新発田事務所, 上越事務所, その他, 東京事務所, 長野事務所, 高崎事務所, 弁護士鈴木孝規

鈴木孝規弁護士の法律コラムです。

今回のテーマは『善意の第三者とは何?』です。

 

1 はじめに

法律には、しばしば「善意」という言葉が出てきます。

ここでいう「善意」は、「他人のためを思う親切心」などの日常的な意味とは異なり、「ある事実を知らない」という意味で用いられています。

 

2 「善意」の登場場面

 ⑴ 事例

Aは、買い物などでクレジットカードを使いすぎてしまい、支払ができなくなりました。

そのため、クレジットカード会社から督促状が届き、支払いを迫られました。

Aは、このままでは、クレジットカード会社にAの所有する土地建物を差押え[1]られてしまうのではないかと思い、Bに相談しました。

その結果、AもBも、実際にはAの所有する土地建物を売買するつもりがないのに、AとBとの間で売買があったことにして、土地建物の名義のみをBに変更することとしました。

ところが、Bは、土地建物が自分の名義になっていることを利用して、Cにその土地建物を売ってしまいました。

 

_______________________

[1] 「差押え」とは、金銭の支払を求める裁判で勝訴した判決などをもとに、その権利を実現するため、支払義務のある人の不動産などの財産について、売却などの処分をできなくすることをいいます。

差押えの後、その財産を売却して、金銭の支払に充てる手続が予定されています。

 

⑵ 虚偽表示とは

法律で「善意」という言葉が出てくるものの1つに、民法94条の「虚偽表示」があります。

虚偽表示とは、事例のAとBのように、双方とも売買するつもりがないのに、売買する意思があるように仮装するとの合意をすることをいいます。

民法94条1項には、「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。」とあります。

したがって、AとBの売買は無効(=法律上、はじめからなかったものとして扱われること)であり、Bは土地建物の所有権を取得していることにはなりません。

 

⑶ 「善意」の第三者の保護

では、このようなBから土地建物を買ったCは、所有権を取得できるのでしょうか。

ここで、「善意」の第三者が登場します。

 

民法94条2項には、「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」とあります。

この規定から、Cが「善意の第三者」、つまり、AとBの売買が虚偽表示であったことを知らなかったのであれば、本来所有権があるはずのAは、Cに売買が無効であることを対抗できず(=主張できない、ということ)、その結果、Cは土地建物の所有権を取得できることとなります。

これは、自ら売買をしたように仮装したAよりも、それを知らずに買ったCを保護すべきとの考えに基づくものです。

 

なお、「善意」とは逆に、C´が、AとBの売買が虚偽表示であることを知っていた場合には、法律上、C´を「悪意」といいます。

C´の場合は、「善意の第三者」ではないため、土地建物の所有権を取得することはできません。

 

4 善意と悪意の境目

⑴ 裁判における「善意」と「悪意」の区別

虚偽表示の場面で、「善意」と「悪意」の境目は、虚偽表示について知っていたか否かです。

 

もっとも、裁判において、「善意」かどうかを判断することは容易ではありません。

なぜなら、「善意」も「悪意」も内心の問題のためです。

そのため、裁判では、「善意」を裏付けるような事情(CがAとBの売買契約書や代金の領収書を確認していたこと等)や、それを否定する事情(CはAやBと面識があったこと等)などの様々な事情を踏まえて、「善意」といえるかを判断することとなります。

 

⑵ 法律上の取り扱いについて

法律によっては、「善意」だけでなく「無過失」(簡単にいうと落ち度がないこと)が求められる場合もありますが、ある事実について知らなかったことに落ち度があったとしても、その事実を知らない以上「善意」といえます。

 

もっとも、落ち度の程度が著しい場合(法律上「重過失」といいます。)には、善意であっても、「悪意」と同様に扱われる場合があります。

「善意」でも「過失」や「重過失」がある場合にどのような扱いとなるのかは、「善意」や「悪意」について定めた法律の規定によって異なります。

 

5 おわりに

このように、裁判で「善意」を証明する際や、法律上の取り扱いなど、「善意」と「悪意」の境目は曖昧で、一般的にはわかりにくいものとなっていますので、何かお困りでしたら、ぜひ一度当事務所までご相談ください。

 

弁護士:鈴木孝規

 

 

 

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