鈴木孝規弁護士の法律コラム「善意の第三者とは何?」
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鈴木孝規弁護士の法律コラムです。
今回のテーマは『善意の第三者とは何?』です。
1 はじめに
法律には、しばしば「善意」という言葉が出てきます。
ここでいう「善意」は、「他人のためを思う親切心」などの日常的な意味とは異なり、「ある事実を知らない」という意味で用いられています。
2 「善意」の登場場面
⑴ 事例
Aは、買い物などでクレジットカードを使いすぎてしまい、支払ができなくなりました。
そのため、クレジットカード会社から督促状が届き、支払いを迫られました。
Aは、このままでは、クレジットカード会社にAの所有する土地建物を差押え[1]られてしまうのではないかと思い、Bに相談しました。
その結果、AもBも、実際にはAの所有する土地建物を売買するつもりがないのに、AとBとの間で売買があったことにして、土地建物の名義のみをBに変更することとしました。
ところが、Bは、土地建物が自分の名義になっていることを利用して、Cにその土地建物を売ってしまいました。
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[1] 「差押え」とは、金銭の支払を求める裁判で勝訴した判決などをもとに、その権利を実現するため、支払義務のある人の不動産などの財産について、売却などの処分をできなくすることをいいます。
差押えの後、その財産を売却して、金銭の支払に充てる手続が予定されています。
⑵ 虚偽表示とは
法律で「善意」という言葉が出てくるものの1つに、民法94条の「虚偽表示」があります。
虚偽表示とは、事例のAとBのように、双方とも売買するつもりがないのに、売買する意思があるように仮装するとの合意をすることをいいます。
民法94条1項には、「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。」とあります。
したがって、AとBの売買は無効(=法律上、はじめからなかったものとして扱われること)であり、Bは土地建物の所有権を取得していることにはなりません。
⑶ 「善意」の第三者の保護
では、このようなBから土地建物を買ったCは、所有権を取得できるのでしょうか。
ここで、「善意」の第三者が登場します。
民法94条2項には、「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」とあります。
この規定から、Cが「善意の第三者」、つまり、AとBの売買が虚偽表示であったことを知らなかったのであれば、本来所有権があるはずのAは、Cに売買が無効であることを対抗できず(=主張できない、ということ)、その結果、Cは土地建物の所有権を取得できることとなります。
これは、自ら売買をしたように仮装したAよりも、それを知らずに買ったCを保護すべきとの考えに基づくものです。
なお、「善意」とは逆に、C´が、AとBの売買が虚偽表示であることを知っていた場合には、法律上、C´を「悪意」といいます。
C´の場合は、「善意の第三者」ではないため、土地建物の所有権を取得することはできません。
4 善意と悪意の境目
⑴ 裁判における「善意」と「悪意」の区別
虚偽表示の場面で、「善意」と「悪意」の境目は、虚偽表示について知っていたか否かです。
もっとも、裁判において、「善意」かどうかを判断することは容易ではありません。
なぜなら、「善意」も「悪意」も内心の問題のためです。
そのため、裁判では、「善意」を裏付けるような事情(CがAとBの売買契約書や代金の領収書を確認していたこと等)や、それを否定する事情(CはAやBと面識があったこと等)などの様々な事情を踏まえて、「善意」といえるかを判断することとなります。
⑵ 法律上の取り扱いについて
法律によっては、「善意」だけでなく「無過失」(簡単にいうと落ち度がないこと)が求められる場合もありますが、ある事実について知らなかったことに落ち度があったとしても、その事実を知らない以上「善意」といえます。
もっとも、落ち度の程度が著しい場合(法律上「重過失」といいます。)には、善意であっても、「悪意」と同様に扱われる場合があります。
「善意」でも「過失」や「重過失」がある場合にどのような扱いとなるのかは、「善意」や「悪意」について定めた法律の規定によって異なります。
5 おわりに
このように、裁判で「善意」を証明する際や、法律上の取り扱いなど、「善意」と「悪意」の境目は曖昧で、一般的にはわかりにくいものとなっていますので、何かお困りでしたら、ぜひ一度当事務所までご相談ください。