2025/12/09
法務情報
中小受託取引適正化法の施行(弁護士:鈴木 孝規)
コラム、弁護士鈴木孝規、新潟事務所、長岡事務所、上越事務所、燕三条事務所、新発田事務所、長野事務所、松本事務所、高崎事務所
1 はじめに
下請代金支払遅延等防止法(下請法)が改正され、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法。以下「取適法」といいます。)として施行されます。
これにより、対象となる事業者の範囲が拡大されるなど、委託取引に関するルールが大きく変更されることとなります。
本コラムでは、令和 8年 1月 1日から施行・運用される「取適法」の概要について説明を行いたいと思います。
2 改正の概要
⑴ 用語の見直し
取適法では、従前の「親事業者」を「委託事業者」、「下請事業者」を「中小受託事業者」、「下請代金」は「製造委託等代金」に、法律の用語を変更しました。
これは、法律で用いられていた「下請」という用語は、発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与えるとの指摘や、中小企業庁・公正取引委員会の実施したアンケートでは、外注先を「下請」と呼称したり、発注者から「下請」と呼称されたりした経験があるとの回答割合が少なく、時代の変化に伴い「下請」という用語が使われなくなっていることが理由とされています。
⑵ 適用範囲の拡大
改正前は、資本金の金額のみを基準として、法律の適用を受けるかどうかが決まっていました。
しかし、実質的な事業規模が大きいものの当初の資本金が少額である事業者や、減資をすることによって、法律の適用対象とならない場合もあることから、取適法では、資本金の基準に加えて、新たに従業員基準が追加されました。
また、改正前は、発荷主から元請運送事業者への委託は、適用対象外(独占禁止法で対応)とされていましたが、立場の弱い物流事業者が、荷役や荷待ちを無償で行わされているなど、荷主・物流事業者間の問題が顕在化したことから、物品の運送の委託が新たな規制対象に追加されました。
以上を踏まえると、取適法では、次のいずれかに該当する場合に、当該法律の適用を受けることとなります。
●取引の内容が、物品の製造委託・修理委託・特定運送委託、または、情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラムの作成、運送、物品の倉庫における保管および情報処理に限る)の場合
- 資本金 3億円超の事業者から、資本金 3億円以下の事業者(個人を含む)に委託をする場合
- 資本金1000万円超 3億円以下の事業者から、資本金1000万円以下の事業者(個人を含む)に委託をする場合
- 常時使用する従業員300名超の事業者から、常時使用する従業員300名以下の事業者(個人を含む)に委託をする場合
●取引の内容が、情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラムの作成、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理を除く)の場合
- 資本金5000万円超の事業者から、資本金5000万円以下の事業者(個人を含む)に委託する場合
- 資本金1000万円超5000万円以下の事業者から、資本金1000万円以下の事業者(個人を含む)に委託する場合
- 常時使用する従業員100人超の事業者から、常時使用する従業員100人以下の事業者(個人を含む)に委託する場合
⑶ 禁止行為の追加
改正前から、正当な理由なく行う、受領拒否、支払遅延、減額、返品、買いたたき等が委託業者の禁止行為として定められていましたが、取適法では、以下の2点も禁止行為とされました。
| ① 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止 ② 手形払等の禁止 |
① 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止
中小受託事業者の給付に関する代金の額に影響を及ぼし得る事情(原材料価格、エネルギーコスト等の高騰等)が発生し、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、委託事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定して、中小受託事業者の利益を不当に害する行為が禁止されました。
この規定は、コストが上昇している中で、協議することなく価格を据え置いたり、コスト上昇に見合わない価格を一方的に決めたりするなど、上昇したコストの価格転嫁についての課題がみられ、適切な価格転嫁が行われる取引環境の整備が必要と考えられたため、禁止行為として新設されました。
② 手形払等の禁止
支払手段として手形等を用いることにより、発注者が受注者に資金繰りに係る負担を求める商慣習が続いていることから、中小受託事業者保護のため、手形の交付や、手形以外の支払手段(電子記録債権や一括決済方式)で中小受託事業者が支払期限までに代金額に相当する金銭と引き換えることが困難なものの使用が禁止されました。
法律では、製造委託等代金の支払期日は、委託事業者が中小受託事業者から給付を受領した日(役務提供を受けた日)から、60日以内で、かつ、できる限り短い期間内を設定しなければならないとされています。
しかし、改正前の手形での支払が認められている状況では、実際に中小受託事業者が現金を受領できるのは、手形交付日から一定期間(60日間など)が経過した手形の満期日となってしまいますので、中小受託事業者が支払期限に現金受領が可能になるように改正がされました。
⑷ 面的執行の強化
改正前は、事業所管省庁には、違反行為に関する調査権限のみが与えられ、助言・指導の権限が付与さていませんでした。
また、現行法上では、事業所管省庁に通報した場合、「報復措置の禁止」の対象になっていないなどの問題点がありました。
そこで、取適法では、事業所管省庁の主務大臣にも指導・助言権限を付与し、「報復措置の禁止」の申告先として事業所管省庁の主務大臣を追加するなど、公正取引委員会、中小企業庁、事業所管省庁の複数の省庁が連携して違反に対応する「面的執行」が強化されました。
3 おわりに
前記のもののほか、取適法では、製造委託の対象として、金型以外にも専ら物品の製造のために用いられる木型、治具等が追加される、遅延利息の対象に製造委託等代金を減額した場合が追加される等の改正がなされています。
自社が委託事業者に該当する取引を行う場合は、取適法に規定された禁止行為等を行わないよう注意が必要になります。
また、自社が中小受託事業者に該当する取引を行う場合は、委託事業者から禁止行為などが行われ、自社の利益が害されることがないよう、改正の内容について正確に確認しておく必要があるものと思われます。
【参考】
- 公正取引委員会・中小企業庁「下請法・下請振興法改正法の概要(下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律)」
- 公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法ガイドブック」
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