2024/11/13
法務情報
著作権法による保護と生成AIについて(弁護士 鈴木孝規)
新潟事務所、燕三条事務所、長岡事務所、新発田事務所、上越事務所、その他、東京事務所、長野事務所、高崎事務所、弁護士鈴木孝規、コラム、松本事務所
第1 はじめに
最近、AIが普及・発展し、商業的な利用も行われていますが、一方で、AIの利用により他者の権利を侵害することを懸念する声もあります。
本コラムでは、令和6年3月に文化審議会著作権分科会法制度小委員会が取りまとめた「AIと著作権に関する考え方」のうち、生成AIの利用と著作権侵害の有無に関する点を中心に説明したいと思います。
なお、この「AIと著作権に関する考え方」は、生成 AIと著作権の関係に関する判例及び裁判例の蓄積がないという現状を踏まえて、生成AIと著作権に関する一定の考え方を整理し、周知すべく取りまとめられたもので、法的拘束力を有するものではないことには留意が必要です。
第2 「AIと著作権に関する基本的な考え方」の概要
1 著作権、生成AIについて
⑴ 著作権法において保護される著作物
著作権法で保護される「著作物」は、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています(著作権法2条1項1号)。
著作権法では、著作物等を利用する行為の全てに対して著作者等の権利が及ぶという構成は採られておらず、複製、公衆送信、譲渡といった特定の利用形態ごとに、複製権、公衆送信権、譲渡権などの権利(支分権)を規定し、その範囲で著作者等の権利が及ぶという構成が採られています。
著作権法では、支分権の及ぶ利用行為については、著作者等の権利者がこれを行う権利を独占することとしており、原則として、権利者の許諾を得て行う必要がありますが、一方で、一定の場合には権利者の許諾を得ることなく著作物等を利用できる旨の権利制限規定を設けています。
これは、文化的所産の公正な利用という点(著作権法1条)に配慮したものとされています。
⑵ 生成AIについて
生成AIについては、明確な定義はありませんが、「AIと著作権に関する考え方」では、人間の自然言語や画像などによる指示を受け、文章や画像等の様々なコンテンツを生成するAIを、生成AIと呼ぶこととするとしています。
また、生成AIとの関係において著作物が利用される場面は、大きく「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」で分けられるとしています。
AI開発・学習段階では、AI学習用データセット構築のための学習データの収集・加工、基礎モデル作成に向けた事前学習、既存の学習済みモデルに対する追加的な学習、検索拡張生成(RAG)等(生成AIによって著作物を含む対象データを検索し、その結果の要約等を行って回答を生成する手法)において生成AIへの指示・入力に用いるためのデータベースの作成などの場面で、著作物の利用行為が行われることが想定されています。
また、生成・利用段階では、AIを利用して画像等を生成したり、生成した画像等をアップロードして公表、生成した画像等の複製物を販売したりすることなどが想定されています。
2 AI開発・学習段階における著作物の利用行為
AIの開発・学習段階で著作物の利用行為を行う場合、著作権法30条の4などの権利制限規定に該当するときは、著作権者等の許諾なく著作物を利用できるとしています。
著作権法30条の4では、情報解析等において、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」には、原則として、著作者の許諾なく当該著作物を利用できるとしています。
もっとも、「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には、同条の適用を受けることはできません。
⑴ 非享受目的
「非享受目的」に該当しないものとしては、既存の学習済みモデルの追加的な学習のうち、意図的に、学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部または一部を出力させることを目的とした追加的な学習を行うため、著作物の複製等を行う場合(例えば、意図的な「過学習」等)があげられています。
また、既存のデータベースやインターネット上に掲載されたデータに含まれる著作物の創作的表現の全部または一部を、生成AIを用いて外部に出力させることを目的として、これを用いるため著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の、著作物の複製等を行う場合[1]も「非享受目的」に該当しないとしています。
これらの場合は、既存の著作物に表現された思想又は感情を享受する目的が併存していることが想定され、著作権法30条の4は適用されないとしています。
⑵ 著作権者の利益を不当に害しないこと
また、非享受目的と認められた場合でも、著作権者の利益を不当に害する場合には、著作権法30条の4は適用されず、著作権者の許諾が必要となります。
著作権者を不当に害するかは、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から技術の進展、著作物の利用態様の変化等の諸般の事情を総合的に考慮して検討するものとされています(文化庁著作権課「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」(令和元年10月24日)9頁)。
AI学習のためのデータ収集においては、インターネット上のデータ(データベースの著作物)が情報解析に活用できる形で有償提供されている場合、有償で利用することなく、当該データベースの著作物を情報解析目的で複製する場合は、著作権者を不当に害する場合に該当しうるとされています。
[1] 検索生成拡張(RAG)等のうち、「既存の著作物の創作的表現の全部または一部を、生成AIを用いて出力させること」を目的とし、生成AIへの入力用データ(著作物)の収集を行うこと等がこれに該当すると考えられています。
3 生成・利用段階
生成AIを利用して生成した画像等をSNS等にアップロードして公表したり、複製物を販売したりする場合は、通常の著作権侵害と同様の基準で、著作権侵害となるか否かが判断されるとしています。
判例では、既存の著作物との類似性(創作的表現が共通していること)及び依拠性(既存の著作物をもとに創作したこと)の両方が認められる際に、著作権侵害となるとされています。
依拠性に関しては、既存の著作物が学習データに含まれている場合や、学習データに含まれているか不明な場合でも、AI利用者が既存の著作物にアクセス可能であったことや、生成物と既存の著作物との高度な類似性があることを立証できれば、依拠性ありと推認できるとしています。
なお、類似性及び依拠性が認められる場合でも、個人的に画像を生成して鑑賞すること(私的利用のための複製(著作権法30条1項))等、権利制限規定の対象行為に該当する場合には、利用について著作権者の許諾は不要です(ただし、SNS等にアップロードすることは複製ではなく公衆送信にあたるため、著作権法30条1項は適用されません)。
第3 おわりに
AIを利用することで、利便性が向上することは否定できませんが、一方で他者の権利を侵害等してしまう可能性もあります。
最近では、声優の方々の有志で、自身の声が許諾なくAI生成物の生成等に利用されていることについて、「NO MORE 無断生成AI」という啓発活動が行われていることも報じられています。
今回説明させていただいた「AIと著作権に関する考え方」は、AIに関する裁判例が乏しい中で、現段階での一定の考え方を示すものですが、今後、裁判例の蓄積やAI技術の発展等により変化する可能性もあります。
著作権等の他者の権利を侵害してしまった場合、刑事責任や損害賠償等の民事責任を負うこともあるため、特に個人利用にとどまらず、生成された物をSNSにアップロード等する場合や商業的に利用する場合には、最新の情報・見解の確認を怠ることがないよう注意が必要になると思われます。
■参考
・文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)
・文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」【概要】
・文化庁著作権課「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」(令和元年10月24日)
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