2014/02/11
法務情報
【法務情報】懲戒解雇の有効性
1.最近の事件
最近,従業員のツイッターによるおふざけ投稿が社会を騒がせた結果,企業に損失を与える事件が多発し,「懲戒解雇」にしたという報道もありました。
このような報道をみると,企業に迷惑をかけた従業員をいとも簡単に「懲戒解雇」できるような気にもなってしまいますが,本当に大丈夫でしょうか。
2.普通解雇と懲戒解雇の違い
(1) 普通解雇
「解雇」とは,使用者による労働契約の一方的な解約のことをいいます。民法においては,雇用契約の解約は容易になしうることになっています。
しかし,労働者においては,賃金によって生活を営んでいるところ,安易に労働契約を解約されることを容認してしまうと労働者の生活の基盤が薄弱となってしまいます。
そこで,労働基準法は,使用者に対し,30日前の解雇予告を課したり,解雇予告手当の支給を義務付けるなどの手続上の規制をしています。
(2) 懲戒解雇
他方で,使用者は,経営目的を達成するために労働者を服務規律あるいは企業秩序維持のために統制する権限があります。使用者は,この権限に従い,服務規律違反や企業秩序維持違反を行った労働者に対し,それらに対する制裁として懲戒処分を行うことができ,その最たるものが「懲戒解雇」です。
懲戒解雇の場合は,「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇される場合」にあたり,解雇予告や解雇予告手当の支給が不要とされることが多いため,この点,普通解雇と大きく異なります。
また就業規則上,懲戒解雇の場合は,退職金を支給しない旨規定されていることも多いです。
3.懲戒処分の種類
前述のツイッターの例では,飲食店における衛生面に対して大きな不信感をもたらす写真などが投稿されたものが多かったと思います。
このような場合,使用者としては,労働者が会社の信用を毀損した行為に対して,制裁を加える必要があります。
ただし,懲戒処分には「懲戒解雇」以外にも,訓告,戒告,減給,出勤停止,諭旨解雇などの制度があります。諭旨解雇は,懲戒解雇の効果を一部緩めたものであり,退職金の一部支給を認めたりすることもあります。
すなわち,労働者に制裁を課すべき場面とは,労働者の行為に相当な懲戒処分を選択する必要があります。
前述のツイッター事例の中には,その景況の下,企業が倒産に至った事例もあるようですから,懲戒解雇が相当な事例も多くあったと思われます。
ただし,それはあくまでも個別事例の結果であり,ツイッターで企業の信用を害するような投稿をした場合に,すべて懲戒解雇が相当と解釈してしまうと間違った判断をしてしまうかもしれません。
あくまでも,個別事例ごとに企業の信用が毀損された程度・内容や労働者の行為の社会的意味などを十分に検討したうえで判断しないと後から解雇無効と言われる危険もありますので,注意が必要です。
4.事例
例えば,労働者が企業の信用を毀損しても当然に懲戒解雇ができない事例としては,内部告発の事例などがあります。内部告発の目的・方法・効果等の事情からその正当性が認められるような場合には,懲戒解雇が認められない場合があります。
裁判例としては「従業員が職場外で新聞に自己の見解を発表等することであっても,これによって企業の円滑な運営に支障をきたすおそれのあるなど,企業秩序の維持に関係を有するものであれば,例外的な場合を除き,従業員はこれを行わないようにする誠実義務を負う一方,使用者はその違反に対し企業秩序維持の観点から懲戒処分を行うことができる。」としております。当該裁判例が許容したのは,あくまでも「懲戒処分」であり,当然に「懲戒解雇」を許容したわけではありません。さらに「ここにいう例外的な場合とは,当該企業が違法行為等社会的に不相当な行為を秘かに行い,その従業員が内部で努力するも右状態が改善されない場合に,右従業員がやむなく監督官庁やマスコミに対し内部告発を行い,右状態の是正を行おうとする場合等をいうのであり,このような場合には右企業の利益に反することとなったとしても,公益を一企業の利益に優先させる見地から,その内容が真実であるか,あるいはその内容が真実ではないとしても相当な理由に基づくものであれば,右行為は正当行為として就業規則違反としてその責任を問うことは許されないというべきである。」として,労働者を救済する余地を認めています。
また公益通報者保護法では,労働者が不正の目的でなく,労務提供先等について,通報対象事実が生じ又は生じようとする旨を,通報先に通報した場合に,通報者を保護することを定めています。
しかし,「通報対象事実」や「通報先」の要件を満たすことが必要であり,これらの要件を満たさない場合には,同法の保護の対象ではなくなります。
最近の事例においても通報の内容が解決済みと判断し,「情報を不正に取得する必要がなかった」として,解雇を有効とした裁判例もあります。
このように通報であれば当然に労働者が救済されるわけでもなく,また逆に労働者が企業の信用を毀損した場合に当然に解雇でよいわけでもなく,それぞれの行為の社会的意味,目的,影響の程度などを総合して個別事例ごとに判断する必要があります。
やはり人事は難しいですね。
◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 中川 正一◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2013年11月5号(vol.137)>
カテゴリー
月間アーカイブ
- 2024年11月(2)
- 2024年10月(1)
- 2024年9月(1)
- 2024年8月(1)
- 2024年7月(2)
- 2024年6月(2)
- 2024年5月(2)
- 2024年4月(1)
- 2024年3月(2)
- 2024年2月(2)
- 2024年1月(1)
- 2023年12月(1)
- 2023年10月(2)
- 2023年9月(2)
- 2023年8月(2)
- 2023年7月(2)
- 2023年5月(1)
- 2023年4月(2)
- 2023年3月(2)
- 2023年2月(2)
- 2023年1月(2)
- 2022年12月(3)
- 2022年11月(2)
- 2022年10月(1)
- 2022年9月(1)
- 2022年8月(2)
- 2022年7月(2)
- 2022年6月(1)
- 2022年5月(1)
- 2022年4月(1)
- 2022年3月(2)
- 2022年2月(1)
- 2022年1月(1)
- 2021年12月(1)
- 2021年11月(1)
- 2021年10月(2)
- 2021年9月(2)
- 2021年6月(1)
- 2021年4月(2)
- 2021年3月(1)
- 2021年1月(3)
- 2020年12月(3)
- 2020年11月(10)
- 2020年10月(5)
- 2020年9月(7)
- 2020年8月(4)
- 2020年7月(3)
- 2020年6月(3)
- 2020年5月(11)
- 2020年4月(5)
- 2020年3月(2)
- 2019年12月(1)
- 2019年9月(1)
- 2019年7月(2)
- 2019年6月(3)
- 2019年5月(2)
- 2019年4月(1)
- 2019年3月(3)
- 2019年2月(2)
- 2018年12月(1)
- 2018年10月(2)
- 2018年9月(1)
- 2018年7月(1)
- 2018年6月(1)
- 2018年5月(1)
- 2018年4月(1)
- 2018年3月(1)
- 2017年12月(1)
- 2017年11月(2)
- 2017年5月(1)
- 2017年3月(1)
- 2017年2月(2)
- 2016年12月(5)
- 2016年8月(2)
- 2016年7月(3)
- 2016年5月(1)
- 2016年4月(2)
- 2016年3月(4)
- 2016年2月(3)
- 2016年1月(1)
- 2015年11月(1)
- 2015年9月(1)
- 2015年8月(1)
- 2015年7月(1)
- 2015年6月(1)
- 2015年4月(1)
- 2015年3月(2)
- 2015年1月(3)
- 2014年9月(6)
- 2014年8月(3)
- 2014年6月(3)
- 2014年5月(3)
- 2014年4月(2)
- 2014年2月(2)
- 2014年1月(2)
- 2013年12月(5)
- 2013年11月(1)
- 2013年10月(5)
- 2013年9月(5)
- 2013年8月(2)
- 2013年7月(2)
- 2013年6月(4)
- 2013年5月(2)
- 2013年4月(3)
- 2013年3月(3)
- 2013年2月(2)
- 2013年1月(1)
- 2012年12月(2)
- 2012年11月(2)
- 2012年10月(1)
- 2012年9月(2)
- 2012年8月(2)
- 2012年7月(2)
- 2012年6月(2)
- 2012年5月(1)
- 2012年4月(2)
- 2012年2月(2)
- 2012年1月(3)
- 2011年12月(2)
- 2011年11月(3)
- 2011年10月(3)
- 2011年9月(8)
- 2011年8月(10)
- 2011年7月(8)
- 2011年6月(8)
- 2011年5月(10)
- 2011年4月(9)
- 2011年3月(9)