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【法務情報】会社分割の詐害行為取消

 │ 新潟事務所, 弁護士今井慶貴, ビジネス

1 事業再生と会社分割

 「会社分割」とは,既存の会社が事業に関して有する権利義務(事業部門など)の全部又は一部を他の会社に承継させることです。これには2種類があり,他の既存会社に承継させるものを「吸収分割」,新設会社に承継させるものを「新設分割」といいます。

 事業再生において,会社分割を利用して不採算部門を清算しつつ,採算部門の維持継続を図る手法をとることがあり,債権者に不当な不利益を与えない限りは,有益な手法です。しかし,中には債権者が本来引当てとしていた財産に追及できなくする手段として会社分割が濫用されるケース(「濫用的会社分割」) も見られます。

 

2 濫用的会社分割への対応

 濫用的会社分割に対する債権者保護については,これまでも詐害行為取消権(民法424条)による会社分割の取消し,事業譲渡の商号続用責任(会社法22条1項)の類推適用,法人格否認の法理の適用などで対処されてきました。

 今回紹介する最高裁平成24年10月12日判決(以下「本判決」といいます。)は,そのうち,詐害行為取消権について最高裁として初めて判断を示したものです。

 

3 最高裁平成24年10月12日判決

(1) 事案の概要(わかりやすさを優先して簡略化しています)。

 BはCに金銭を貸し付け,Dが連帯保証しました。Bの債権はE→Fと譲渡され,サービサーX(被上告人)がFから債権回収の委託を受けています。他方,DはAに吸収合併され,Aが保証債務を承継しました。Aは,さらにY(上告人)を新設分割し,Aのほぼ唯一の財産である不動産や一部の債務をYに承継させたものの,保証債務については承継させませんでした。その後,AはさらにGを新設分割し,結局,AにはYとGの株式以外の財産はなくなりました。そこで,Aに対する保証債権を行使するXが,Yに対し,詐害行為取消権に基づき,新設分割の取消しと不動産の所有権移転登記の抹消登記手続を求めたものです。

(2) 本判決の判旨

 本判決は,株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新設分割設立株式会社(Y)にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者(X)は,民法424条の規定により,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができ,この場合,債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会社(Y)への権利の承継の効力を否定することができるとしました。つまり,XはAからYへの不動産の所有権移転の効力を取り消し,当該不動産を自己の債権の引当てにできるという結論を認めたものです。

 本判決の理由は,概ね次のとおりです。①新設分割は,財産権を目的とする法律行為としての性質を有する以上,会社の組織に関する行為であることを理由として直ちに詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできないが,当然に対象になると解することもできない。②会社法その他の法令において,新設分割が詐害行為取消権行使の対象となることを否定する明文の規定はない。③会社法上,新設分割株式会社(A)の債権者を保護するための規定が設けられているが(同法810条),一定の場合を除き新設分割株式会社(A)に対して債務の履行を請求できる債権者は上記規定による保護の対象とはされておらず,新設分割設立株式会社(Y)にその債権に係る債務が承継されず上記規定による保護の対象ともされていない債権者(X)については,詐害行為取消権によってその保護を図る必要性がある場合が存する。④詐害行為取消権の行使によって新設分割を取り消したとしても,その取消しの効力は,新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすものではないので,会社法上新設分割無効の訴え(同法828条1項10号)が規定されていることをもって詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできない。

 

4 まとめ

 このように,事業再生のために会社分割の手法をとる場合には,債権者に対する詐害行為にあたらないように,承継する権利・義務の内容等をよく検討する必要があります。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 今井 慶貴◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2012年10月16日号(vol.112)>

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