2025/10/21
法務情報
回転寿司チェーン店で発生した顧客の迷惑行為に関して思うこと(弁護士:薄田 真司)
1 迷惑行為の概要と被害店舗の対応等
本年10月中旬、回転寿司チェーンの店舗で顧客が迷惑行為に及んだことが話題になっています。
SNSで広まっていた動画では、顧客がレーンを移動する皿のカバーをあけ、中の寿司を触ったり、醤油を飲むような様子が映っていたと報道されています。
被害を受けた回転寿司チェーン店は、同社のウェブサイトにおいて、本年10月14日、「当該店舗の商品につきましては、すぐにすべてを入れ替えるとともに、備品につきましても、これまで通り、お客さまが入れ替わるたびに交換し、消毒を行っています。」と述べ、「尚、実行者についてはすでに特定しており、地元警察に相談しながら対応を進めてまいります。」「今回のような行為につきましては、多くのお客さまにご利用いただく飲食店として、許される行為ではなく、厳正な対応をしていく予定です。」としています。
弁護士の視点からは、今回の迷惑行為によって、被害店舗に対し、寿司等の食品の廃棄や機材消毒といった対応をとることを余儀なくさせ、通常の業務を遂行できなくしたことにより、顧客に威力業務妨害罪が成立するのではないか、民事事件として、回転寿司チェーン店が顧客に対して損害賠償請求が可能となるのではないか、という点を注視しています。
2 これまでにもあった同種の迷惑行為について
これまでにも回転寿司チェーン店で顧客が迷惑行為に及んだ事件がありました。
令和5年1月には、少年が醤油のボトルや湯飲みをなめたり、口に入れたあとの指で回ってきた寿司を突くなどの迷惑行為に及んだことがありました。
拡散された動画の内容を受け、この回転寿司チェーン店は、1月30日に店舗を開店する前に全ての湯飲みの洗浄と、しょうゆボトルの入れ替えを行ったとのことです。
また、迷惑動画の撮影された店舗とその近隣店舗においては、食器類、調味料等の置き場を店内に設置し、顧客自身で取り、テーブルまで持っていくよう対応に変更し、2月3日には、注文された商品のみをレーンに流す完全な注文制に一時的に変更すると発表したとのことです。
顧客の安易な行為によって、被害店舗の営業に重大な影響を与えたことが窺われます。
加えて、この被害を受けた回転寿司チェーン店は、本来得られるはずであった売上分や、株価下落・会社の信用低下に伴う損害賠償として、約6,700万円の支払いを求めて民事訴訟を提訴したことが話題になりました。
今回、被害を受けた回転寿司チェーン店が今後どのような対応を行うのかも注視したいと思います。
3 迷惑行為に及んだ顧客の氏名・顔写真等が拡散されたことについて
別の視点の問題として、今回、迷惑行為に及んだ顧客の氏名、顔写真、在籍する学校等の個人情報がSNSで拡散されていることにつき、名誉毀損に該当する可能性を指摘する意見が出ています。
名誉毀損は、他人の社会的評価を低下させる事実(民事事件の場合、意見・論評の場合も名誉毀損に該当しうる)を不特定多数に向けて発信した場合に成立します。
もっとも、その事実が「公共の利害に関わる事実」であって、「専ら公益を図る目的」があり、かつ、「真実である」(又は、真実であると信じたことに相当の理由がある)ときは、名誉毀損は成立しないとされています。
刑事事件の場合、刑法第230条の2第1項がこれを規定しています。
民事事件の場合、判例でこのように判断されています。
ここで、刑法第230条の2第2項は、「公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。」としています。
前述したとおり、今回の迷惑行為には威力業務妨害罪が成立する可能性があります。
したがって、今回の迷惑行為の拡散行為は、真実であることは客観的な動画で立証できるとして、「専ら公益を図る目的」であるかどうかが問題となります。
この点について、今回の拡散行為が、SNSで一般人の顔写真、氏名、在籍する高校等の個人情報を投稿することにより、当該投稿の閲覧数を稼ぐこと等を目的としたものであれば、「専ら公益を図る目的」があったということは難しいのではないかと思われ、名誉毀損が民事・刑事で問題となる余地があると考えます。
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