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非正規待遇格差に関する 2 つの最高裁判決

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はじめに

 

非正規待遇格差に関する 2 つの最高裁判決

 

正規社員と非正規社員との待遇格差については、渡辺伸樹弁護士がコモンズ通心219号で日本郵便事件を紹介しましたが、平成30年6月1日に2つの最高裁判決が出されました。

ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件です。

 

今回は、この2 事件についてご紹介します。

「不合理と認められる労働条件の相違」とは

両事件とも労働契約法20 条の解釈が問題となりました。

 

不合理と認められる労働条件の相違

 

両事件とも、正規社員と非正規社員(有期契約社員)との労働条件の相違が不合理な相違か否かの判断が争点となりました。

ハマキョウレックス事件の概要と判決のポイント

(1)事案

トラック運送業を営む被告会社に対し、ドライバーとして勤務する非正規社員が、正規社員には支給されている、①無事故手当、②作業手当、③給食手当、④住宅手当、⑤皆勤手当、⑥通勤手当が支給されないことが不合理な相違にあたると主張しました。

(2)裁判所の判断

これに対し、原審である大阪高等裁判所は①無事故手当、②作業手当、③給食手当、⑥通勤手当の不支給は違法と判断しましたが、最高裁はこれに加え⑤皆勤手当の不支給も不合理な相違として、労働契約法20 条に違反すると判断しました。

(3)検討

不合理な相違にあたらない適法な手当(④住宅手当)と不合理な相違にあたる違法な手当(⑤皆勤手当)では、どこが違うのでしょうか。

 

④住宅手当は、従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給されるものであり、正社員は転居を伴う配転が予定されている一方、契約社員は就業場所の変更がないことから、正規社員にのみ住宅手当を支給することは不合理でないとされました。

 

他方⑤皆勤手当は、運送業務の円滑な遂行上、一定数のドライバー確保が必要であり、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものです。

皆勤奨励という趣旨は正規社員のドライバーと非正規社員のドライバーとで異なりません。

そのため、正規社員にのみ皆勤手当を支給することは不合理と判断されました。

 

つまり、各手当がどういう目的で支給されているのかという支給の趣旨が、正規社員にしか及ばないのか、非正規社員にも及ぶのかという点が判断要素となっていると評価することができます。

 

この会社では、非正規社員が転居を伴う配転がないことから、住宅手当不支給も不合理でないと判断されていますが、例えば、非正規社員であっても転居を伴う配転があり得るような会社の場合には、住宅費用の補助という趣旨は非正規社員にも及びうることになりますから、住宅手当不支給が不合理でないと判断されない可能性が出てきます。

 

住宅手当・皆勤手当

長澤運輸事件の概要と判決のポイント

(1)長澤運輸事件の特徴

長澤運輸事件も、ハマキョウレックス事件同様、運輸会社が非正規社員のドライバーから訴えられた事案です。

 

この事件の特徴は、当該ドライバーが定年後再雇用の非正規社員であったという点です。

定年後再雇用であることが、「不合理な相違」か否かを判断する要素となりうるか、が問題となりました。

(2)裁判所の判断

最高裁は、定年後再雇用について、定年後再雇用者を長期間雇用することを通常予定していないこと、定年前は正規社員であった者であり、一定の要件を満たせば老齢厚生年金を受給できることなど、正規社員との違いを指摘しました。

 

つまり、定年後再雇用者について特別の考慮をすることは可能であり、労働条件の一定の相違が生じうることを明らかにしたのです。

その上で、住宅手当、家族手当等の手当不支給は不合理な相違にあたらず適法と判断しました。

 

他方、精勤手当(ハマキョウレックス事件における皆勤手当)を不支給とすることは不合理な相違であり違法としました。

 

定年後再雇用者であっても、精勤手当支給の趣旨(ドライバー数確保のための皆勤奨励)が及ぶ以上、精勤手当を支給しなければならないと判断したものです。

一歩先へ。 働き方改革関連法と労働契約法20条

今回の事例は労働契約法20 条の問題でしたが、この条文は、6 月に成立した、働き方改革関連法(労働契約法改正)により削除され、パートタイム・有期雇用労働法8 条として生まれ変わることが予定されています(施行は2020 年4月の予定)。

 

削除といっても、上記判決の考え方は踏襲されることが想定されますので、今回ご紹介した事件の結論は知っておかれると有益でしょう。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 朝妻 太郎

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2018年8月5日号(vol.223)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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