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キャンセルトラブルが泥沼化?新型コロナウィルス感染症拡大を理由とした結婚式キャンセルについて(弁護士:朝妻 太郎)

 │ 新潟事務所, ビジネス, 燕三条事務所, 長岡事務所, 新発田事務所, 消費者, 上越事務所, 弁護士朝妻太郎, 長野事務所, 高崎事務所, コラム

新型コロナウイルスの感染拡大で予定した結婚式開催が不可能になったとして、関東地方在住の夫婦がキャンセル料を払わずに中止したところ、式場の運営会社(東京都)から見積金の支払いを求める訴訟を東京地裁に起こされた、というニュースが報道されました。

夫婦側は申込金の返還を求めて反訴したとのことです。

 

昨年以降、結婚式披露宴キャンセルの問題が各地で頻発しているようです。

一般消費者の立場からも事業者の立場からも注目度の高い問題といえます。

 

1 法律のルールはどうなっているか?

 

この点は既に多くの法律家が、雑誌やインターネット記事で配信していますので、既に御承知だと思いますが、原則的には、当事者間の契約内容に従うことになります。

契約書若しくは契約約款にキャンセルに関する規定が存在し、それに従った処理がなされることにとなります。

 

おそらく契約約款等には、新郎新婦側からの申出によるキャンセルの場合と、不可抗力による中止の場合がそれぞれ記載されているかと思います(万が一、そのような規定すら設けていない事業者の方がいらっしゃいましたら、直ぐにでも近くの弁護士にご相談ください)。

 

ここで、新郎新婦側からの申出によるキャンセルの場合にはキャンセル料が設定されており、不可抗力による中止の場合にはキャンセル料が発生しないというような規定になっていることが多いのではないでしょうか。

また、キャンセル料が発生する場合についても、キャンセル申出の時期によりキャンセル料の金額が細かく設定されているかもしれません。

 

万が一、キャンセルに関する規定が存在しない場合には、民法の規定によることになりますが、契約当事者双方に帰責性のない履行不能(結婚式・披露宴の開催不可能)か否かで判断が分かれることとなります(民法415条や536条1項)この判断も、結局のところ、不可抗力によるものか否かの判断と大きく重なります。

 

もっとも、下記のとおり、本コラム執筆時点においては、不可抗力による中止(双方帰責性のない履行不能)にあたるケースは多くはなく、一定のキャンセル料の支払いが必要になることが多いと考えられます。

 

2 当然に不可抗力といえるわけではない

新型コロナウィルス感染症の拡大を理由としたキャンセルが、「不可抗力によるキャンセル」や「双方帰責性のない履行不能」といえるかは、上記の裁判で主要な論点になると思われます。

 

新型コロナ感染症の拡大を理由として結婚式・披露宴を開かないことが「不可抗力」によるものかどうかは、裁判所の動向を見守ることにはなってしまいますが、ケースバイケースでの判断にならざるを得ないでしょう。

 

私見としては、現在(令和3年9月上旬)の状況で、当然に「不可抗力」による開催不能と認定されることは少ないのではないかと考えています。

現状、飲食の提供の一切が禁止されたり、都市のロックダウンがなされることはありません。

工夫を凝らせば結婚式等を開催することが不可能ではないといえます、各式場とも工夫を凝らした感染予防対策を講じ、各地のガイドラインに則った披露宴の開催が可能な環境を整えていると思いますので、コロナで開催不可能と判断されるケースは少ないのではないか、と思われます(特に、私がいる新潟県内はまん延防止措置の対象ですらありませんから、一切開催不可能という判断にはなりにくいと考えられます)。

 

3 キャンセル料はいくらが妥当か

それでは一定のキャンセル料の支払いが必要であるとして、いくらが妥当かというのは大変難しい問題です。

これも、基本的には契約約款等に従うこととなりますが、消費者契約法9条は、「解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの」については、「平均的な損害の額を超える部分」の規定は無効と定めています。

 

 

ここでの「平均的な損害の額」とはいくらなのか、ということなのですが、具体的な基準が定められているわけではありません。

例えば、契約締結後間もない時点で、挙式予定日とも相当離れているような場合に、挙式費用全額に近いキャンセル料を定めるものは、この「平均的な損害の額を超える」ものといえそうですが、このような極端なケースは稀で、一概に結論づけることができません。

 

また、実際に発生した費用のみ(いわゆる実費のみ)と考えることも、事業者の逸失利益等を考慮すれば妥当とも言い切れません。

引き続き裁判所の動向を注視する必要がありそうです。

 

4 この事件の他の問題点

 

一般向け報道の範囲でしか事情を知ることができませんが、この裁判では、そもそもキャンセルをしたのか否かも問題となっているようです。

 

結局、適式にキャンセルの通知(解約の意思表示)がなされていないとなると、契約約款等のキャンセルの規定の問題ではなく、無断キャンセルの問題になります。

そもそも、この点が明らかでないというのは、あまり好ましいことではありません(キャンセルの仕組みを用意していない式場側の問題なのか、きちんとした形で通知をしていない新郎新婦側の問題なのかは定かではありませんが、法的問題が発生した際の対応として検討すべき点があったのかもしれません)。

 

また、このコラムを書くにあたり、書籍だけでなく、様々なネット記事を拝見しましたが、一部の専門家が書いているものを除き、一方に肩入れして記載されているものが多いという印象を持ちました(当コラムもそのような印象を持たれていないことを願いますが…)。

単にコロナで解約といっても、状況が千差万別ですので、画一的な結論が出る問題ではないことには注意が必要です。

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 朝妻 太郎

朝妻 太郎
(あさづま たろう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:東北大学法学部

関東弁護士連合会シンポジウム委員会副委員長(令和元年度)、同弁護士偏在問題対策委員会委員長(令和4年度)、新潟県弁護士会副会長(令和5年度)などを歴任。主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)のほか、離婚、不動産、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
数多くの企業でハラスメント研修、また、税理士や社会保険労務士、行政書士などの士業に関わる講演の講師を務めた実績があります。​
著書に『保証の実務【新版】』共著(新潟県弁護士会)、『労働災害の法務実務』共著(ぎょうせい)があります。


 本記事は2021年9月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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