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法務情報

2025/07/08

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撮影罪はどんな犯罪?-名古屋市の事案をもとに(弁護士:長谷川 伸樹)

コラム弁護士長谷川伸樹新潟事務所

1.女子児童盗撮被疑事件

先月、名古屋市内で勤務する小学校教員が、女子児童を盗撮した画像をSNS上のグループで共有したとして逮捕されたことがニュースになっていました。


事件は捜査中であるものの、名古屋市内では同種事案の有無について調査が開始されるといった動きがあり、被疑事実の内容からしても世間に大きな衝撃を与えるものとなっています。


今回は、上記のユースを参照して、いわゆる「撮影罪」の成立要件についてご紹介できればと思います。

2.いわゆる「撮影罪」とは?

今回、被疑者が逮捕されることとなった被疑事実は、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の撮影に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(以下「性的姿態撮影等処罰法」といいます。)違反の事実とされているようです。

同法は、令和5年7月に施行された、いわゆる「撮影罪」を定めた法律になります。

 

同法が制定される前までは、盗撮行為は、各都道府県の定める迷惑行為防止条例(新潟県でいえば、「新潟県迷惑行為等防止条例」になります。)違反事件として取り締まりがなされることが一般的でした。

公共施設等への盗撮機器の設置・回収行為を捉えて、建造物侵入(刑法130条前段)で取り締まる例もありました。


しかし、条例で罰則を定めていることもあり、各都道府県により刑罰の重さが区々とされていることや、比較的に軽めの罰則(1年前後の拘禁刑又は数十万円の罰金等)となっていたことから、犯罪が多発するものの十分な規制がなされていない状態でした。


そこで性的姿態撮影等処罰法において、いわゆる撮影罪が定められたものになります。

3.「撮影罪」の成立要件

簡略化しておりますが、撮影罪の対象行為は以下の要件に該当するものが基本となります。

(1)禁止される行為

正当な理由がないのに、ひそかに、以下の①②に該当する姿態(性的姿態等)で、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(対象性的姿態等)を撮影する行為が撮影罪の対象行為となります。   

           

①人の性的な部位又は人が身に着けている性的な部位を覆っている下着
②上記以外で、わいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態

     

    撮影をする対象(上記①②)で「性的姿態等」を定義したうえで、撮影をする場所や被撮影者の認識でさらに「対象性的姿態等」を限定するという方法で成立要件を明確にしています。


    13歳未満の者を被撮影者とする場合には、場所や認識の限定はなく、性的姿態等を撮影するのみで刑罰の対象となります。


    また、撮影行為については未遂罪に関しても罰則の規定があります。

    (2)法定刑

    上記の撮影行為を行ったものは、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金となります。


    先ほど紹介した、各都道府県で定められている迷惑防止条例の罰則よりも重い水準のものとなっていることがわかります。

    (3)その他の行為について

    撮影行為の他に、その盗撮した影像の扱いに関する刑罰も別途定められています。

    性的影像記録の提供行為、提供のための保管行為、性的影像記録の送信行為等です。


    影像記録の提供行為を多数の者に行う場合や、影像記録の送信行為を行う場合は、被撮影者の権利侵害の程度がより大きくなるばかりか、性秩序・性的風俗にも影響を与える行為となるため、法定刑は盗撮行為よりも重くなります(5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はこれらの併科)。

    4.名古屋市の事案との関連性

    今回の名古屋市の事案でいえば、「女子児童を盗撮」したという点については、女子児童の性的姿態等(上記①②)の影像が撮影されたかどうかがまず問題となります。

    児童の年齢からすれば、撮影の場所や被撮影者の認識については問題とされなくなるものと思われます。

     

    さらに、「SNS上のグループで共有した」という点については、影像送信行為の要件に該当するかの捜査がなされることになると思われます。

    影像記録の送信行為は、不特定又は多数の者に対してなされる必要があるため、影像を共有したという同SNS上のグループがどのような性質(誰でも加入できるものだったのか、グループを構成する人数等)のものだったかについても、十分捜査されるものと考えられます。

    グループの構成員についても、共有された影像への関与の仕方によっては、性的姿態撮影等処罰法違反の捜査を受けるかもしれません。

    5.まとめ

    法律の規制内容や制定の経緯を簡略的にでも把握することで、法律に対する理解が深まり、ニュースがより立体的に見えてくるように思われます。


    日頃のニュースからも、より法律のことを知るきっかけにしていただければ幸いです。

    この記事を執筆した弁護士
    弁護士 長谷川 伸樹

    長谷川 伸樹
    (はせがわ のぶき)

    一新総合法律事務所 理事/弁護士

    出身地:新潟県村上市
    出身大学:神戸大学法科大学院修了

    新潟県弁護士会裁判官選考検討委員会委員長などを務める。

    主な取扱分野は、交通事故、債務整理、労働問題。そのほか相続、離婚など幅広い分野に対応しています。
    事務所全体で300社以上の企業との顧問契約があり、複数の企業で各種ハラスメント研修の講師を務めた実績があります。

     

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