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法務情報

2025/11/17

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実録・弁護士に詐欺電話がかかってきた(弁護士:海津 諭)

コラムその他弁護士海津諭新潟事務所長岡事務所上越事務所燕三条事務所新発田事務所長野事務所松本事務所高崎事務所

弁護士の海津諭です。

近年は何かと物騒な世の中で、例えば警察官を装って電話をかけてくるという特殊詐欺の行為も横行しているようです。


そして、そのような電話が私にもかかってきました。

このコラムでは、そのときの電話のやり取りと、皆様が詐欺の被害に遭わないためのポイントなどをお伝えします。

令和7年8月、私の携帯電話機に、080で始まる番号から着信がありました。

私が自動車を停めて電話に出たところ、相手は男性の声で、関西弁のイントネーションがありました。

以下、私が電話中に書いたメモに基づき、電話のおおよそのやり取りを再現して記述します。

男性:「カイヅさんでいらっしゃいますか。」
  「こちら、京都府警本部捜査2課の、マツナガと申します。」
  「伏見警察署から捜査協力要請を受けてお電話しました。」

海:「すみません、少々お待ちください。」

(海津注:警察をかたって、遠方の警察署への出頭を求め、出頭できない弱みにつけこんで詐欺を行う手口を、海津は事前にインターネット情報で知っていた。今回の発信元が固定電話でなく携帯電話の番号であったことと合わせて、この時点で詐欺を疑った。そこで、鞄から紙と筆記用具を取り出し、メモを取りながら通話を行った。)

男性:「ある金融事件で、主犯格とされる容疑者が逮捕されて、自宅から数百枚のキャッシュカードと通帳が見つかりました。」

(海津注:警察官が使う法律用語の「被疑者(ひぎしゃ)」ではなく、「容疑者」という俗語が使われたことで、海津は詐欺をさらに強く疑った。)

海:「すみません、今のお話で、キャッシュカードと通帳が、合わせて数百枚ですか。それともそれぞれ数百枚ですか。」

男性:「それぞれ数百枚です。」
   「その中から、『カイヅ サトシ』というお名前で開設されたものが出てきました。」

(海津注:私の名前の読み方はカイヅサトル。この時点で海津はほぼ詐欺だと思いつつ、どのように話してくるか興味があったので通話を続けた。)

男性:「あなたの名前ですよね。」
   「詳しい話をお聞きしたいので、伏見警察署に、身分証明書を持って来ていただくことはできますか。」

海:「カイヅサトシの名前のものがあったのですか。」

男性「はい。」

海:「読み方はそれで合っていますか。」

男性「(少し沈黙の後)はい。」

海:「金融機関はどこでしょうか。」

男性:「すみませんが、詳しい事は伏見警察署で聞いていただけますか。」

海:「すみません、少し不思議なのが、伏見警察署が担当している事件で、伏見警察署のかたではなくて京都府警のかたから電話が来たのはどうしてなのでしょうか。」

男性:「伏見警察署から捜査協力要請を受けて、電話しています。カードと通帳が大量で、一人一人電話をする人数が足りないので、捜査協力要請を受けています。」

海:「この電話番号はどのような方法でお知りになりましたか。」

男性:「金融機関に照会をかけて、それで分かりました。」

海:「金融機関はどこですか。」

男性:「周りに人がいるかもしれなくて、あまり詳しい話をしにくいのですが。」

海:「今、車の中で私一人だけなので大丈夫です。金融機関はどこでしょうか。」

男性:「PayPay銀行です。元、ジャパンネット銀行だったところです。」

海:「PayPay銀行の、カイヅサトシの名義のキャッシュカードと通帳が見つかったのですか。」

男性:「いえ、カードだけです。PayPay銀行は通帳がないので。」

海:「お手元に、カイヅサトシの名義のカードがあるのですか。」

男性:「はい。」

海:「名前の読み方はそれで合っていますか。」

男性:「はい。」

海:「伏見警察署に来てほしいというお話でしたので、伏見警察署の住所を教えていただけますでしょうか。」

男性:「いえ、来ていただく日を調整するために、まずは伏見警察署に電話をしてください。」
   「電話番号をお伝えしてよろしいですか。」
   「075-602-0110です。」

(海津注:後で調べたところ、本物の伏見警察署の電話番号だった。この時点で男性は詐欺を諦めていたのかもしれない。)

海:「不思議なのですが、京都府警からお電話を頂いて、『伏見警察署に電話をかけてください』というのであれば、最初から伏見警察署のかたからお電話を頂いていれば、一度で済んでいたわけで、迂遠なやり方ではないでしょうか。」

男性:「ええ。伏見警察署のほうにお電話をお願いします。」

海:「伏見警察署の担当課と担当のかたのお名前を教えていただけますか。」

男性「捜査2課で、サトウシンジです。」

海:「お名前の漢字を教えていただけますか。」

男性:「何ですか。」

海:「サトウシンジさんのお名前の漢字を教えていただけますか。」

男性:「それは必要ですか。」

海:「はい。同姓同名のかたがもし2人いたら困ると思いまして。」

男性:(男性が、「にんべんに左、ふじ、りっしんべんに真実の真、にんべんに漢数字の二」との説明を海津に行った。)

海:「しんじんと書いてしんじと読むのですね。」

男性:「はい。」

海:「すみません、もう一つ伺いたい事があるのですが。」

(ここで男性が電話を切った。)

やり取りは概ね以上のとおりでした(なお、被害の拡大を防ぐため、私はこの日のうちに上記の電話を報告文書にまとめて、近所の警察署に提出しました)。


さて、やり取りの途中に注としても書きましたが、今回の電話で私が詐欺を疑うことができた点は、主に次の4点でした。

① 遠方の警察署への出頭を求めるという、よくある手口だった。
② 警察署を名乗る電話にもかかわらず、080で始まる番号だった。
③ 警察官の使用しない、「容疑者」という俗語を使用した。
④ 名前の読み方が間違っていた。

まず①につきましては、詐欺電話に騙されないためには、様々な手口を警察からの注意喚起情報などで事前に知っておくことが、非常に有効なことだと思います。


他方、②につきましては、「電話番号スプーフィング」と言って、任意の電話番号(例えば警察署の本物の電話番号)を相手の画面に表示させる技術があるそうです。

そのため、固定電話番号からの着信でも安心はできません。

③につきましては、最近のニュース報道によると、ある詐欺グループは日々反省会を行うことで電話の会話内容に磨きをかけているそうです。

今回は分かりやすい失言がありましたが、失言をしてこない可能性もあります。

④につきましても、今回は名前の読み仮名の情報がなかったにすぎず、読み仮名の情報もあれば起こらなかった敵失にすぎません。

例えば、警察庁のウェブサイトでは、次のような注意喚起が掲載されています。

詐欺を見破るための参考になさってください。

(1)警察官が、電話で捜査対象となっているなどと伝えることはありません。

(2)警察官・検察官が突然スマホにビデオ通話をすることはありません。
(海津注:遠方の警察署への出頭を電話で求めてくる手口では、「遠くて〇〇警察署まで行けません」といった返事を行うと、出頭の代わりにZoomなどを使ったビデオ通話によるやり取りを求めてくるそうです。) 

(3)警察官がSNSで連絡をすることはありません。

(4)警察官が警察手帳や逮捕状の画像を送ることは決してありません。

また、同じく警察庁からのアドバイスとして、

「特殊詐欺に利用された電話番号のうち、約73.5%が国際電話番号です。」

「特殊詐欺の被害に遭わないためには、犯人からの電話を直接受けないための対策『国際電話の着信ブロック』が特に有効です。普段、海外に住む方と固定電話で通話をすることがない方は、国際電話の利用休止をお申込みいただけます。」

という、国際電話のブロックを行う措置が、警察庁のウェブサイトで示されています。

この措置も、詐欺電話を防ぐために有効な措置だと考えられます。

さらに、詐欺だと気付くことができずに犯人とのやり取りが進んでしまったとしても、せめて最後の段階で、「他人から言われて、お金を振り込んだり、カードや通帳を送付したりを絶対にしない」と気を付けていただくことが、詐欺被害の防止のために重要だといえます。

(詐欺師から送金や送付を求められる言葉の例)

・「口座を調査する」
・「口座の資金を全て確認する必要がある」
・「資産を保護する」
・「一度お金を全て振り込んでもらい、資金調査を行う必要がある」

などと言われたとしても、お金の振込みやカード又は通帳の送付を安易に行ってしまわないよう、十分にお気を付けください。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 海津 諭

海津 諭
(かいづ さとる)

一新総合法律事務所 
理事/燕三条事務所長/弁護士

出身地:新潟県燕市
出身大学:京都大学法科大学院修了
新潟県公害審査委員、新潟県景観審議会委員を務めています。主な取扱分野は、相続全般(遺言書作成、遺産分割、相続放棄、遺留分請求など)です。そのほか、離婚、金銭問題、その他トラブルなど幅広い分野に精通しています。
相続・生前対策セミナーの講師を多数務めた実績があります。
また、『月刊キャレル』(出版:新潟日報事業社)に掲載のコーナー「法律相談室」に不定期で寄稿しており、身近な法律の疑問についてわかりやすく解説しています。

 

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