【法務情報】事業者に近づく振り込め詐欺
「振り込め詐欺」という言葉が浸透してからしばらく経ちますが、最近でも振り込め詐欺が多発しています。
「振り込め詐欺」というと、たとえば、息子から交通事故で他人に怪我をさせてしまったとの電話があり、示談金名目で現金の振り込みを請求される事案(典型的な「振り込め詐欺」)や、インターネットの利用者に対して、有料サイトを閲覧した料金の請求といった名目で架空の請求をし、特定の口座へ現金の振り込みを請求されるという事案(いわゆる「架空請求」といわれるもの)がすぐに思いつくかもしれません。
しかし、金融庁などで類型化されている振り込め詐欺の手口にはこの2つの他にもさらに2種類あります。
一つは、「融資保証金詐欺」と呼ばれるものです。
これは、ある日突然、事業者のところへ、「融資する」という内容のダイレクトメールやFAXなどが送られてきます。経営が苦しい事業者が融資を申し込むと、融資する際に保証金を預けることが必要であるといわれ、保証金名目で数万円単位のお金を預けることを要求されます。
事業者がこの保証金を振り込むと、さらに別の保証金の名目でさらに高額の振込みを要求され、事業者が振り込むとさらに高額な保証金を要求される・・・といったものです。
もう一つは、「還付金詐欺」と呼ばれるものです。
これは、ある日突然、事業者のところへ税務署、自治体職員、社会保険庁などといったもっともらしい機関を名乗る者から連絡が来ます。その内容は、これから税金や医療費、保険料等の還付を行うからATMに行ってからこの電話番号に再度電話をしてほしいというものです。
事業者が、ATMへ行って電話をかけると、これから指示通りに操作をして下さいといわれ、「いまエラーが出ているので、一度こちらに○○万円を送金して下さい。そうしたら、還付金と併せて返金することができますので」などといわれ、その指示通りに操作をして相手の口座に送金してしまうというものです。
どちらの手法も第三者から冷静にみれば詐欺としか思えない内容なのですが、実際には状況によっては信用してしまうこともあるようで、被害にあった人は口を揃えて「報道などで詐欺の存在については知っていたが、まさか自分が・・・」というそうです。
このような多種多様な振り込め詐欺を予防するには、「すぐに振り込まない」「一人で振りこまない」を徹底することであると言われています。自分一人では詐欺とは思えない状況でも、家族や第三者からみると容易に詐欺だと分かるというわけです。
それでは、もしも、もうすでにこのような手口で騙され、振り込んでしまったという場合にはどのような対処方法があるのでしょうか。
この点について、従来は、通常通りの法的手続きによることしかできませんでした。
民事訴訟等であれば時間も費用もそれなりにかかるものですし、もちろん必ず全額回収できるというわけではないので、訴訟費用のリスクを考えて泣き寝入りせざるをえないケースも多々ありました。
ところが、このような状況を打開するために、平成20年6月になって振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律)が施行されました。
この法律により、規定された要件を満たせば、民事訴訟等の続きによらなくともより簡易な手続きにより「被害回復分配金」という名目で、一定の金銭の返還を求めることができるようになりました。(ただし、期間制限など一定の条件があります)
とはいえ、このような手続きを利用できたとしても、被害額を全額回収できる保証があるわけではありません。
ですから、このような振り込め詐欺にあわないよう、日頃から些細なことでも家族や第三者に相談できるという環境を確保しておくことが重要なのです。
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2008年8月号(vol.30)>