2025/05/26
法務情報
成年後見制度の見直し進む(弁護士 角家 理佳)
1 成年後見制度とは
認知症や障がい等により判断能力が不十分な状態にある人の権利を擁護し支援する制度のひとつに、成年後見制度があります。
具体的には、本人を援助する人(後見人等)を選任し、後見人等が本人に代わって契約をしたり、本人が誤った判断に基づいてした行為を取り消したりします。
成年後見には、裁判所が後見人等を選任する法定後見制度(後見、保佐、補助)と、本人が元気なうちに誰を後見人とするかを決めてその人と契約をしておく任意後見制度があります。
2 社会全体で支える
この成年後見制度は、「措置から契約へ」(福祉サービスを行政が提供する措置制度から、利用者とサービス提供者との契約に変える)という社会福祉基礎構造改革において、介護保険制度と車の両輪として平成12年にスタートしました。
この改革には、少子高齢化が進み家族の在り方も多様化していく中で、介護等を必要とする人たちを家族だけでなく社会全体で支えるという考えがありました。
裁判所の発表によれば、令和6年1月から12月の申立件数は合計4万1,841件で、その申立てをした人は、市区町村長が最も多く全体の約23.9%、次いで本人(約23.5%)、本人の子(約19.3%)となっています。
また、後見人等に選任された人は、親族以外が全体の約82.9%で、親族の約17.1%を大きく上回っています。
制度開始から四半世紀が過ぎ、高齢者等を社会全体で支えるという成年後見制度がある程度定着したことが分かります。
また、制度開始以来その利用は拡大し、令和6年12月末日時点における成年後見制度(後見・保佐・補助・任意後見)の利用者数は、25万3941人まで増えました。
とは言え、2025年の認知症患者数が約700万人に上ると推計され、今後さらに増加すると予想されていることを思えば、まだまだその利用は不十分と言わざるを得ません。
3 現行制度の問題点
制度の利用が進まない理由として、この間、特に法定後見制度についてはさまざまな問題や使いにくさが指摘されてきました。
その一つが、始まったら最後、多くのケースで本人が亡くなるまで終わらないということです。
例えば、それまで家族の支援により特段問題も支障もなく暮らしてこられた人が、遺産分割等の必要に迫られて法定後見制度を利用した場合でも、現状では、一旦利用を開始すると、遺産分割等の課題が解決しても、本人の判断能力が回復するか、本人が亡くなるまで終われないのです。
これは、本人にとっても家族にとっても、窮屈なことであることは否めません。
また、本人の状況が変化しても成年後見人等が交代せず、本人がニーズにあった保護を受けることができていないとの不満の声もあります。
さらに、現行の制度は、後見人等に広く取消権や代理権を認めていますが、それが本人の自己決定を必要以上に制限しているという問題も指摘されています。
4 成年後見制度の見直し
こうした指摘を踏まえ、現在、本人にとって適切な時機に、必要な範囲・期間で利用できる制度への改善ができないか、法制審議会で見直しに向けた検討が進められています。
認知症の高齢の人も、障がいのある人も、ひとりの人として尊重され、その能力・特性を活かして、社会の一員として地域の中で安心して暮らせる社会になるように、後見制度がその実現に資するものに改善されることに期待します。
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