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社会で実際に起こった、事例や改正された法律をふまえ、法律に関する情報をご紹介します。

【法務情報】裁判員裁判 ~従業員が裁判員に選ばれたら~

 │ ビジネス, 労働, 燕三条事務所, 弁護士海津諭

1 はじめに

刑事裁判の手続では,一定の重大事件において,市民が裁判員として参加する裁判員裁判が行われています。

 

今回は,使用者の観点で,雇用している従業員が裁判員に選ばれた場合の対応や注意点等を説明いたします。

 

2 休暇を与える義務

労働基準法7条は,「使用者は,労働者が(中略)公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては,拒んではならない。」と定めています。

 

裁判員裁判の職務はこの「公の職務」に該当しますので,使用者は従業員に対し,従業員が裁判員裁判のために裁判所に出頭する日について,休暇を与えなければなりません。

 

3 何日休暇を与えることになるか

裁判員候補者として裁判所から呼出状を受け取った人(一つの事件につき数十人程度です。)は,まず,「裁判員選任手続期日」に裁判所に出頭することになります。この手続は1日で終わり,上記の数十人の中から,通常,裁判員6人と補充裁判員数人が選任されます。

 

裁判員または補充裁判員(以下,まとめて「裁判員等」と言います。)に選任された人は,引き続き,後日の裁判に参加していくことになります。裁判員裁判は大体4日前後で終わりますが,複雑な事件では長期化することもあります。

 

裁判員等に選任されなかった人は,上記の「裁判員選任手続期日」の1日だけで手続が終わります。

 

したがって,使用者としては,裁判員候補者となった従業員にはまず1日の休暇,そしてその従業員が裁判員等に選任された場合にはさらに裁判日数分の休暇を与えることになります。

 

4 休暇中の給与はどうすべきか

休暇中の給与につきましては,無給としても構いません(ただし,使用者が就業規則等で裁判員裁判のための特別な有給休暇制度を導入している場合は,その定めによります)。

 

なお,裁判員候補者及び裁判員等に対しては,裁判所から一定額の日当が支払われます。

 

5 従業員が有給休暇を取得した場合

従業員は,会社の一般的な有給休暇取得の定めに従って,裁判員裁判のための休暇期間について有給休暇を取得することも可能です(この場合でも,裁判所からの日当は使用者ではなく従業員自身が受領することになります)。

 

 6 仕事を理由とした辞退について

裁判員候補者となった人は,仕事が忙しいという理由だけでは,裁判員への選任を辞退することができません。

 

例外的に,候補者に非常に重要な仕事があり,候補者自身が処理しなければ事業に著しい損害が生じる場合等に限って,辞退が認められます。このような例外事情があるかどうかの判断にあたっては,①裁判員として職務に従事する期間,②事業所の規模,③担当職務についての代替性,④予定される仕事の日時を変更できる可能性,⑤裁判員として参加することによる事業への影響,といった観点から判断がなされます。

 

そこで,使用者としては,仕事を理由とした辞退が例外的な場合に限られるということを理解した上で,候補者となった従業員に対して安易に辞退を促してしまわないように気を付ける必要があります。

 

7 不利益取扱いの禁止

裁判員法100条は,「労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得したこと(中略)を理由として,解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」と定めています。

 

そこで,使用者としては,従業員が裁判員裁判のために休暇を取得したからといってその従業員を不利益に取り扱わないよう,気を付ける必要があります。

 

8 早目の報告を求めておくべき

以上のとおり,使用者は,従業員が裁判員候補者となった場合には休暇を与える義務を負っており,かつ,仕事を理由として辞退してもらうことは例外的な場合にしかできません。

 

そこで,使用者としては,裁判員候補者となった従業員にはその事を早目に報告してもらい,休暇に向けた業務の引継ぎを行うべきです。

 

3で述べた裁判員候補者への呼出状は,裁判員選任手続期日の遅くとも6週間前までには発送されます。そのため,使用者が日頃から,「裁判員候補者に選ばれた場合には,その事を速やかに報告してください」というお願いを従業員に周知しておけば,従業員からの速やかな報告によって,業務の引継ぎに5週間以上の猶予期間を得ることが期待できます(ただし,従業員の報告が遅くなってしまった場合であっても,2で述べたように休暇を与える義務があり,また7で述べたように不利益な取扱いを行うことはできません)。

 

9 報告を求めるのが違法ではないこと

なお,誰が裁判員候補者となったかを「公にすること」は裁判員法で禁じられていますが,業務の円滑な引継ぎのために必要な範囲内で会社の上司や同僚等に報告することは許容されています。そのため,使用者が8で述べたように報告を求めることは違法ではありません。

 

以上,従業員が裁判員に選ばれた場合につきまして,簡単に説明いたしました。裁判員裁判につきましては裁判所のホームページにも詳細な説明がありますので,そちらもぜひご参照ください。

 

 ◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 海津 諭◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年4月15号(vol.148)>

【法律相談】外国人留学生のアルバイト雇用

 │ ビジネス, 労働, 燕三条事務所, 弁護士海津諭

 私の会社で短期のアルバイトを募集したところ,N第一大学に通っている,外国人留学生のAさんが応募してきました。面接したら真面目そうな人柄だったので,採用しようと思っています。

ただ,私の会社で外国人のアルバイトを雇用するのは初めてです。何か気をつけるべき点などはあるでしょうか。


1.在留資格及び在留期間の確認

外国人留学生の方をアルバイトとして雇用する場合,まずは,最も基本的な事項として,在留資格を正しく有しているかどうか,及び在留期間がいつまでかを確認するべきです。

在留資格と在留期間は,パスポートの中に貼られた「証印」というシール状のものに記載されています。また,市町村等が発行して外国人に交付する「在留カード」にも記載されています。

確認する際は,念の為にパスポートと在留カードの両方を確認した上で,確認した証明としてコピーを取っておくことをお勧めします。

なお,在留資格については,留学生であれば,「留学」という在留資格が記載されているはずです。

 

2.資格外活動許可があるかの確認

「留学」という在留資格は,その人が日本において教育を受けるために与えられた資格であり,就労をするために与えられた資格ではありません。そのため,「留学」の在留資格で日本に来ている外国人は,原則として,「収入を伴う事業を運営する活動」及び「報酬を得る活動」を行うことはできません(出入国管理法19条1項2号)。外国人留学生のアルバイト行為は,この「報酬を得る活動」に該当します。

そこで,外国人留学生がアルバイトを行うためには,入国管理局から,「資格外活動許可」を得る必要があります。この資格外活動許可は,外国人留学生が自分でまたは在籍する教育機関の申請取次制度を利用するなどして,管轄の入国管理局(例えば,新潟県在住の場合は東京入国管理局新潟出張所など。)に申請を行って取得します。

資格外活動許可を得た人には,「資格外活動許可書」が発行されます。そこで,外国人留学生をアルバイトとして雇う場合は,この許可書を提示させて許可の存在を確認すべきです。なお,この許可書についても,確認した証明としてコピーを取っておくことをお勧めします。

 

3.活動許可がないとどうなるか

万が一,外国人留学生が資格外活動許可を得ずにアルバイトを行った場合,または同許可の有効期限を過ぎてアルバイトを行った場合は,不法就労となり,日本からの退去を強制される可能性があります(同法24条4号イ)。また,懲役,禁錮若しくは罰金(または懲役・禁錮と罰金との併科)という刑事罰を科せられる可能性もあります(同法70条1項4号,同法73条)。

さらに,留学生自身だけではなく雇用主についても,資格外活動許可のない外国人留学生に就労をさせた雇用主は,同許可の不存在を知らなかったことにつき過失のない場合を除いて,懲役若しくは罰金(またはこれらの併科)という刑事罰を科せられる可能性があります(同法73条の2第1項1号,同条2項2号)。そのため,外国人留学生を雇用する場合に,資格外活動許可の存在を確認しておくことは非常に重要です。

 

4.労働時間の制限

外国人留学生の資格外活動としての就労については,在留の真の目的である教育活動が疎かにならないようにという趣旨で,日本人の場合よりも労働時間が制限されています。

具体的には,「1週について28時間以内」という制限がなされています。ただし,在籍する教育機関の長期休業期間においては,「1日について8時間以内」に緩和されます(同法施行規則19条5項1号。もっとも,後者についても,日本人と同様に1週間40時間以内といった労基法上の制限が適用されます)。

そのため,外国人留学生をアルバイトとして雇用する場合には,上記の労働時間の制限を越えてしまわないように注意が必要です。

 

5.職種の制限

なお,前記の資格外活動許可を得ている外国人でも,職種の制限として,風俗営業等に従事することはできません(正確には,「風俗営業若しくは店舗型性風俗特殊営業が営まれている営業所において行うもの又は無店舗型性風俗特殊営業,映像送信型性風俗特殊営業,店舗型電話異性紹介営業若しくは無店舗型電話異性紹介営業」に従事できません。出入国管理法施行規則19条5項1号)。

 

6.おわりに

外国人留学生をアルバイトとして雇用する場合について,注意すべき点は概ね以上のとおりです。

なお,本稿に関連する記事として,こもんず通心67号において角家弁護士が,「外国人雇い入れ時の注意点について」という記事,同86号において朝妻弁護士が,「外国人を雇い入れるということ~外国人労働者を雇用する際の注意点~」という記事を,それぞれ執筆しております。それらの記事もあわせてご参照いただければ,外国人雇用に関してより深くご理解いただけると存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

 

 ◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 海津 諭◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2013年11月15号(vol.138)>

 

【法務情報】非上場会社の株価を算定する方式

 │ ビジネス, 燕三条事務所, 弁護士海津諭, 企業・団体

1 はじめに

 最近,日本企業の株価について多くの報道がなされています。

 株価,すなわち一株当りの価値につきましては,証券取引所に上場されている株式であれば,現在の取引価格をすぐに確認することができます。

 他方,国税庁の統計等によれば,日本で株式を上場している会社の数は,日本の会社総数の0.2%未満に過ぎません。したがって,圧倒的多数の会社につきましては,計算を行わなければ株価が分からないということになります。

 では,非上場会社の株価は,どのような方式によって算定されるのでしょうか。以下で代表的な算定方式を簡単にご紹介いたします。

 

2 純資産方式

 会社の純資産額を発行済み株式数で割ることによって,株価を算定する方式です。

 この方式は,客観性に優れているという利点,並びに,清算手続中または清算予定の会社,過去に蓄積された利益があるが将来の利益があまり期待できない会社,及び赤字体質の会社において,実態を株価に反映させやすいという利点があります。

 問題点としては,収益獲得能力を株価に十分に反映できないため,例えば知的活動が重要な役割を果たす産業(研究,ソフト開発等)及び労働力に対する依存度が高い産業(サービス業等)等について,実態と株価が乖離してしまう,といった問題があります。

 

3 DCF方式(ディスカウントキャッシュフロー方式)

 将来予測される年度別収益を現在価値に割り引いて,その合計額を発行済株式数で割ることによって,株価を算定する方式です。

 この方式は,近時成長している企業及び収益力の高い企業において,実態を株価に反映させやすいという利点があります。

 問題点としては,将来の収益及び適正な割引率(利子率にリスクを加えた割合)の算定が難しく,かつその算定に主観が入る可能性があるといった問題があります。

 

4 ゴードン・モデル法

 将来予測される配当金の額を基礎として株価を算定する方式であり,かつ内部留保率を配当の増加要因として考慮するものです(内部留保の再投資によって将来利益が増加するという考慮)。

 継続して適正な配当を行っている会社において,実態を株価に反映させやすいという利点があります。

 その反面で,継続した配当を行っていない企業では用いることができない,並びに会社の配当性向によっては収益力及び純資産の状態を株価に適正に反映できない,といった問題があります。

 

5 比準方式

 同業上場会社のPER(株価収益率)及びPBR(株価純資産倍率)等との比較を行うことによって,株価を算定する方式です。

 適切な比較対象となる上場会社が存在する場合は,市場での取引環境を反映できるという利点があります。

 その反面で,適切な比較対象がない場合には使用することができません。

 

6 裁判例の傾向

 裁判実務においては,例えば,“非上場株式を保有している株主が,会社に対して当該株式の買取りを請求した”という事案において,請求者と会社との間で株価が争いになることがあります。

  裁判例の傾向としては,前記のようにそれぞれの算定方式には一長一短があることから,対象会社の特性を考慮した上で,上記のような算定方式を単独でまたは複数組み合わせて株価を算定しています。以下に例を挙げます。

 

(1)東京高裁平成22年5月24日決定

  事業譲渡に反対した株主が株式買取請求権を行使した,という事案です。

  純資産方式は継続企業としての価値を評価する場合には適当でない,など判示した上で,DCF方式を採用しました。

 

(2)福岡高裁平成21年5月15日決定

  株式譲渡制限のある会社において,株主の譲渡承認請求を会社が承認しなかったため,株主が株式買取請求権を行使した,という事案です。

純資産方式以外の評価方式に依存することに少なくない危険性が認められる場合には純資産方式を基本にして算定するのが相当である,など判示した上で,純資産方式とDCF方式とを7:3の割合で併用しました。

 

(3)広島地裁平成21年4月22日決定

  (2)と同様,株主の譲渡承認請求を会社が承認しなかったため,株主が株式買取請求権を行使した,という事案です。

  ①継続企業としての価値の評価に相応しい評価方法はDCF方式である,②会社は直近3年度において配当を実施しており,配当性向は上場全銘柄の配当性向に照らして特に不合理とは考えられないからゴードン・モデル法を採用することに特段支障はない,など判示した上で,DCF方式とゴードン・モデル法とを1:1の割合で併用しました。

 

7 おわりに

 以上のとおり,非上場会社の株価につきましては様々な算定方式があり,当事者間で争いが起こる場合があります。お困りの際には,ぜひ当事務所の弁護士にご相談いただければと存じます。

  なお,非上場株式を相続して相続税を計算するという相続の場面につきましては,国税庁が算定方式を定めていてその方式に従う必要がありますので,ご注意ください。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 海津 諭◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2013年5月15日号(vol.126)>

【法務情報】集合物譲渡担保

 │ ビジネス, 燕三条事務所, 弁護士海津諭, 債務

1 集合物譲渡担保とは

 債権者が債権の支払いについて担保を得る方法としては,債権者が,債務者等の所有する動産について,その者の手元に置いたまま自己に所有権を移転させて担保目的物として確保しておくという方法があります。これを動産譲渡担保といいます(なお,動産譲渡担保はこもんず通心103号でも取り上げましたので,よろしければそちらもご参照ください)。

   そして,この動産譲渡担保には,担保の目的物を個々の動産に限定せずに,経済活動の過程で流動する動産を一括して担保の目的物とする方法があります。これを「集合物譲渡担保」といいます。

  例えば,担保を提供する会社が,その施設において原材料を搬入して製品を製造し,または製品を仕入れ,そしてそれらの製品を順次搬出して出荷しているという場合,当該施設においては,原材料,仕掛品及び製品といった動産が入れ替わりながら存在していることになります。これらの動産を一定の範囲で担保目的物とするのが,集合物譲渡担保です。

 

2 担保目的物の特定

 集合物譲渡担保においては,担保目的物が明確になるように,担保目的物の範囲を特定する必要があります。そこで,一般的には,譲渡担保設定契約において例えば次のように所在場所及び種類等を明記することで,担保目的物の範囲を特定します。

  

<条項例>

第○条 譲渡担保権の目的物は,担保提供者が現在下記保管場所に保管し,または将来同保管場所に搬入保管する,担保提供者の所有にかかる下記の物とする。

1 保管場所

  所在地(住所を記載。)

  名 称(施設名,倉庫名等を記載。)

2 目的物

○○株式会社の製造する△△の原材料,仕掛品及び製品

 

3 搬出,搬入の効果

 1で説明しましたように,集合物譲渡担保は,担保提供者による仕入れ,製造及び出荷等の経済活動を妨げずに担保を確保するという方式のものなので,担保権の設定後に,担保目的物の構成部分が変動することが予定されています。

 すなわち,担保提供者は,担保目的物を使用することや出荷のため搬出することができます。また,担保目的物となる物品を新たに搬入することもできます。

  例えば,前記条項例のように指定の場所にある原材料,仕掛品及び製品を担保目的物とした場合,担保設定者は,原材料及び仕掛品を使用して製品とすること,及び製品を搬出して出荷することが可能です。また,担保設定者は,新たに原材料,仕掛品または製品を当該場所に搬入することも可能です。

 指定の場所から搬出された物は,譲渡担保の目的物からは外れ,譲渡担保権が及ばなくなります。逆に,指定の場所に新たに物が搬入された場合は,その搬入された物が譲渡担保設定契約で定めた担保目的物の種類に合致するものである限り,新たに担保目的物の一部となります。

 なお,担保目的物がみだりに搬出されてしまうと,譲渡担保権者は担保価値の減少によって不利益を被ることになります。そこで,譲渡担保権者としては,例えば次のような条項を譲渡担保設定契約に定めておき,搬出について承認権限を持つことや搬出を一定程度に限定することが有益です。

 

<条項例>

第○条 担保提供者は,担保権者の個別の承認を得た上で,担保目的物を通常の営業に必要とされる範囲内で無償で使用することができ,また通常の営業目的のために第三者に対して相当な価額で譲渡することができる。担保提供者及び債務者は,当該使用及び譲渡の場合を除いては,保管場所から担保目的物を搬出してはならない。

 

4 対抗要件について

   なお,譲渡担保権を第三者に対しても主張できるようにするために,譲渡担保権者が占有改定または動産譲渡登記を行うべきであるという点は,一般の動産譲渡担保の場合と同じです(詳しくはこもんず通心103号をご参照ください)。

 

5 担保権実行の手続

 譲渡担保権者は,一定の事由が生じた場合に,担保権を実行して担保目的物を確定的に取得することによって,未払債務の弁済を受けることになります。

 上記の「一定の事由」としては,例えば,①債務の履行が遅滞したとき,②手形・小切手の不渡りが生じたとき,③債務者が差押え,仮差押え,仮処分もしくは競売等の申立てを受け,または破産,民事再生,会社更生もしくは任意整理の手続に着手したとき,④契約の定める禁止行為に違反したとき,などが考えられ,それらを予め譲渡担保設定契約に定めておきます。

 そして,これらの事由が生じた場合に,譲渡担保権者としては,担保目的物が散逸する前に直ちに担保提供者に対して担保目的物の引渡しを請求することになります。

 仮に引渡しを拒まれた場合は,担保目的物の処分や移転を禁止する仮処分を裁判所に申し立て,かつ引渡しを求める訴訟を提起するという方法により,譲渡担保権者は担保目的物を確保することができます。

 

6 おわりに

 以上,集合物譲渡担保につきまして簡単に説明させて頂きました。

 ご質問などがございましたら,お気軽に当事務所の弁護士にお尋ねください。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 海津 諭◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2012年12月15日号(vol.116)>

【法務情報】動産譲渡担保におけるチェック・ポイント

 │ ビジネス, 燕三条事務所, 弁護士海津諭

1 動産譲渡担保とは
 取引が行われる際,債権者が債務者に対する貸付金債権や売掛金債権の支払いを担保する一つの方法として,「動産譲渡担保」という方法があります。これは,債務者の所有する動産(例えば機械)を,債務者の手元に置いたまま,債権者に所有権を移転させて担保目的物として確保しておくという方法です。

 

 債務者の経済状況が悪化するなどして債務の履行がなされなかった場合,債権者すなわち譲渡担保権者は,担保目的物を換価処分するか,または担保目的物を自己の所有物として確定的に取得することによって,未払債務についての弁済を受けることになります。

 
 今回は,この動産譲渡担保について,①事前調査の必要性と,②即時取得防止措置の必要性という,譲渡担保権者が気をつけるべき2つの点を解説いたします。

 

2 事前調査の必要性 
(1)占有改定または動産譲渡登記
 譲渡担保設定契約を締結する際,譲渡担保権者は,譲渡担保権を第三者に対しても主張できるようにするために,占有改定(債務者が,自己の占有物につき,以後は譲渡担保権者のために占有する旨の意思を表示する方法)または動産譲渡登記(動産の譲渡がなされたことを登記所で登記する方法。担保設定者が法人の場合のみ可能。)を行うことが一般的です。

 
(2)事前のチェックをすべきであること 
 この占有改定または動産譲渡登記を行う際,担保目的物が既に第三者に売却され,または既に第三者のために譲渡担保が設定されていて,その第三者が占有改定または動産譲渡登記を先に行っていた場合,後の譲渡担保権者は優先権を主張できなくなってしまいます。
 そこで,譲渡担保設定契約を締結する際には,事前に,このような第三者への占有改定または動産譲渡登記といった事実がないかをチェックする必要があります。

 

3 第三者の即時取得を防止する措置の必要性 
 譲渡担保の設定後において,その担保目的物が事情を知らない第三者に売却されるなどして,「即時取得」(取引行為により,平穏,公然,善意かつ無過失で動産の占有を始めた者は,即時にその動産について権利を取得するという法理。)が成立した場合,譲渡担保権者は目的物についての譲渡担保権を失ってしまいます。

 
 そこで,譲渡担保権者は,例えば下記のような条項を譲渡担保設定契約に定めておき,債務者が倒産した場合や倒産のおそれが強くなった場合に,担保目的物が譲渡担保権者の所有物であることを示す標識を付すことによって,第三者による即時取得の成立を防ぐ必要があります。

 
<条項例>第○条 担保提供者は,担保権者から請求を受けたときは,本物件が担保権者の所有に係るものであることを明示する表示を本保管場所または本物件に対して行う。

 
 また,2でも触れた動産譲渡登記を行っておけば,譲渡担保の事実を誰でも登記所で確認できるようになりますので,即時取得の要件である「無過失」が認められない可能性が高まり,第三者による即時取得の成立を一定程度防止する効果があります。

 

 

4 おわりに
 動産譲渡担保につきましては,契約書の作成や,契約条項に不備がないかの確認などを弁護士がお手伝いできます。動産譲渡担保をお考えの場合は,ぜひお気軽に当事務所の弁護士にご相談ください。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 海津 諭◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2012年5月31日号(vol.103)>

 

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