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敷金が法律に明記されるとどうなる?

 │ 新潟事務所, その他

 

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1 マスコミ報道を見て

皆さんは,テレビや新聞などのマスコミから法律に関する情報を仕入れていると思います。

私たち弁護士も,マスコミを通じての情報収集を欠かせないわけですが,

先日テレビを見ていたら,民法が改正されて,

敷金に関する規定が盛り込まれるという話題が取り上げられていました。

(※掲載は平成26年9月です。)

 

敷金の定義を置き,

借主は経年変化に対する原状回復義務を負わずに敷金が返還されるというものです。

そして,敷金を返してもらえなかった経験がある人のお話が紹介されました。

これを見た時,ちょっと誤解を生みそうな報道だなと私は感じました。

 

改正自体がまだ予定の段階なのもそうですが,

民法が改正されるまでは,借主は経年変化に対して原状回復義務を負い,

敷金は返してもらえないのが今のルールであるかのような印象を受けたからです。

 

しかし,以下に詳しく説明しますが,実は,そうではないのです。

 

2 敷金とは

昔から,特にアパートなどでは敷金の差し入れが求められ,

その返還をめぐるトラブルも多く,裁判も提起されています。

以下では,わかりやすいように,アパートなどの住宅の賃貸を念頭に述べます。

 

裁判所は,敷金を,

未払賃料や明渡しまでに発生する借主の債務を担保する趣旨で交付される金銭と定義しており,

改正予定の定義も,これに合わせた形になります。

 

この定義から明らかなように,未払の賃料が敷金から控除されるのは当然として,

「明渡しまでに発生する借主の債務」も敷金から控除されます。

タバコの不始末で床に焦げを付けてしまったなど,

通常の使用で生じたとはいえない場合の修繕費用がこれにあたります。

 

それでは,経年変化や日常生活で生じた汚れはどうなのでしょうか。

裁判で問題となった事例を紹介して説明します。

 

3 判例の紹介

問題となった事案は,契約書において,借主が負担する補修費用の一覧表があり,

例えば手垢など日常生活による障子の汚れ,

床仕上材・壁の日常生活にともなう汚れ・変色についての補修を借主の負担とする規定がありました。

 

貸主は,当然,この契約書の規定に基づいて

一部の敷金しか返還しなかったわけですが,借主がこれを不服として提訴したのです。

 

裁判所は,借主は「通常の損耗」(通常の使用により生じる劣化)を

修繕する義務を負わないのが原則であるから,

もし借主に「通常の損耗」についての修繕義務を負わせるためには,

その範囲が契約書に具体的に明記されているなど明確な合意が必要である,としました。

 

そして,本件では一応,契約書に借主の負担に関する規定があったわけですが,

裁判所は,契約書の内容は具体的でなく,明確な合意は認められないと判断しました。

(最高裁平成17年12月16日判決)

 

このように,裁判所は,契約書の内容には

借主が「通常の損耗」を修繕しなければならないような書きぶりがあったにもかかわらず,

借主が「通常の損耗」の修繕をする義務を否定したのです。

 

しかも,この判例に従うかぎり,

借主が「通常の損耗」の修繕義務を負うことを貸主側が立証しなければ,

貸主は,敷金を返還しなければならないことになります。

 

4 民法が改正されることの意義

以上のとおり,現在でも,

借主は経年変化,つまり「通常の損耗」に対する原状回復義務を負いません。

予定されている改正の内容は,3で紹介した判例の趣旨を明記したことになります。

 

なので,報道どおりに民法が改正されたとしても,

裁判実務への影響は,それほど大きくないと思われます。

 

まだ確定ではないわけですが,

民法を改正して敷金規定を明示することにどのような意味があるのでしょうか。

 

その一つは,民法改正にともなって賃貸業者が契約書を見直す際に,

敷金の規定が整備されることです。

 

多くの事業者は,判例の存在など知りませんから,

自分の都合のいいように契約書の文言を決めていることがあります。

ですが,民法に明記されることによって,法律に抵触しそうな文言は設けないでしょう。

 

もう一つは,もし一般の方が,

貸主が敷金が返還されないことに対して不満を言う場合に,

法律に明記してある方が交渉しやすいということが挙げられます。

 

5 最後に

約120年ぶりの大改正とあって,

民法改正は多くのマスコミに取り上げられ,抜本的な制度変更を予定しているものもあります。

例えば,短期の消滅時効は,今では種類によって期間が別々なのですが,

一律に5年になるというのが有名です。

 

マスコミは,基本的には優れた情報収集の手段ですが,

時折不正確な情報を流すので注意が必要です。

 

民法改正に関心を持つことは大切ですが,

それによってどのような影響を受けるのかについては,

きちんと専門家に相談するのが適切かと思われます。

 

民法改正は,まだ要綱仮案の段階なので改正内容については,流動的な部分があります。

ですが,現段階からきちんと情報を集めて,情報発信をしていきたいと思っています。

 

◆監修者◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 今井 慶貴

 <初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年9月17日号(vol.158)>

※掲載時の法令に基づいており,現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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