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社会で実際に起こった、事例や改正された法律をふまえ、法律に関する情報をご紹介します。

【法務情報】「震災時の企業法務」~取引先の被災に備える~

 │ 弁護士五十嵐亮, 長岡事務所, 震災

今回は、取引先が被災した場合にそなえたリスク管理の一例をご紹介します。

 

まずは、X社に生じた二つのケースを見てみましょう。(なお、X社は、売買契約において特約を定めていなかったとのことです。)

 

【ケース1~不動産売買のケース】
Q X社は、先月、A社から、倉庫用の建物を購入し、来月にカギの引渡しと代金の支払いを控えていました。ところが、今回の震災でその建物が全壊してしまいました。この場合でも代金を支払わなければならないでしょうか?

 

A 不動産は、特定物(契約上目的物の個性に着目するもの)であり、特定物の場合には、当事者双方の過失なく目的物が滅失したとしても、代金債務は消滅しないと定められています。すなわち、建物は全壊したのに、代金を支払わなければなりません。

 

【ケース2~パソコン製造用部品売買のケース】
Q X社は、先月、B社から、パソコン製造用の部品を100個購入しました。先日、B社から「部品100個を他の物から分離して準備してあるので、来月末までに取りに来てほしい。」という連絡を受けていました。
ところが、昨日、B社から「今回の震災で、自社の在庫が全てダメになってしまいました。」という連絡を受けました。当社から、B社に対し新たに調達するよう請求できるのでしょうか?また、代金はどうすればよいでしょうか?

 

A 「パソコン製造用の部品100個」は、不特定物(契約上目的物の個性に着目しないもの)です。不特定物の場合、B社が、「分離」して「通知」した後は、売買目的物が「特定」したことになります。特定してしまうと、B社は調達義務を免除されます。
   そして、不特定物でも特定した後は、特定物と同じように扱われるため、震災でB社の在庫が全て滅失したとしても、代金債務は消滅しません。結局、X社は、部品が滅失したのに、代金を支払わなければなりません。

 このように、双方の過失なく売買の目的物が滅失した場合であっても、代金を支払わなければならないという考え方を「危険負担における債権者主義」といいます。この考え方は民法で規定されていますが、契約に特約を定めることによって、適用を排除することができます。 X社もきちんと特約を定めてさえいれば、代金を支払わなくてもよかったといえます。

 

皆様も、今一度、契約書をチェックしてみてはいかがでしょうか?

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 五十嵐 亮◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2011年10月15日号(vol.88)>

【法務情報】電力使用制限令とは

 │ 新発田事務所, 震災, 弁護士塩谷陽子

 東日本大震災による原発事故を受けて,7月1日に「電力使用制限令」が発布されました。

 
 この電力使用制限令は,電気事業法27条という法律に基づく措置ですが,電気事業法というと,一応弁護士である私にとってもあまりなじみのない法律であり,司法試験にも出ません。

 
 そこで,この機会に電気事業法27条についてみてみると,次のように規定されています。

 「経済産業大臣は,電気の需給の調整を行わなければ電気の供給の不足が国民経済及び国民生活に悪影響を及ぼし,公共の利益を阻害するおそれがあると認められるときは,その事態を克服するため必要な限度において,政令で定めるところにより,使用電力量の限度,使用最大電力の限度,用途若しくは使用を停止すべき日時を定めて,一般電気事業者,特定電気事業者若しくは特定規模電気事業者の供給する電気の使用を制限し,又は受電電力の容量の限度を定めて,一般電気事業者からの受電を制限することができる。」

 

 つまり,電力不足の際には経済産業大臣が国民に電力の使用を制限することができるとされているのです。
 この規定が適用されるのは昭和49年の石油危機のとき以来37年ぶりとのことです。

 
 では,具体的にどのように電力使用が制限されるのかというと,「電気事業法27条に関する政令」は今回の制限令の具体的な内容として,次のように規定しています。

 
 すなわち,東北電力区域では7月1日から9月9日まで,東京電力区域では7月1日から9月22日までの期間の平日午前9時から午後8時まで,使用電力を昨年夏の使用電力より15パーセント削減しなければならない,という内容です。
 
 そして,電気事業法には罰則が定められており,上記の使用制限に違反した場合には,「100万円以下の罰金」という刑事罰に処するとの規定が置かれています。
 端的にいうと,節電する義務に違反した場合には犯罪となり,刑事罰が科されるということになります。

 
 節電しないと犯罪になる,というと驚かれる方もおられるかもしれませんが,今回の制限令は,対象となる事業所が,「東京電力及び東北電力供給区域内の契約電力500キロワット以上の大口需要家」に限られており,対象となる事業所には経済産業省より通知が発せられています。

 
 したがって,現在,経済産業省からの通知が届いていなければ,制限令の対象とはなりません(もっとも,これから新たに500キロワット以上の契約をした場合には対象となります)。

 
 このように,罰則の対象となるのは契約電力500キロワット以上の大口需要家のみで,契約電力500キロワット以下の事業所や一般家庭では,節電できなかったとしても犯罪にはなりません。

 
 では,国が,制限令の対象とならない一般家庭に対してどのような手法で節電を呼びかけているかというと,昨年夏の使用電力から15パーセント削減を達成することができた場合には,旅館宿泊券やLEDライトなどの「景品」が進呈されるという制度が,経済産業省のホームページ上で実施されています。

 
 現在,この景品進呈制度は東京電力区域のみが対象とされていますが,経済産業省のホームページによると,7月下旬頃に東北電力区域も対象となるようです。

 
 以上のように,国は,罰則と景品というアメとムチ(?)を使って国民に節電を促しているというわけです。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 塩谷 陽子◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2011年7月15日号(vol.82)>

【法務情報】いわゆる「風評被害」というもの

 │ 新潟事務所, 弁護士和田光弘, 震災

 先日、テレビ報道を見ていたら、福島県内の皮革製品製造会社の震災後の状況を伝えていた。
 福島第一原発の事故前までは、ブランド会社の下請製品の製造が順調に拡大し、人員増も考えていたという。
 そこに、原発事故が起きた。
 経営者は、なんとか福島県内での操業再開をめざしていたものの、頼みのブランド会社から「放射能に汚染されているかもしれないバッグは売れない」ということで、製造委託がキャンセルになった。
 苦悩する社長は、泣きながら従業員に東京への移転を告げて、本格操業の再開となるまで解雇せざるを得なくなった。

 
 私が社外取締役を務めている新潟県内の製造会社でも、外国向け輸出製品の放射能検査を求められたと、社長から聞いている。
 汚染されていることがない、と分かっていても、出荷用の段ボールに、検査をした上での検査済み証明書を添付した、という。費用も、数万円で、それほど安くはない。

 
 今、原子力損害のなかで、いわゆる「風評被害」が問題になっている。
 「いわゆる」とつける理由は、本来その心配がないのに消費者や取引先が先回りをして購入や取引をやめるという心理的損害の意味で使われることもあるからだ。
 昔、管首相がカイワレ大根をむしゃむしゃ食べた宣伝用実演が行われたが、あれこそ風評被害への健全アピールにほかならない。
 しかし、こうした、純粋に心配し過ぎの「風評被害」ばかりとは言えないのが、今の原発事故だ。

 
 原発事故の損害をどのように算定すべきか検討している文科省の審査会での定義は以下の通りだ。
 「報道等により広く知らされた事実によって、商品又はサービスに関する放射性物質による汚染の危険性を懸念し、消費者又は取引先が当該商品又はサービスの買い控え、取引停止等を行ったために生じた被害」

 この被害を判定する基準は「消費者又は取引先が、商品又はサービスについて、本件事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が、平均的・一般的な基準として合理性を有していると認められる場合」としている。
 その結果、とりあえず、福島県内の農林水産業における食物全て及び観光関連事業が対象となり、前年度比較での営業利益の減額が認められれば、その損害は認められることになりそうだ。

 
 しかし、それはいつまでなんだろうか、という新たな疑問がわく。
 原発事故の収束までと考えられるが、いったん汚染された地域での放射性物質の影響は、放射性物質の種類にもよるが、セシウム137ということであれば、除染されない限り、100年とも言いうる(いわゆる放射能の力が半減するのが30年だからだ)。
 気が遠くなる話だ。
 むろん、そのような永遠に近い損害賠償は無理だろう。 

 
 さらに、福島県外の産物や事業はどうなるのだろうか。
 この点の結論はまだ出ていないし、実際には、茨城、群馬、千葉、静岡にまで広がりを見せている。観光で言えば、関東・東北至る所での損害は拡大し続けている。

 
 冒頭に報告した皮革製品の製造会社の選択(東京移転)による損害は補償されるのだろうか。
 事業経営は、消費者心理を先読みするところから始まる。 「平均的・一般的な基準としての合理性」などの遥か先を読まなければ、じり貧になるだけである。
  それを分かっていても、法律家として「合理性」を主張するとなると、国の基準をあてにしていても、自分の企業を守ることはできない、というのが、本音だ。

 
 「口惜しい」という経営者の声や労働者の声が聞こえてきそうだけれども、これが、原発事故の被害の実態だろう。

 
 電気供給という大きな問題の議論が冷静になされなければならないと言う経済評論家や経済団体の論議が分からないわけでもないが、原子力被害にブレーキをかける方法を確立していないと、この悲劇は繰り返される。この点に限って言えば、今のところ、ブレーキの方法は確立していない。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 和田 光弘◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2011年6月30日号(vol.81)>

【法律相談】震災で行方不明の親族の財産管理

 │ 新潟事務所, 弁護士角家理佳, 震災

Q このたびの震災で,親族の1人が行方不明で未だに安否も分からないままです。その人の財産の管理はどうしたらよいでしょうか。

 

A.行方不明の方に,もともと財産管理人や後見人等がついていた場合には,引き続きその人が財産管理をすることになります。 
 しかし,そのようなケースは,非常に少ないと思われます。 

 
 そこで,行方不明者が成人の場合には,財産管理人の選任を申し立てることになります。 
 申立てがなされると,家庭裁判所が財産管理の必要があるか否かを調査し,必要性ありと判断すれば,財産管理人が選任されます。そして,以後その人が行方不明の方が戻るまでの間,財産を管理することになります。
 ただし,この申立ては,利害関係人(推定相続人や債権者等)と検察官しかできません。
 また,この制度は,現状をそのまま維持・保全することを目的としていますので,積極的に財産を処分するようなことは基本的には出来ません。どうしても必要な場合には,裁判所の許可を得てすることになります。

 
 しかし,今回のような甚大な被害の場合,行方不明者の生還の可能性が低いという現実を受け入れ,相続を開始させる必要に迫られることもあるでしょう。しかし,その場合も,今のままでは相続を開始することはできません。

 
 そのような場合に利用できる制度の一つとして,認定死亡制度があります。
 認定死亡制度とは,震災,海難などの事変に遭遇し,死亡したことは確実だけれども遺体が発見されない等の事情により死亡が確認できない場合に,取調べをした官公署(警察署長等)が死亡地の市町村長へ死亡報告をすることにより,本人の戸籍簿に死亡の記載をする戸籍法上の制度をいいます。
 この記載がなされると,記載日に死亡したものとされ,相続が開始します。

 
 次に,利用できる制度として,失踪宣告があります。
 失踪宣告には,普通失踪と危難失踪の2つがありますが,震災の場合には後者になります。
 これは,震災,津波等の危難に遭遇し,その後1年間生死不明の状態が続いた時に,利害関係人の請求で,家庭裁判所が失踪の宣告をするもので,危難の去った時に死亡したものと見做されることになります。
 したがって,失踪宣告がなされると,危難が去った時に相続が開始していたことになります。
 失踪宣告の申立ては,利害関係人が,行方不明者の住所地の家庭裁判所にします。
 申立てを受けた家庭裁判所は,調査の後,公示催告(不在者は生存の届出をするように,不在者の生存を知っている人はその届出をするように,官報等で催告すること)をし,期間内に届出がなかった場合に,失踪の宣告をします。
 今回の震災でも,失踪宣告を申し立てなければ相続の開始しないケースが多数あると思われます。
 普通失踪では7年間の生死不明が要件となっていますから,危難失踪はそれに比べるとかなり期間が短縮されていますが,それでも,逼迫した経済状況下にあり,行方不明者の死亡に基づく給付等を必要とする方々にとっては,宣告までの時間は長いものです。

 
 そこで,厚生労働省は,5月2日に,「東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律」を公布,同日施行し,遺族基礎年金など死亡を支給事由とする給付を速やかに支給するために,行方不明になった方を死亡したと推定するまでの期間を,現行の災害発生後1年以降から3か月に短縮する措置等を実施しました。

 これにより,6月11日以降,遺族が申請をすれば遺族年金などを受け取れるようなるとのことです(ただし,失踪宣告の期間が短縮されるわけではなく,相続は宣告まで開始されませんので,注意が必要です)。

 
 大切な人の死亡という事実を前提とする手続きを選択しなければならない悲しみは察するに余りありますが,災害時には救済のために,このような様々な特別措置が用意されるということだけでも,是非覚えておいていただければと思います。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 角家 理佳◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2011年5月31日号(vol.79)>

 

【法律相談】台風による建物被害

 │ 長岡事務所, 弁護士佐藤明, 震災

Q.台風によって自宅の屋根瓦が吹飛び屋根等が壊れてしまいました。その後、建築業者が契約(設計図)どおりの屋根取付工事をしていないことが判明しましたが、建築業者は、台風のせいだといって責任を認めません。建築業者に対して損害賠償の請求ができるのでしょうか。

 

A.この場合の損害賠償請求(権)が考えられる法律構成は、いくつかありますが、本件が請負契約であることから、請負契約上仕事の目的物に瑕疵があった場合に請負人の担保責任として損害賠償請求できる旨の規定がありますので(民法634条2項)、これを中心に検討します。

 
(1)瑕疵とは
 ここで目的物の瑕疵とは、完成された仕事が契約で定められた内容どおりではなく、使用価値や交換価値を減少させる欠点があるか、当事者があらかじめ定めた性質を欠くなど不完全な点を有することと考えられています。すると、契約内容が瑕疵判断の重要な要素となるわけですが、契約内容がどうであったかは、契約書だけでなく、さらに設計図書(設計図と仕様書)などから契約内容が確定していきますから、本件のように設計図に反した建築であれば、瑕疵があったといえるでしょう(本件では契約と建築基準法との関係については省略します)。

 
(2)台風の影響は
 ただ、形式的に建物に瑕疵があっても、台風がいわば不可抗力として屋根の損壊もやむを得ないといえるような場合であれば請負人の担保責任を問うことは難しいでしょう。裁判例を見てみると、請負人の責任を肯定したものには、台風は、わが国において例年来襲し、かなりの風雨にみまわれることは公知の事実であるから、異例空前の台風であって、簡易建築はおおかた倒壊損壊するような場合以外、通常の台風に耐えうるものと期待するのが通常であるとし、そのような例外に当たらないケースであるとしているものがあります。

 
 これに対し、否定した例には、工法が、普通に用いられる工法で格別手抜きがなかったこと、台風による強風は未曾有ともいうべき強烈なもので、甚大な被害を生じたこと、同様の被害を受けた家屋が多数あったこと、建物の地形に被害を受けやすい特質があったことなどをもって、建物の被害を不可抗力としたものがあります。

 
(3)上記(2)では、いずれも具体的な事例を前提に判断したものであり、個々の事案を検討するしかありませんが、本件でも、契約違反の内容・程度と台風の状況(例年通り)で、賠償請求が出来る場合があることになります。

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 佐藤 明◆
<初出:顧問先向け情報紙「こもんず通心」2007年10月号(vol.21)>

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